代替テキスト
高齢者をターゲットに、あらゆる面で“負担増”が強いられることに……

経済協力に、投資の約束……広島サミットで海外首脳に“いい顔”をし続けた岸田首相。だが、国内、特に高齢者に向けては厳しいようで。大増税が待っている。

5月12日、75歳以上の後期高齢者の医療保険料を引き上げる法案が、可決・成立しました。若者世代の『出産育児一時金』を増額するためという名目で、2024年度から2年かけて、段階的に保険料が上がることになります。今後も、高齢者をターゲットに、あらゆる面で“負担増”が強いられることになりそうです」

こう語るのは、生活経済ジャーナリストの柏木理佳さんだ。第1次ベビーブームのときに生まれた「団塊の世代」の全員が後期高齢者となる2025年を目前に、さまざまな制度が改正されている。

たとえば医療分野では、昨年、一定以上の所得がある75歳以上の医療費の自己負担割合が1割から2割に増えている。

「2025年には、65歳以上の5人に1人が認知症になると予想されています。本来なら医療、介護で手厚いサービスが求められるはずですが、逆に負担が増してしまうという結果になりそうです」

では、高齢者にはどのような負担増が待ち受けているのだろうか。今回、年金が260万円(夫200万円・妻60万円)で、夫婦ともに在宅で介護サービスを利用している人をモデルケース(表参照)として、総務省の家計調査などをもとに、シミュレーションをしてみよう。

まず冒頭で触れた、後期高齢者の医療保険料の引き上げについて、ファイナンシャルプランナーの内山貴博さんが解説する。

「年収が80万円未満の方は、今回の保険料引き上げの対象とはなりません。つまり、現役時代は自営業などをしていて、夫婦共に基礎年金のみで生活する人は対象外となります。ところが、75歳以上の方で、年収が153万円を超えると、段階的に保険料が上がっていくことになります。夫婦合算ではなく、それぞれの収入で考えます」

収入によって、引上げ額が異なる。厚生労働省の試算によると、本誌のモデルケースのように、夫の年収が200万円の場合、2024年度は保険料が据え置かれるが、2025年度から年間3900円が引き上げられることに。

「年収400万円の人は、2024年度から1万4000円の引き上げ、年収1100万円の人は2024年度に6万円、2025年度に13万円引き上げられることに。今回の保険料引き上げは、後期高齢者の約4割の人が対象となります」

岸田政権がもくろむ“大増税”は医療保険料ばかりではない。毎月、支払っている介護保険料も、値上げの一途をたどっている。

「事業開始当初の2000年、要介護、要支援認定者は218万人ほどでしたが、2021年には682万人と、3倍近くに増えているためです。今後も利用者は増えるうえ、介護事業者の報酬も引き上げる必要があるので、介護保険料は上がっていくでしょう」(内山さん)

■ひそかに進行する介護負担“原則2割化”計画

では、どのくらい介護保険料が上がりそうなのか。柏木さんが解説する。

「2000年度に始まった介護事業ですが、当初の第1号被保険者(65歳以上)の介護保険料の“基準額”は全国平均で月2911円でした。それが現在は6014円と倍増しています」

第1号保険料の基準額は3年に1度改定される。来年2024年度が次の改定のタイミングだ。これまでも改定のたびに基準額は引き上げられてきた。過去には20%を超える大幅な引き上げがされたことも。

「2020年に発表された大和総研のレポートでは、2024年の基準額は7100〜7200円に引き上げられる見込みがあると、試算されています。今回も約20%もの引き上げの可能性が指摘されているのです」(柏木さん)

65歳以上の人が実際に支払う介護保険料は、こうして改定された保険料を基準額として、所得状況に応じて、各地自体ごとに定められた算出方法で決定していく。

基準額が7200円となった場合でモデルケースの家庭を試算してみよう。新宿区の計算方法で算出すると、夫の介護保険料は年額3万240円で3360円の値上げ、妻は年額2万1600円で2400円の値上げとなる。

「年金生活者のなかには、日々、数千円を節約し、なるべく貯蓄を取り崩したくないと努力している人も多くいます。医療と介護の保険料の引き上げは、そういう方にとって大きな負担になるでしょう」(内山さん)

介護保険料の負担が増えるのだから、介護サービスは使いやすくなるのだろうと期待したいところなのだがーー。ある介護関係者が語る。

「現在、介護保険を利用する9割以上の人たちは、自己負担は1割になっています。しかし、2024年度以降に、“原則2割負担”にしようという議論が進んでいるのです。対象になるということは、介護費用が2倍になるのと同じことです」

2022年に一般社団法人日本デイサービス協会が行ったアンケート調査によると「原則2割負担にする議論があることを知っている人」は、全体の24%。知らぬ間に、介護費用が引き上げられようとしているのだ。

「たとえば自己負担1割で、要介護1の夫が7〜8時間のデイサービスを週2回(1回800円、月額6400円、いずれも自己負担額、以下同)、要支援1の妻が訪問介護サービスを週1回(1回300円、月額1200円)利用した場合、夫婦の介護の自己負担額は年間9万1200円になります。自己負担が2割に増えれば、自己負担額が2倍の18万2400円になってしまいます」(内山さん)

さらに症状が進み、夫が要介護3になり、デイサービスを週3回(1回1000円、月額1万2000円)受け、さらに介護ベッド(月1000円)をレンタルするようになった場合、年間で15万6000円も増額されることになるのだ。

費用がかかるため、介護サービスの利用を控え、症状を悪化させた結果、認知症などが進行してしまうことも懸念される。

■物価高も止まらない……狂わされる老後計画

ここ1年、生活を苦しめている物価高も、もちろん高齢者世帯にとっても大問題だ。

「エネルギー価格は落ち着きを見せ始めているものの、ウクライナ情勢は先行きが見えず、さらに円安傾向も続いています。物価高も、続くことが予想されます」(内山さん)

仮に日本銀行が目指している物価上昇率2%が続いた場合、2025年にはどのくらい支出が増えているのだろうか。

「家計調査で、価格変動がしにくい住居費などを除いた75歳以上の世帯の1カ月の支出は19万2227円です。2年連続で2%ずつ物価が上昇すると、2025年には19万9992円と、月に7765円も支出が増えることに。年間だと、9万3180円の支出増です」(内山さん)

ここまで見てきた負担増をすべて合わせると、年間19万4040円もの負担増に。老後の設計が大きく狂う金額だろう。さらに、来年からは相続税の実質的な増税も予定されている。

揺りかごから墓場まで、とどまるところを知らない大増税に、われわれの生活はいったいどうなってしまうのだろうか。