ボクシング映画のレジェンドロッキー」シリーズからスピンオフした新シリーズ「クリード」。その最新作にして、主人公アドニスの過去を描く第3弾『クリード 過去の逆襲』で、主演のマイケル・B・ジョーダンが初監督デビューを飾った。彼が愛を公言してはばからない日本のアニメを取り入れたボクシングシーンの工夫と情熱、そして監督・俳優として、これからの「クリード」ユニバースの展開について語った。

【写真】鍛え上げた身体でボクシングシーンに挑んだマイケル・B・ジョーダン

■よりリアルなファイトシーンにするために試行錯誤

――初監督作品ですが、特にこだわった点を教えてください。

こだわりは全部だね(笑)。だけど第1作目の『ロッキー』から数えて、シリーズは9本目になる。だから、この作品は観客に新しいことを期待されていない、ということもわかっていた。そこで、逆に今回それを挑戦と捉え、それが間違っていると証明してやろうと思ったんだ。

ファミリーを物語るストーリーや、キャラクターの感情面は把握していた。だから、重要なのはボクシングだったんだ。「ロッキー」、「クリード」シリーズにファンが期待するのは、ボクシングシーンやトレーニングのモンタージュだろうから、まずはそれをしっかり描かなければと思った。

――ファイトシーンがリアルで圧倒されました! 過去2作を経験したことで、監督としてよりリアルに見せるために工夫した点はありますか。シリーズでは初めてIMAXカメラを導入されましたね。

ロッキー」シリーズはもちろん、「クリード」の前2作でも素晴らしいファイトシーンがあったから、観客の期待値が高く、そこで評価されるかもしれないことはわかっていた。よりクリエイティブに様々な方法で描こうと、試行錯誤した。今回、IMAXカメラを使うことで、映像としての情報量を増やすことができた。そしてボクシングのインテリジェンス、頭脳的な面も組み込みたかったんだ。打って打たれての繰り返しじゃなくて、ボクシングにおけるボクサーの思考にも触れたかった。ボクサーが目の前の敵のことをどう考えているのか。そんなキャラクターが思考する部分を、アニメでよく描かれているように、視覚的な言語で表現しようと思ったんだ。だから今作の3つのファイトシーンでは、それぞれ違う描き方をしたんだ。

最初のファイトでは、ボクシングのエレガントさと気品、そして知的な部分を描いた。次のデイムとフェリックスのファイトでは、暴力的で残忍な面を強調し、ボクシングというものがどれほど危険なものなのか、あえて観客に不快感を与えたかった。そして最後のファイトであるデイムとアドニスの戦いでは、その両方の側面を取り入れて、知性や思考、罠や危険性なども描きながら、個人の感情も乗せ、特にエモーショナルに表現した。こうしたファイトシーンのコンビネーションによって他の作品とも差別化できるし、本当にパーソナルなものになると思ったんだ。

――マイケルさんが日本のアニメ好きということは日本のファンの間でも有名です。日本のアニメを好きになったきっかけは?

隠してないからね(笑)。子どもの頃は、親友の兄とか、身近な年上の人に憧れるものだ。周りをちょろちょろうろついて、着ているものや靴なんかだね、彼らが夢中になってるものに僕も注目していた。カンフー映画とか、レーシングカーのDVDとか、そういったものの中に、アニメや日本の漫画があったんだ。一緒になってずっと見てたよ。床に座って、彼らがアニメを見る姿を見て、僕もアニメに触れた。その時以来、今もずっと夢中になっている。初めて観たときから恋に落ちたんだ。当時アメリカでアニメを見るのは難しかったから、ショッピングモールの露店みたいなところで、海賊版のDVDなんかを手に入れて観てた。5ドルぐらいだったかな。これが僕のアニメ愛への入口です。今でこそ、インターネットで調べることができるようになって、色んな作品に触れられるようになったけどね。

――特に好きな作品を教えてください。

お気に入りのアニメは、そうだな。人生に一番インパクトを与えたのは『NARUTOナルト‐』だね。それと『ドラゴンボールZ』が一番好きな作品だな。子どものころから一番観たよ。


■知り合いの監督みんなからアドバイスをもらった

――主演兼監督を務めるのには苦労があったと思いますが、監督と役者を両立するうえで、役者としての自分に影響を与えた部分はありますか?

ペースとリズムの大切さ、かな。それと、撮影後の編集で全体を作り上げる作業に入ったとき、もっと選択肢があれば…とかね。撮影に戻って、もうワンテイク撮り直したいとか、もっとこうしておけば良かったとか思ったよ。でも、もう無理なんだよね。俳優として次の作品でカメラの前に立った時は、それを考えるんじゃないかな。まだこの作品の後に役者として撮影に参加していないから分からないけど、脚本よりも良い作品にできるように、編集の時に監督にもっと多くの選択肢を与えられるようにすると思う。監督をしてみて学んだのは、監督が役者に対して本当に多くを求めていることがわかったことかな。

――出世作となった『フルートベール駅で』や『ブラックパンサー』、そして前作でタッグを組んできた盟友ライアン・クーグラー監督からアドバイスをもらいましたか?

ライアンにはたくさん助けてもらった。初めての監督作品なので、デンゼル・ワシントンブラッドリー・クーパー、クリストファー・ノーランなど、友人の監督全員に連絡して、気を付けるべき点などアドバイスをもらったよ。

――監督として今後撮ってみたい作品は?

ふた通り考えているんだ。まずは詐欺師を主人公にしたような、キャラクターが中心となる小さな作品。それか、世界観から一つ一つディテールを作り上げていくような大作だね。そういうタイプの作品が大好きなので、どちらかにしようと思っている。

ボクシング映画は“男性らしさ”の呪縛を語るのに最適

――話を本作に戻しますが、過去のトラウマを話すべきではないといった、男性らしさの呪縛やトキシック・マスキュリニティ(有害な男性らしさ)もテーマとなっていますが、ご自身でも経験がありますか?

あると思う。世代的なものでもあると思うけど、父や祖父は感情を多く語らない。特に黒人のコミュニティでは、多くのトラウマが受け継がれていると思う。だけどこれは世界的に共通する問題じゃないかな。男性は自分の感情について多くを語らない。涙を見せる事ができない。感情について話したら弱い人間だと思われる。本作では、自分の感情について話さなかったらどんな事が起きるのか。妻や子ども、家族といった、愛する人、そして自分自身にどんな影響を与えるかを見せたかった。たとえ男が自分の感情を語ったとしても、弱いということじゃないし、男らしさが損なわれるわけじゃない。逆に話すことでより強くなれると思う。特にボクシングは男らしいスポーツだとされているから、それを語る場としては最適だと思う。アドニスのソフトな面を、新しい側面として見せられればと思ったんだ。

――『クリード』としては3作目で、監督まで手掛けましたが、マイケルさんにとって『クリード』という映画、キャラクターはどんな存在ですか。

今や僕のレガシーにもなったものなので、とても大切で特別なんだ。この「クリード」シリーズを観て、アドニスに憧れを持ってくれた子どもたちを目にしたとき、特にそれを感じるよ。その中には『ロッキー』を観たことがない子もいる。彼らにとっては、この「クリード」シリーズが導入になるんだ。『ロッキー』が初めて世に出た時のファンや子どもたちの気持ちに思いを馳せたりもする。約50年経った今も、ファンに愛される長寿作であることはすごいし、『クリード』は僕のバージョンの『ロッキー』でもある。だからすごく特別だ。

今はさらに世界観を広げるチャンスがあって、アニメや漫画、テレビドラマ、スピンオフなど、新しく物語を広げることができる場がある。ユニバースとしてこの物語を広げることを考えているけど、ありきたりなクサイことだけはやりたくない。だからインパクトを台無しにしないように、本物を追及していこうと思っている。もしヤバいなと思ったら、皆さん、僕に連絡して止めてね。約束だよ。

(取材・文:寺井多恵)

 映画『クリード 過去の逆襲』は公開中。

マイケル・B・ジョーダン