名もなき負け犬が、一晩で伝説を打ち立てる——。アメリカンドリームを体現し、世界中を熱狂させてきた「ロッキー」シリーズ。そのDNAを継承したサーガの最新作『クリード 過去の逆襲』が公開中だ。ロッキー最大のライバルにして無二の親友アポロ・クリードの息子アドニスが人生を賭けリングに立つ本作で、アドニス役のマイケル・B・ジョーダンは主演だけでなく監督、プロデューサーを兼任。封印してきた自分の過去と対峙するドラマチックなストーリーに加え、スポーツ映画史上初めてとなるIMAX認証デジタルカメラでの撮影により、かつてない迫真のファイトシーンが実現した。本稿では、「Filmed for IMAX」だからこそ味わえる、本作の“IMAX推し”なポイントを解き明かしていこう。

【写真を見る】奇跡の肉体改造!マイケル・B・ジョーダンが30代後半で魅せた、バキバキの腹筋に驚嘆の声

第1作『ロッキー』(76)から世界中で愛されてきた「ロッキーサーガの9作目となる本作は、荒んだ少年時代を過ごしたアドニスが自分の心と向き合う魂の物語だ。ロッキー(シルヴェスター・スタローン)の指導でヘビー級世界王者になったアドニス(ジョーダン)は、現役を引退し若手を育てる平穏な日々を送っていた。そんな彼の前に、刑務所から出所したばかりのディミアン(デイム)・アンダーソン(ジョナサンメジャース)が訪れた。2人は少年時代を兄弟のように過ごしたかつての親友同士。デイムはかつてプロを目指す優秀なアマチュアボクサーだったが、アドニスの“過ち”がもとで逮捕され18年間も塀の中で暮らしていた。デイムに負い目を感じていたアドニスは、いまだプロを夢見る彼をサポートするが、その関係に次第に亀裂が生じていく。

■スポーツ映画史上初のIMAXカメラ撮影が実現した、誰もが未体験のファイトシーン

迫真あるボクシング描写が話題となってきた「クリード」シリーズ。本作でも冒頭の試合から、クライマックスのデイム戦まで臨場感あふれるファイトシーンが満載だ。度肝を抜かれるのが、激しく打ち合う選手たちを間近で捉えたカメラワーク。選手たちのステップに合わせ前後左右に流れるように躍動する映像は、没入感を超え実際にリングのうえにいるような感覚を味わえる。カメラは相手を見据える選手たちの目線からスタートし、ジャブを放つ瞬間に腕の高さにまで下がるなど、上下移動も手伝ってボクサーたちの一挙手一投足を体感的に味わえる。

さらに本作が特徴的なのは、クローズアップと超スローモーションコンビネーション。互いを見据える選手たちの表情や、パンチがヒットし飛び散る汗や顔面や肉体が波打つように歪む様を、映像のスピードを変えながら克明に描写。IMAXの圧倒的な情報量が生みだす緻密な映像は、驚異と呼ぶべき質感だ。

本作はワイドスクリーンと、より見える範囲がぐっと広がるIMAX画角が併用されており、IMAXシアターで鑑賞する場合、ドラマ部分がワイド、試合会場のスタジアム内がIMAX画角という使い分けがされていることが特徴だ。

また、同じくIMAXシアターでは、試合会場でも控え室や通路を歩くシーンはワイドで、リングのあるスタジアム内に足を踏み入れた途端にスクリーンが上下に拡張。スタンド最上階までぎっしり埋まった大観衆と大歓声が押し寄せるように降り注ぐさまは、震えがくるほど高揚感に満ちている。

ボクシングは互いに拳が届く範囲で展開するため、IMAXの画角と親和性が高い。左右に広いワイドと違い、IMAXはひざから上を写してもスクリーンいっぱいに選手たちが収まるため、自然と迫力ある画になるのだ。スポーツ映画にIMAXカメラが導入されたのは本作が最初だが、IMAX=スペクタクル映画という固定概念が180度くつがえされた。また観客の大声援が鳴り響くなか、選手たちが打ち合う音はもちろん、パンチが空を切る音までしっかり聞き取れるのも、高精度なサウンドを実現しているIMAXならでは。そしてもちろん、ジョセフチャーリーの壮大なスコアも、映像と相まって激闘を盛り上げている。

マイケル・B・ジョーダンが魅せる、全身全霊の熱演を体感

実話を基にした社会派ドラマ『フルートベール駅で』(13)で注目されたジョーダンは、28歳で『クリード チャンプを継ぐ男』(15)に主演。批評家はもちろん、世界中の映画ファンから支持されスターの仲間入りを果たした。その後、『ブラックパンサー』(18)のエリック・“キルモンガー”・スティーヴンス役などを経て今年36歳を迎えた彼は、本作で30代後半にして現役復帰するアドニスを見事に体現。加齢によって衰えた筋肉を取り戻していくさまに、妥協のない肉体改造で説得力を持たせた。「ロッキーサーガの名物と言える極限まで肉体を酷使する特訓の凄まじさも、本作ではさらにリアルに描かれており、ジョーダン本人のパーソナリティと重なる奮闘ぶりに注目してほしい。

ドラマ部分の核になるのが、アドニスの葛藤だ。かつての自分の行いを“なかったこと”と封じることで平静を保ってきた彼の心が、予期せぬデイムの登場で崩れていく。そんな彼の内面はファイトシーンにも投影され、試合中いつしか大観衆やレフェリーが姿を消し、暗闇に浮かんだリングのうえでアドニスとデイムが黙々とパンチを打ち合う心象シーンとして表現されていく。それはまるで、かつての親友同士が、殴り合いながら心を通わすようにも映るのだ。

クローズアップやスローモーションを含め、「NARUTO -ナルト-」や「はじめの一歩」などのコミックを彷彿とさせる映像表現は、以前から日本発のカルチャーへの愛を公言しているジョーダンらしいスタイル。大胆なビジュアルでキャラクターの内面を描くジョーダンのケレン味ある演出は、客席を包み込むIMAXなら、より没入感ある体験をもたらしてくれる。

■「ロッキーサーガのDNAを継承!奥深い感動を呼ぶ、熱いドラマ

ロッキーとアドニスが二人三脚で苦難を乗り越えてきた前2作から一転、アドニスが自分自身を乗り越えようと苦闘する姿を描いた本作は、人間ドラマとしてもこれまでにない展開を見せる。

かつて共に生きた仲間でありながら、過去に縛られ、アドニスへの怒りで心が満たされたデイムとの愛憎が入り混じった闘いはもちろん、アドニスが過去を隠そうとしたことで、互いに支え合ってきた妻ビアンカ(テッサトンプソン)との間にすれ違いが生じ、少年時代にデイムとの仲を裂こうとした母メアリー・アン・クリード(フィリシア・ラシャド)との関係にも亀裂が入ってしまうのだ。

そんななか、『クリード チャンプを継ぐ男』の元王者リッキー・コンラン(アンソニー・ベリュー)、『クリード 炎の宿敵』(18)のヴィクター・ドラゴ(フロリアン・ムンテアヌ)など、かつて死闘を繰り広げた好敵手たちが意外な形で登場するシーンには、胸が熱くなること間違いない。

心をかき乱される展開が連続する本作には、集中して鑑賞できる環境こそふさわしい。ジョーダンのふとした表情の変化や息づかいまで伝えてくれるIMAXならば、人間ドラマがもたらす奥深い感動を、より深く味わえることだろう。

選ばれし者のサクセスストーリーではなく、誰もが少なからず抱える過去への後悔と向き合い、それを乗り越えるためにもがく普遍的な姿を描いた本作は、これまでのシリーズファンを超えた、より多くの人々の胸に刺さるメッセージを持っている。先に公開された北米マーケットで、47年間続いてきた「ロッキーサーガ史上最大のヒットを記録したことが、そのなによりの証明だろう。空前のファイトシーン、そして共感を呼ぶ熱きドラマを、IMAXの環境で存分に味わってほしい。

文/神武団四郎

IMAX効果が抜群!『クリード 過去の逆襲』の没入体験を解説/[c] 2023 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.  CREED is a trademark of Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.