「どんな試合になるのか、検討もつかないわ」そんな風に私が困惑していたのは金曜日、リーガ37節のカードをチェックしていた時のことでした。いやあ、もう残り2試合ということで、今週末はセビージャvsレアル・マドリー戦以外、全てキックオフが日曜午後7時(日本時間翌午前2時)にunificacion(ウニフィカシオン/統一)されているんですけどね。要は他試合を気にせず、ゆっくり観戦できるのはマドリーだけということですが、何と土曜午後7時からのサンチェス・ピスファンでの試合前日、アンチェロッティ監督が出した招集リストにはFWが3人しかおらず。しかもそのメンバーが問題で、ロドリゴはともかく、残り2人は今季ずっと員数外だったアザルとカンテラーノ(RMカスティージャの選手)のアルバロ・ロドリゲスって、かなり頼りなく見えない?

いえ、もちろんベンゼマには水曜の試合で足を踏まれ、5針縫う切り傷を作りながら、フル出場したという理由がありますし、その兄弟分ダービーを、バレンシア戦で出されたレッドカードは取り消されていたものの、ヒザの痛みで欠場。ペレス会長と並んでパルコ(貴賓席)観戦することにしたビニシウスもアンチェロッティ監督が言うには、セビージャファンの敵対的な雰囲気を警戒してではなく、「no viaja porque no puede jugar/ノー・ビアハ・ポルケ・ノー・プエデ・フガール(プレーできないから遠征に行かない)」そう。アセンシオも筋肉痛でお休みとなったものの、やはりバルデベバス(バラハス空港の近く)のグラウンドに姿が見えなかったマリアーノについては正直、誰も気にしてないかと。

かといって、コンフェレンスリーグ出場圏の7位に届く可能性のあるセビージャが手ぐすね引いて待っているという訳ではなく、そう、彼らも今は来週水曜にブダペストで開催されるローマとのEL決勝しか眼中にありませんからね。一応、メンディリバル監督は「Si veo que no compiten, igual no son titulares ante la Roma/シー・ノー・ベオ・ケ・ノー・コンピーテン、イグアル・ノー・ソン・ティトゥラレス・アンテ・ラ・ローマ(競っていないのを見たら、ローマ戦のスタメンに選ばないかもしれない)」と記者会見で選手たちに警告していたものの、前節引分けたエルチェ戦で一発退場したゲイエ、累積警告になったヘスス・ナバスは出場停止。頭数合わせで、まだ負傷の治っていないジョルダン、マルコン、ニアンズを招集リストに入れたぐらいですからね。

前人未踏のSeptima(セプティマ/7回目の優勝のこと)をEL決勝で果たせば、来季のCL出場権も手に入るため、競争相手が6チームもいるコンフェレンスリーグのため、ちまちま戦っても仕方ないとセビージャが考えるのも当然ですが、そうなるとここ数節、お隣さんと2位争いを繰り返しているうち、ライバル心に火がついたんでしょうか。「Ahora no podemos quedar primeros así que hay que luchar por la segunda/アオラ・ノー・ポデモス・ケダール・プリメーロス・アシー・ケ・アイ・ケ・ルチャール・ポル・ラ・セグンダ(今ではもう1位にはなれないから、2位になるように戦わないといけない)」(カマビンガ)と、リーガでの目標を再設定したマドリーの方が有利にも見えなくありませんが…いえ、どっちもどっちですよ、きっと。

まあ、それはそれで置いておいて、今季最後のミッドウィークリーガのマドリッド勢がどうだったのか、お話ししていくことにすると。私はまず、水曜の早い時間帯に始まるマドリーとラージョの兄弟分ダービーをサンティアゴ・ベルナベウに見に行ったんですが、その試合は先週末、メスタジャで人種差別的野次や猿の物真似をされ、マリオ・ケンペス・スタンドの応援団と対峙したビニシウスにマドリーファンが連帯を示す絶好の機会に。Fondo sur/フォンド・スール(南側ゴール裏席)には「Vinicius somos todos, basta ya/ビニシウス・ソモス・トードス、バスタ・ジャー(私たちは全員、ビニシウス。もう沢山だ)」という横断幕が掲げられ、マドリーの選手たちも揃って彼の背番号20のユニを着て入場したんですが、何せ、今回の人種差別騒動はスペインだけでなく、全世界から非難される大ごとになってしまいましたからね。

そこで珍しく、競技委員会が速攻でメスタジャの該当スタンド5試合閉鎖(上訴委員会で3試合に)と罰金4万5000ユーロ/約700万円(同2万7000ユーロ/約400万円に)を申し渡し、警察も画像で確認できた人種差別行為をした18才から21才の3人を逮捕。バレンシアも彼らをスタジアムから永久追放しただけでなく、マドリッドの警察も時同じくして、1月末のコパ準々決勝マドリーダービー前日に高速道路にビニシウスの首吊り人形をぶら下げた19才から24才の男性4人を逮捕していたんですが、え?ラージョと言えば、ブカネーロス(過激なファンのグループ)もヤバいんじゃないかって?

そうですね、おかげでその日のベルナベウ周辺にはCLでもついぞ見たことのない程、大勢の警官がいたんですが、大丈夫。大体がして、ビニシウス本人がベンチにもいませんでしたしね。fondo norte/フォンド・ノルテ(北側ゴール裏席)最上階で応援していた500人程のラージョファンはよく、アウェイゲームに行くとホームファンたちから投げかけられる、「Vallecanos, yonkis y gitanos/バジェカーノス、ジャンキス・イ・ヒターノス(ラージョファン、ジャンキーでジプシー)」というカンティコを自虐的に歌っていたぐらいでしたから、全然、問題は起きませんでしたっけ。

そして試合の方は大舞台に張り切る弟分が序盤から、エリア外シュートを放って積極的に攻めていたんですが、まだ両チーム、無得点だった前半31分、クロースが機転を発揮。ええ、CKを守っていたイシが集団の中で倒れ、一旦、主審がプレーを止めた後、もらったドロップボールを素早くベンゼマに送ったんですよ。バルベルデを経由すると、最後はエースがGKデミトリエフスキをかわして、ゴールを決めてしまったから、ビックリしたの何のって。いやあ、後でイラオラ監督も「La mitad de mi equipo no sabía que sacaban ellos/ラ・ミタッド・デ・ミ・エキポ・ノー・サビア・ケ・サカバン・エジョス(ウチのチームの半数は相手ボールだと知らなかった)」と説明していたんですけどね。

そのせいでラージョが適切な守備体制を取れなかったのが失点の原因ですが、「Antes de sacar hay que aclarar de para quién es el saque/アンテス・デ・サカール・アイ・ケ・アクララル・デ・パラ・キエン・エス・エル・サケ(ドロップボールをする前にどちらのボールかはっきりさせるべきだ)」(イラオラ監督)というのは果たしてルールで決められていることなのか。私にはわかりかねますが、ラージョサイドの抗議も空しく、この1点はスコアに上がり、試合は1-0でマドリーがリードしてハーフタイムに入ります。

そして後半はマドリータランタランモードに入ったのもあり、トレホ、チャバリア、RdT(ラウール・デ・トマス)、ファルカオ、サルビと攻撃力アップの選手交代に特化したイラオラ監督の作戦がとうとう39分に実を結ぶことに。サルビの折り返しパスをRdTがエリア内からのシュートでGKクルトワを破り、彼のエスパニョール戦に続く、古巣への恩返しゴールでラージョは同点に追いついたんですが…。

あと終わりまで一息だった44分、昨季はCL決勝トーナメントマドリーの根性のremontada(レモンターダ/逆転劇)精神を体現したロドリゴにエリア前からゴールを決められてしまうとは!いやあ、当人によると、このゴールは「Fue para mi hermano y para Vini/フエ・パラ・ミ・エルマーノ・イ・パラ・ビニ(ボクの兄弟、ビニのため)」だったそうですけどね。入団も年も1つしか違わない、同じ肌の色をした彼の方にはまったく人種差別騒動を聞かないのはやっぱり、リーガにいた当時はヘイトクライムに相当する野次をかけられまくられていた、黒人ではないクリスアーノロナウド(アル・ナスル)やメッシ(PSG)のように、突出した選手だけが標的になるということ?

結局、そのまま2-1で負けてしまったラージョは翌日、バレンシアに勝ったマジョルカにも抜かれ、12位に落ちてしまったんですが、7位まで勝ち点差4というのは変わらず。日曜午後7時の試合ではEL出場圏の5位を確定しながら、まだ5差上のレアル・ソシエダの占める4位のCL出場圏到達を狙っているビジャレアルと対決するんですが、はあ。何でその上、やはり5差もあるアトレティコが、来季のスペインスーパーカップ出場権(コパ・デル・レイにマドリーが優勝したため、リーガ3位に回った)を脅かされている云々の流れにスポーツ紙がなってしまったのかというと。

いやまあ、この日曜、アトレティコメトロポリターノにここ7試合無敗、その途中ではバルサマドリーにも勝って、前節も久保建英選手のゴールで1-0とアルメリアを破ったレアル・ソシエダを迎えるのは確かですけどね。正直、原因は水曜のエスパニョール戦。だってえ、私が急いでベルナベウを後にし、メトロで移動している最中だった前半21分にはRCDEスタジアムでエルモーソのセンターからのロングパスを追って爆走したサウールが先制点をゲット。GKゲルビッチがparadon(パラドン/スーパーセーブ)連発だったのはラジオで聴いていても、近所のバル(スペイン喫茶店兼バー)に着いてすぐだった44分にはラッキーにも2点目が入ったんですよ。

そう、この時のサウールのシュートはGKパチェコに弾かれてしまい、続くカラスコゴールポストに当ててしまったものの、グリーズマンの最後の一撃をGKが掻き出した位置がゴールラインを越えていたとVAR(ビデオ審判)が連絡。おまけに後半開始数秒でコレアのエリア外からのシュートをパチェコが弾いたボールに詰めたカラスコが3点目を挙げたため、これは降格圏19位にいるエスパニョールにはあまりにきつい仕打ちだと私も同情してしまった程だったんですが、とんでもない。

19分にCKからモンテスがヘッドでゴールを決めて、反撃の狼煙を上げた相手は、モリーナがエリア内からのシュートを敵DFにゴール前でクリアされ、アトレティコが追加点のチャンスをモノにできなかったのが追い風になりましたかね。31分にはゲルビッチにプアドがエリア内で倒されてPKをもらうと、エースのホセルが決めて2点目。これで1点差になってもコレアとデ・パウルを下げ、カンテラーノのカルロスマルティンとバリオスを入れたシメオネ監督にもちょっと首を傾げたんですが、34分にはアレイシ・ビダルのクロスをビニシウス・ソウザに頭で叩き込まれ、とうとう3-3に追いつかれているって、一体、どうなっている?

うーん、前節のオサスナ戦ではクラブが設定したDia del Nino/ディア・デル・ニーニョ(子供の日)のお祭り効果で3-0と快勝していた彼らだったんですけどね。後でコケも「Desconexión total/デスコネクシオン・トタル(完全なスイッチオフ)」と言っていたんですが、1-0で負けたエルチェ戦同様、またアトレティコの選手たちはバケーションに入ってしまったよう。終盤は勝ち越し点を狙うどころか、コンドグビアとレギロンを入れて、何とかドローで御の字という結果に。ヒメネスなども「Siento vergüenza de lo que ha pasado/シエントー・ベルグエンサ・デ・ロ・ケ・ア・パサードー(起こったことを恥ずかしく感じる)。0-3で勝っていながら、引分けたなんて、子供たちにどう説明していいかわからないよ」と神妙にしていたんですが、シメオネ監督になってからでさえ、彼らは太古からの悪癖を完全に駆逐できていませんからね。

まあ幸い、アトレティコの2点目はボールが完全にラインを越えているのを示す映像がないため、バレンシアvsマドリー戦でウーゴ・ドゥーロに首を絞められているシーンが省かれ、ビニシウスが彼の顔を叩いたところだけ見て、主審が出したレッドカードが後日、取り消されたように、VARの落ち度により、無効試合にするよう、エスパニョールが申し立ているのもスルーされそうな感じですしね。こういう欠点もアトレティコあるあるとして受け入れるしかないかと。頸椎捻挫でこの試合をお休みしたモラタもレアル・ソシエダ戦には戻って来れそうですし、唯一、残念なのは2位をキープできなかったのはともかく、残留を争っている弟分、ヘタフェの援護射撃ができなかったことなんですが…。

とうとう勝てたんですよ、それも6位のベティスに。そう、アトレティコと同じ時間にキックオフしたベニト・ビジャマリンでは前半10分にエースのエネス・ウナルが負傷。ラタサと交代する逆境に見舞われたボルダラス監督のチームですが、相手がチャンスをことごとくムダにしてくれたのが運を引き寄せました。後半23分、ミジャの蹴ったCKをアンデレテがヘッドで撃ち込み、虎の子の1点を奪ったとなれば、翌日にはクラブがヘルタ・ベルリンからレンタルする際につけた買取オプション400万ユーロ(約6億円)を行使して、来季も彼にヘタフェの選手でいてもらうことにしたのも無理はない?

15分を残してベティスのペッツェラがレッドカードで退場したのにも助けられ、そのままヘタフェは0-1で逃げ切って勝ち点3を獲得。順位も18位から、降格圏外の16位へと上がったんですが、まだまだ安心するには程遠く、17位のカディスと18位のバジャドリーとポイント数が同じですからね。もうここは、コリセウム・アルフォンソ・ペレスで今季最後の試合となる日曜のオサスナ戦に何が何でも勝って、現時点で7チームが絡む最終節のガラガラドボンに巻き込まれないことを祈るばかり。返す返すも痛いのはヒザの靭帯断裂と診断されたウナルの欠場ですが、嘆いている時間もないため、ベティス戦ではDFがゴールを決めたように、残り2試合は全員がFWの覚悟で挑んでくれたらと思います。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。
サムネイル画像