高齢化の進行により要介護者も増加。それに伴い介護を理由に会社を辞めてしまう「介護離職」も増加する懸念が広がっています。特にまだ働き盛りというタイミングで会社を辞め長期介護となった場合、新たな悲劇が生まれることに。見ていきましょう。

1年で約10万人が介護離職…なかには40代も

厚生労働省令和3年度 介護給付費等実態統計の概況』によると、要支援者・要介護者(1年間継続して介護予防サービス、または介護サービスを受給した人)は393.7万人。ボリュームとして最も多いのは「要介護1」で日常生活や立ち上がり、歩行に一部介助が必要となる人たち。認知機能低下が少し見られる場合もあります。最も要介護認定の段階として最も重い「要介護5」は34.2万人で、日常生活全体で介助が必要で、コミュニケーションをとるのも難しい状態であることも多いです。

【要介護・要支援状態区分別「年間継続受給者数」】

要支援1:25.2万人

要支援2:39.0万人

要介護1:92.3万人

要介護2:82.6万人

要介護3:64.2万人

要介護4:55.9万人

要介護5:34.2万人

出所:厚生労働省令和3年度 介護給付費等実態統計の概況』より

厚生労働省では要介護認定の段階を判断するうえでの基準として、介護の手間にかかる時間である「要介護認定等基準時間」を定めています。「要介護5」となると1日2時間程度は介護に時間が割かれます。もちろんこの時間を確保できればいいわけではなく、“付きっきり”となるでしょう。

【要介護認定等基準時間の内訳】

要支援1:25分以上32分未満

要支援2/要介護1:32分以上50分未満

要介護2:50分以上70分未満

要介護3:70分以上90分未満

要介護4:90分以上110分未満

要介護5:110分以上

これだけの時間、介護に時間を要するとなると「仕事なんてしてられない」というケースも多いでしょう。厚生労働省『雇用動向調査』によると2021年、「介護・看護」を理由に離職した人は約9.5万人。男性は2.4万人、女性は7.1万人。

たとえば親の介護が必要となった共働き夫婦がいたとしたら。「仕事を辞める」という選択をするのは、自身の親の介護だろうと、義理の親の介護だろうと、夫よりも妻のほうが多そうです。また未婚率が上昇するなか、ひとり息子が親の介護をするというパターンも今後増えていくでしょう。そうなると男性の介護離職者もさらに増えていくかもしれません。

【年齢別:介護・看護を理由とした離職】

20~24歳:0.9/2.7

25~29歳:3.2/1.2

30~34歳:0.1/2.6

35~39歳:1.9/1.6

40~44歳:3.1/2.8

45~49歳:3.5/16.8

50~54歳:1.3/8.5

55~59歳:3.7/22.6

60歳以上:6.3/12.5

出所:厚生労働省『雇用動向調査』(2021年)より

※単位は千人

長期介護の末、自身も年金世代に…介護離職の成れの果て

一方で、生命保険文化センター『生命保険に関する全国実態調査』(2021年)によると、介護に要した期間の平均は5年1ヵ月。ボリュームゾーンは「4〜10年未満」で31.5%ですが、「10年以上」も17.6%に及びます。

もし「いずれは復帰しようと」考え、40代で親の介護のために離職した場合、その親は60代後半から70代ほどでしょうか。平均寿命から逆算すると、長期介護になる可能性は十分にあるでしょう。

60代後半であれば厚生年金は平均月14.0万〜14.5万円、70代で平均14.1万〜14.9万円。親の年金が平均的なものであれば、最低限の介護サービスは受けられ、金銭的な不安はなさそうです。

ただ親の介護のために離職した独身の40代男性、さらに介護は長期間に及び……。「もう、疲れた」と弱音を吐いても、単身者であれば周囲には頼れる人も少ないでしょうから、追い詰められるケースも多いといいます。在宅で介護する人のためのサポートも広がりつつありますが、十分とはいえません。

さらに心配なのが、介護がひと段落した後の介護者の生活。40代で介護離職し、気づけばこちらが年金をもらう世代に。そうなったとき、実際にいくらぐらいの年金を手にできるのでしょうか。20歳から会社員として働きはじめ60歳で定年退職。その間、サラリーマンの平均的な給与を手にしてきたとすると、65歳から手にできる年金額は厚生年金部分は9.8万円。国民年金と合わせると16.4万円ほどになります。一方、40代ギリギリ、49歳で介護離職をしたとすると、厚生年金部分は3万円減の6.9万円。国民年金と合わせると13.5万円ほどになります。

年金月3万円の差は、非常に大きいもの。総務省『家計調査』によると、単身高齢者の1ヵ月の支出は14万円ほど。最後まで勤め上げたなら、年金(手取り額)だけで暮らしていける水準です。一方、49歳で介護離職して年金受給年齢に達してしまうと、毎月3万円の赤字となる計算。1年で36万円、10年で360万円、20年で760万円……長生きすればするほど、その差を実感することでしょう。

また自身に介護が必要になったときのことを考えると億劫になります。単身者であれば身近に頼れる人がいないということも珍しくなく、施設への入居も検討となるでしょう。そうなると、金銭的な不安はさらに大きくなります。

厚生労働省は「介護に直面しても仕事を続ける」意識が重要だといいます。確かに、家族の介護となると、誰にも相談せず介護離職を決めてしまい、経済的にも精神的にも肉体的にも追い詰められることもあります。まずは自身の会社でどのようなサポートを受けられるのかを調べるとともに、高齢者の生活を支える「地域包括支援センター」やケアマネージャーなどにも相談。仕事と介護を両立する術を検討することが大切です。

(※写真はイメージです/PIXTA)