子育てを経験した人のなかには「子どもに受けさせないといけない予防接種が多くてびっくりした」と感じた人も多いでしょう。こんなにたくさんの予防接種を本当に受けさせなければいけないのか、そもそも予防接種を受けることにリスクはないのか、東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師が自らの経験を交えながら、正直に解説します。

あらためて子どもの予防接種について考える

日本の赤ちゃんが1歳前に接種する主なワクチンは6~7種類あります。何回か接種するワクチンもあり、接種回数はなんと15回以上にもなります。

近年、新型コロナウイルスの流行などもあり、予防接種のありかたについて考える機会も増えてきたなかで、

「こんなにたくさんの予防接種を本当に受ける必要があるのか」

「予防接種を受けることにリスクがあるのではないか」

「予防接種してもかかるのなら意味はない」

といった思いを抱く人も少なくないでしょう。

ただ、厚生労働省のホームページ「遅らせないで!子どもの予防接種と乳幼児健診」では、コロナ禍における受診控えや病院の受診制限などから、乳児健診や予防接種が適切な時期に受けられていない可能性があると記しています。

たとえば、新型コロナウイルス感染症COVID-19)の影響で、海外では、2021年に4,000万人の子どもが麻しんワクチンの接種を受けられなかったと報告されています。アフリカなどでは麻しんの流行が始まり、多数の死亡例が報告され、今後さらに大きな流行となる可能性が懸念されています。

また、東京都は2020年以来、3年ぶりに麻しんの感染が確認され、都内の男女2人が入院していることを、2023年5月12日に発表しました。麻しんは以前「命定め(いのちさだめ:麻しんにかかったら、生きるか死ぬかわからないということ)」と言われていました。 麻しんは医学が進み栄養状態がよくなった現在でも、肺炎や脳炎を起こす可能性が高い重篤な疾患でありながら、予防接種で予防する以外の根本的な治療法がないので「命定め」の病気であることに変わりはありません。

そこで今回は予防接種にはどのような意味があるのかについて、再度考えていきます。

そもそも予防接種とは

予防接種とはある病気を予防するために、その病気を引き起こす病原体(ウイルスや細菌)や毒素を前もって投与しておき、免疫を作ることです。

当然病原体や毒素をそのまま入れると病気になってしまうので、病原性を弱める処理をしたものを投与します。

接種が「努力義務」とされる定期接種のワクチンは以下のものがあります。

■ヒブワクチン

■肺炎球菌ワクチン

■B型肝炎ワクチン

■四種混合ワクチン(百日咳破傷風ポリオジフテリア)

■BCG(結核予防)

■MRワクチン(風疹麻疹)

■水痘ワクチン

■日本脳炎ワクチン

■HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン

また、接種が各自の判断に任せられた「任意接種」のワクチンは、インフルエンザやおたふくかぜ、ロタウイルスなどがあります。

これらのリストを初めて見た人は、その多さに驚くと思います。予防接種は1度に何種類も接種可能ですので、右腕に2本、左腕に2本、さらにロタウイルスワクチンを経口接種した、なんてこともあります。

これだけのワクチンを打つ必要があるのかというのも当然の疑問でしょう。では、なぜこんなにも多くのワクチンを接種する必要があるのでしょうか。

子どもの頃にワクチンを受けるべき理由

前項で見てきたように非常にたくさんのワクチンが存在しそれを生後数ヶ月の赤ちゃんに打たなければいけません。そのことに抵抗を感じること自体はおかしいことではありません。しかしワクチンを接種しない不利益は非常に大きいのです。

生後間もない乳幼児は免疫機能がまだ発達しきっていません。また病原体に触れたこともないので免疫の獲得もできていません。その状態で感染症にかかると重症化のリスクは大きく上がってしまいます。

ときどき「あまり罹っている人を見ないから予防接種を受ける必要があるのか疑問」という人がいますが、「予防接種をみんなが受けているからこそ、かかる人や重症化する人があまりいないのである」ということを認識する必要があります。

たとえば、今では生後2ヵ月から接種することができるHib(B型肺炎球菌ワクチン:Haemophilus influenza type b)と小児用肺炎球菌ワクチン(7価結合型肺炎球菌ワクチン:pneumococcal conjugate vaccine:PCV7)は、米国より20年遅れて2008年12月と2010年2月にそれぞれ接種できるようになりました。

重篤な後遺症が生じる可能性がある細菌性髄膜炎はHibと肺炎球菌が80%を占めていましたが、予防接種の導入後、Hib髄膜炎が100%,肺炎球菌髄膜炎が71%減少したと報告されています。

副反応の心配は?

ワクチンの話になると必ず意識されるのが「副反応」です。予防接種の副反応はよくあるものとしては発熱や接種部位の腫れなどがあります。重篤なものとしては、けいれんやワクチンの成分に対して強いアレルギー反応がおこるアナフィラキシーなどがあります。

ワクチン接種の重篤な副反応については厚生科学審議会でまとめられ結果が公表されています。この統計は接種後に健康状態が変わったものを集計しているのでワクチンとの因果関係が考えにくいものも含まれています。

その上で、ワクチンの重篤な副反応は10万接種に1例程度と考えられます。ピンとこない人のために比較対象を見て見ましょう。

食べ物で重篤なアレルギーであるアナフィラキシーを引き起こした児童の割合は小学生で0.15%と言われています。つまり1万人中1.5人が何かしらの食べ物で重いアレルギーを引き起こしているということになります。

ワクチン接種によるアレルギーの頻度10万接種で1人ですので、食べ物によるアナフィラキシーの頻度を下回るのです。

こうした数値からも、ワクチン接種をするリスクよりも、ワクチン接種をしないリスクのほうがはるかに大きいことがわかります。

まとめ

今回は子どものワクチン接種について見ていきました。生まれたばかりの子にワクチンをいくつも打つのは抵抗があるという思いは、なんらおかしくはありません。

しかし、データを見てみると、予防接種の意義は非常に大きいものです。接種しないことで重篤な感染症による死亡や後遺症のリスクが跳ね上がってしまいます。

自分で予防接種するかを選べない子どものためにも、ワクチン接種はしっかりと行うことが重要です。

秋谷 進

東京西徳洲会病院小児医療センター

小児科医

(※写真はイメージです/PIXTA)