近年、インターネット上での誹謗中傷が社会問題となっています。もしX(旧Twitter)で誹謗中傷をされた場合、どのようなケースであれば名誉棄損罪が成立するのでしょうか? 本記事ではX(旧Twitter)での誹謗中傷に対する法的対応について、Authense法律事務所の弁護士が解説します。

X(旧Twitter)での「誹謗中傷」

X(旧Twitter)とは、140文字以内の短文と投稿(ツイート)するタイプのSNSです。 他人の投稿を見て「いいね」を押したり、ツイートに返信をしたり、相手の投稿を引用(リツイート)して意見を付したうえで投稿したりすることなどができます。

X(旧Twitter)は匿名で利用している人が多く、誹謗中傷がしばしば問題となっています。X(旧Twitter)での誹謗中傷は、相手の投稿に対して返信をする形や、相手の投稿をリツイートしたものに相手を中傷する内容を記載する形など、さまざまな形式で行われています。

X(旧Twitter)での誹謗中傷に対する「法的対応」の方法

X(旧Twitter)での誹謗中傷をされた場合、考えられる主な法的対応には、次の3パターンが存在します。

1.刑事告訴

1つ目の対応方法は、相手を刑事告訴することです。誹謗中傷は、その内容によって刑法上の名誉毀損罪侮辱罪などに該当する可能性があります。これらの罪は、被害者側から告訴がなければ起訴することができない「親告罪」とされています。そのため、相手をこれらの罪に問いたい場合には、刑事告訴をしなければなりません。

その結果、相手が起訴された場合には、相手に前科がつくこととなります。もっとも、警察に告訴をしたからといって、告訴状を速やかに受理してくれるとは限りませんので、まずは弁護士にご相談いただくことが推奨されます。

2.損害賠償請求

2つ目の対応方法は、相手に対して損害賠償請求を行うことです。損害賠償請求では、誹謗中傷をした相手に対し、受けた損害に対する金銭の支払いを請求します。

誹謗中傷で認められる損害賠償額は、その内容や頻度などによって、数万円程度という場合から100万円以上の請求が認められる場合まで、さまざまです。あらかじめ弁護士へご相談いただくことで、その事例に応じて認められそうな損害賠償額の目安を知ることが可能となるでしょう。

なお、損害賠償請求は民事上の概念であり、先ほど解説した刑事告訴とは別の問題です。そのため、刑法上の名誉毀損罪などに該当するかどうかの判断基準と、損害賠償請求が可能かどうかの判断基準などは必ずしもまったく同じというわけではありません。

損害賠償請求について裁判所が判断するのは「その投稿が名誉権や名誉感情を侵害するかどうか」です。さらに、その投稿が誰のことを指しているのかが他者が見てわかるかどうか(「同定可能性」といいます)という点も、損害賠償請求が認められるかどうかのポイントの1つとなります。損害賠償請求が認められるかどうかを個人で判断することは容易ではありませんので、まずは弁護士へご相談ください。

3.削除依頼

3つ目の対応方法は、投稿の削除請求をすることです。ただし、削除請求をするかどうかの判断は慎重に行うべきでしょう。なぜなら、先に投稿が削除されてしまえば、適切に証拠保全がなされていないと、上で解説をした刑事告訴や損害賠償請求への対応が困難となるためです。

また、X(旧Twitter)社へ任意に削除請求をしたからといって、必ず応じてもらえるわけではなく、むしろ応じてもらえないことのほうが多いといわれています。そのため、削除請求をしたい場合には、弁護士へご相談いただくことをおすすめします。

「名誉棄損罪」となる条件と刑罰

X(旧Twitter)での誹謗中傷が刑法上の名誉毀損罪に該当するための条件と、名誉毀損罪の法定刑はそれぞれ次のとおりです。

名誉棄損罪が成立する条件

名誉毀損罪とは、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」ことに対する罪です。 これを分解すると、X(旧Twitter)での誹謗中傷が名誉毀損罪に該当する条件は、次のとおりです。

1. 公然と行われたものであること:ほかのユーザーが見ることのできる場への投稿であることです。

2. 事実を摘示したものであること:「Aは会社の金を横領している」「Aは不倫をしている」など、事実を示したものであることです。なお、ここでいう「事実」は「本当のこと」という意味ではありません。そのため、Aが実際には横領や不倫をしていなかったとしても、この条件を満たします。

3. 名誉を毀損したものであること:相手の社会的評価を下げることです。

これを踏まえると、たとえばA氏がしたツイートへ返信をする形で「Aは不倫三昧だ」などと投稿する行為や、A氏が自撮り画像を載せたツイートを引用リツイートして「Aは整形しているのにぶすだ」などと投稿する行為は、名誉毀損罪にあたる可能性があります。

一方、たとえ同じ内容であったとしても、個別のダイレクトメールで送られたのであれば、原則としては名誉毀損罪には該当しません。なぜなら、「公然と」という要件に該当しないためです。

名誉棄損罪の刑罰

名誉毀損罪の刑罰は、「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」です。

「侮辱罪」となる条件と刑罰

X(旧Twitter)での誹謗中傷が刑法上の侮辱罪に該当するための条件と、侮辱罪の法定刑は、それぞれ次のとおりです。

侮辱罪が成立する条件

侮辱罪とは、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した」ことに対する罪です。名誉毀損罪と似ていますが、事実の摘示が不要とされている点が大きく異なります。そのため、たとえばX(旧Twitter)投稿への返信や引用リツイートなどで「ぶす」「キモいから消えて」などと投稿する行為などは、侮辱罪にあたる可能性があります。

一方、侮辱罪でも「公然と」が要件とされているため、1対1のダイレクトメールでの発言であれば侮辱罪は原則として成立しません。

侮辱罪の刑罰

侮辱罪の刑罰は現在、「1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」です。以前は「拘留又は科料」のみであったところ、刑罰が軽すぎるとの指摘が高まり、現在の内容へと改正されました。これは、テレビ番組に出演していた女子プロレスラーがX(旧Twitter)での誹謗中傷を受け、命を絶った事件を契機とするものです。

誹謗中傷をしてきた相手を特定するには?

X(旧Twitter)で誹謗中傷をされた場合、相手に対して損害賠償請求をしたり刑事告訴をしたりするためには、相手が誰であるのか特定ができていることが前提となります。そのため、損害賠償請求などをする前に、誹謗中傷をした相手を特定しなければなりません。誹謗中傷をした相手を特定する方法は、次のとおりです。

X(旧Twitter)社に発信者情報を開示させるための仮処分をする

まず、誹謗中傷の舞台となったX(旧Twitter)社に対し、発信者情報の開示請求を行います。ただし、任意に開示請求をしたところで、開示される可能性はほとんどありません。そのため、裁判所の手続きを利用して発信者情報の開示をしてもらうことが必要です。この手続きを経ることで、プロバイダへの開示請求に必要となるIPアドレスとタイムスタンプが判明します。

プロバイダに発信者情報開示請求をする

X(旧Twitter)社からIPアドレスなどの開示を受けたら、入手した情報をもとにプロバイダへ発信者情報開示請求を行います。こちらも任意では開示してもらえない可能性が高いため、改めて裁判所の手続きを利用することがほとんどです。ここまでの手続きを経ることで、ようやく発信者の氏名などの情報がわかります。

なお、これら発信者情報の開示手続きにトータルでかかる期間は、おおむね半年から1年程度です。ただし、令和4年10月に施行された改正プロバイダ制限責任法により2段階の仮処分手続きを併合できるようになったため、所要期間の短縮が期待されています。

誹謗中傷を受けたら…まず行うべき対応

X(旧Twitter)で誹謗中傷を受けてしまった場合、初期対応を誤れば損害賠償請求などの法的責任の追求が難しくなる可能性があります。誹謗中傷について法的責任を追求したい場合にまず行うべき対応は、次のとおりです。

スクリーンショットを撮影して証拠を残す

自分を誹謗中傷する内容の投稿を見つけたら、まずはその投稿のスクリーンショットを撮影しましょう。スクリーンショットは、URL、投稿の内容や投稿の日時、相手のユーザー名などがはっきりと写るように撮影してください。

なお、X(旧Twitter)にはアカウント表示名とユーザー名が存在します。アカウント名とはいわゆる表示名のことであり、簡単に変更が可能です。一方、ユーザー名は「@」から始まるそのアカウント固有のものであり、変更はできますが他のユーザーと同じユーザー名は使用できません。

そのため、スクリーンショットを撮る際には、相手のアカウント名のみではなく、ユーザー名まで写るように撮影するとよいでしょう。スマートフォンから閲覧している場合など、環境によっては投稿画面ではユーザー名の表示が途切れている場合もありますので、注意が必要です。可能であれば、相手のプロフィールページのスクリーンショットも撮っておいてください。

無理に自分で対応しようとしない

誹謗中傷をされた際に、無理に自分で対応しようとすることはおすすめできません。特に注意すべき対応は、次の2点です。

相手へ返信しないこと

誹謗中傷をされた場合、相手に対して言い返したくなる気持ちはわかります。また、投稿された内容が事実とは異なる場合、反論したくなる場合もあるでしょう。

しかし、相手へ言い返したり、相手へダイレクトメールを送ったりすることはおすすめできません。なぜなら、このような行為をすると、さらなるトラブルの原因となる可能性があるためです。また、言い返した内容によっては、損害賠償請求などをするにあたって不利となる可能性もあります。

安易に削除請求をしないこと

誹謗中傷をされたとしても、安易に削除請求をすることはおすすめできません。なぜなら、削除請求が認められて投稿が削除されてしまうと、証拠が消滅してしまうことになるためです。先に削除請求をしてしまえば、適切に証拠保全ができていない場合、損害賠償請求が難しくなる可能性があるでしょう。

早期に弁護士へ相談する

X(旧Twitter)で誹謗中傷の被害にあったら、できるだけ早く弁護士へご相談ください。なぜなら、早期に対応しなければログの保存期間が過ぎてしまい、発信者情報の開示請求が難しくなってしまうためです。

ログの保存期間はSNS各社で異なりますが、X(旧Twitter)では90日間といわれており、この期間を過ぎると、IPアドレスやタイムスタンプの開示を受けることが困難となります

また、相手が投稿やアカウントを削除する可能性がある点からも、できるだけ早期の相談をおすすめします。可能であれば、誹謗中傷を受けた当日や翌日の相談が望ましいでしょう。

まとめ

X(旧Twitter)での誹謗中傷は非常に多く、社会問題となっているほどです。もしX(旧Twitter)で誹謗中傷されてしまったら、できるだけすぐに弁護士へご相談ください。誹謗中傷への対応は、初動が非常に重要となります。早期に弁護士へご相談いただくことで損害賠償請求が認められる可能性が高まるうえ、断固として対応することを公表することで、以後の誹謗中傷を防ぐ効果も期待できるためです。

参考文献

※ X(旧Twitter)ヘルプセンター:執行機関/捜査機関向けガイドライン

Authense 法律事務所

(※写真はイメージです/PIXTA)