
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が韓国でも大ヒットしている。上映からひと月で約220万人を超える観客が劇場に足を運び、今年公開された映画ではTOP4になっている。
「マリオ映画」ヒットで実感した、任天堂ファンの存在観客の半分以上はZ世代(韓国ではMZ世代)で、実際に劇場に行くとほとんどがこの世代だった。
韓国のZ世代にも「スーパーマリオ」は「ファイナルファンタジー」と並んで人気のゲームだ。劇場に来ていた30代の二人連れは、「ゲームで遊んだ思い出のキャラクターがしゃべって動いて飛び回って、それだけで感動しました。すっごく面白かったです」と弾んだ声で言い、久しぶりにゲームもやりたくなったと笑っていた。
8歳の息子さんを連れて観に来ていた30代の夫婦は、「ゲームが大好きだったので、子供も連れてきてみました。この子もとても楽しんでいて、彼にとっても思い出のキャラクターになると思います」と話していた。
50代後半の知人は20代の娘さんがマリオファンだったため一緒に観に行ったそうで、「子供が幼い頃にゲームをしていた頃の姿が思い浮かんで、当時のことをいろいろ思い出しました」としみじみ。筆者は映画で流れた音楽が懐かしく、映画を観ながらやはりその頃のことを思い出したりした。日韓共通の思い出のマリオなのだ。
ネットの掲示板にも「思い出のゲームをそのまま再現した映画」、「(マリオ)ファンへの最高の贈り物」、「映画を観たら久々にまたやりたくなった」などの書き込みが並んでいる。
任天堂は3年前にも「あつまれ どうぶつの森」を韓国で大ヒットさせた。徴用工問題を巡り日本が韓国へ輸出規制を行ったことに対し韓国では「ノージャパン」が叫ばれ、日本製品の不買運動が続いていたなかで異例といわれた。当時は代わりになる韓国製品がなかったためとも分析されたが、今回の映画のヒットをみると、スーパーマリオ世代からの任天堂ファンが脈々と続いていることがわかる。
家族で楽しめるゲームというのも大きなポイントで、韓国では家族の月とされる5月の3日からは韓国のコンビニエンスストア最大手「GS25」が、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』とコラボしたサンドイッチ、おにぎり、パンなどの商品の販売を開始している。
余談だが、韓国ではコンビニ間の競争商品としてスターやアニメ作品とのコラボ商品がたびたび登場する。漫画『クレヨンしんちゃん』は90年代から韓国でも人気が衰えず、弁当や菓子などとコラボしており、業界3番手のセブン-イレブンでは、5月6日からサンリオとのコラボでキティちゃんキャンディやサンリオキャラクターの手提げバッグなどの販売を新規に始めた。
Z世代と観光客の街、弘益大付近のセブン-イレブンに行くと、キティちゃんキャンディの隣にはクレヨンしんちゃんが並んでいた。話を聞くと、「どちらもすごく売れている。この間はベトナムからの観光客が大量に買っていって、手提げバッグなんかは20個購入していきましたよ」と店主は話していた。
『SLAM DUNK』『すずめの戸締まり』…日本のアニメ映画がヒット続き『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』だけではない。今年に入り、日本のアニメーション人気は爆発的なものになっている。
1月には『THE FIRST SLAM DUNK』が漫画世代から映画で初めて知ったというZ世代までを巻き込んで今もブームとなっている。数回映画館に足を運ぶ人も多く、こうした人気ぶりに韓国ではアニメーション史上最高の観客を動員するかもしれないといわれたが、3月に公開された新海誠監督の『すずめの戸締まり』があっさりとそれを超えた。
韓国での新海監督人気は絶大だ。2017年に公開された『君の名は。』も363万人の観客を動員し、日本映画でダントツの記録を持っていたが『すずめの戸締まり』はそれを大きく超えた。公開からわずか2カ月で500万人を超え、韓国スターが出演した韓国映画を大きく引き離し、今年公開された映画でトップの興行成績を収めている。
筆者も『すずめの戸締まり』が公開されてすぐに劇場で観たが、実は韓国でこれほど大ヒットするとは思わなかった。同作の観客もZ世代が7割を超えており、東日本大震災をベースに、日本の神話や日本で起きた自然災害を扱った映画が韓国の人の心に響くとは思えなかった。やはり、書き込みを見ると、「すばらしい映像美」や「アニメーションの美しさ」という内容が目立った。
ところが、中には、「実際の地震の被害者を傷つけることになるかもしれないが、一つ言えることは(起きたことを)そのままに勇気を持って映画に落とし込んだ力を感じる」や「わたしたちにセウォル号の痛みがあるように、彼らが持つ3・11大地震の痛みをこんなふうにほどくなんて。涙が出る」というのもあった。
自然災害と人的災害の違いはあっても、日韓それぞれが体験した記憶の中にある痛みを、映画を通して想像できるのだなあとあらためてエンタテインメントの力を実感した。
韓国映画は不振続きこうした日本アニメの快進撃に韓国のエンタテインメント専門記者からは、「しばらく眠っていた日本のエンタテインメントの復活ですね」と言われた。そんなことをいうのは同時期に公開された韓国映画が軒並み不振なこともある。
『THE FIRST SLAM DUNK』が公開された2週間後には、ドラマ『愛の不時着』で日本でも人気のヒョンビン主演の映画『交渉』の上映が始まったが、観客動員で約172万人(5月28日)と期待外れの結果に。
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』公開と同日(4月26日)にはパク・ソジュン(『梨泰院クラス』)とIU(『マイ・ディア・ミスター ~私のおじさん~』)の二大スターが共演した『ドリーム』が鳴り物入りで公開されたが、こちらも軍配はマリオへ上がった。『ドリーム』(5月28日)はおよそ111万人の観客数とマリオの半分ほどだ。
ちなみに『クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』(2022年)は公開から3週間で65万人の観客を動員し、16位となっている。
前出の記者が言う。
「韓国映画の不振は、最近は劇場にいかなくともNetflixなどの配信サービスで上質の映画が観られるようになったこともあるし、ドラマのほうがよっぽど面白いという声も増えている。映画館は相当な苦戦を強いられてどこも赤字ですが、それを最小限に食い止めてくれているのが日本のアニメですよ」
アサヒスーパードライ生ジョッキ缶、ユニクロも人気映画だけではなく、韓国では今年に入り、“日本”があふれている。
先日テレビを観ていたら、「アサヒスーパードライ生ジョッキ缶」のCMが流れて驚いた。来る7月から韓国で本格的に販売する前に限定発売をしたところ、売り切れが続出したと報じられ、コンビニ店主の「売りたくとも在庫がなくて売れない」と言うコメントが取り上げられていた。ユニクロも以前の売り上げが戻ってきており、韓国のファストファッションでは売り上げ1位になっている。
こんな現象に韓国メディアは「ノージャパンからイエスジャパンへ」とだじゃれのようなフレーズを使い、Z世代の「日本観」を「歴史と文化はツートラックの別の感情」と報じた。韓国の政権がかわり、膠着していた日韓関係が動き出し、個人の嗜好と消費をひとくくりにしようとした韓国社会の雰囲気が変わったことも大きいだろう。しかし、イエスもノーもなく、いいものはいいし、観たいものは観たいし、面白いものは面白いのだ。
日本アニメの人気を追い風に実写版にも関心が集まっており、今もっとも注目されているのは小松菜奈主演の『余命10年』(2022年)で、韓国では5月24日から公開が始まっている。
また、韓国映画では5月31日に公開されるトップスター、マ・ドンソク主演の人気シリーズ『The Roundup:No Way Out(犯罪都市3)』が韓国映画復活への一歩となるかへ期待が集まっている。マ・ドンソク演じる怪物刑事と犯罪組織との闘いを描いたこのシリーズの前作(2022年)はコロナ禍にもかかわらず1千万人の観客数を超える大ヒットとなった。
シーズン3にはキーマンとなる悪役のひとりとして日本の俳優、青木宗高が出演しており、シリーズファンの間では特別出演している國村隼の話題で持ちきりだ。國村隼は韓国映画『哭声/コクソン』(2016年)で韓国にも根強いファンがいる。
(菅野 朋子)

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