長野県中野市5月25日、近隣女性や警察官ら4人が死亡した事件で逮捕された男性は、猟銃など複数の銃を所有していたとされている。

猟銃などを所持するには、警察への許可申請が必要。都道府県公安委員会が認めれば証明書を発行する。危害を防ぐ観点から、銃刀法では欠格者の要件が決まっており、本人や家族のほか、近隣住民や勤務先などからも周辺調査をするという。

報道によると、男性は猟銃や空気銃など計4丁の所持許可があったという。手続きや調査はどのように行われるのか。元警察官僚で、予備自衛官として銃の訓練にも参加したことがある澤井康生弁護士に聞いた。

●適格か否かは身辺調査で判断

銃刀法5条1項では、銃を所持するにあたって欠格事由を定めています。虚偽申請、破産者、精神障害者、薬物中毒者、責任無能力者、住居不定、ストーカー規制法による警告や命令を受けた者、DV法による命令を受けた者などです。

警察はこれらに当たるかどうかを確認するために、申請者本人の面接調査、同居家族からの事情聴取など周辺調査をします。また、近隣住民、本人の勤務先、取引先、狩猟仲間、友人等の中から適当な者を指名させて調べます。

●通達あれど判断は至難のわざ

欠格事由のうち「​​他人の生命、身体、財産、公共の安全を害し、自殺をするおそれがある相当な理由がある者」(18号)については、警察庁が通達を出しています。

主な類型として近隣トラブル、つきまとい、経済的破綻、自殺のおそれ、児童虐待・高齢者虐待、男女間トラブル、親族間トラブル、動物虐待、暴力的性格、適応障害が挙げられています。

男性の動機は不明ですが「ひとりぼっちを罵られたと思った」と供述しているとも報じられています。

ただ、実際に現場の担当警察官が、こうした精神状況にあるかどうかを把握するのは容易ではありません。110番通報や被害相談などがあれば別ですが、危険な兆候が表面化しない限り、警察官としては事実上つかむことは難しいからです。

現行制度の下で複数の銃砲所持を申請された場合には、申請時や3年ごとの更新時に銃砲の追加所持の必要性を厳しく審査するとともに、危険な兆候がないかどうかの情報収集を継続するほかないと思います。

​​そして本人に危険な兆候が見られた場合には積極的に仮領置(取消事由が認められそうな場合に正式な取消しをする前にとりあえず仮に銃砲等を領置する制度)や提出命令(更新手続きにおける調査の間に、申請者に危険な兆候が確認された場合には、銃砲等の提出を求める制度)の措置を取ることが重要です。

【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(3等陸佐、少佐相当官)の資格も有する。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/

長野4人殺害、なぜ犯人に銃所持を許可したのか? 元警察官僚「精神状況の把握は容易でない」