ハロプロのアイドルグループだった「メロン記念日」の元メンバー、大谷雅恵さんが4月、大手ネイルサロン正社員として入社したとインスタグラムで報告しました。

ファンやフォロワーからは、応援のコメントが寄せられていましたが、大谷さんのインスタグラムでは、ネイリスト研修に必要な道具の写真とともに「どんどんお金が…初期投資!」と書かれていました。また、ネイルサロンで着用する服装にもルールがあるようで、新たに服も買ったそうです。

一般的に社員が仕事で使う制服や道具について、会社が支給したり、貸与したりします。ところが、ネイル業界では「道具をそろえるのは自腹」というのが常識なようです。

都内でネイリストとして働く女性Aさん(20代)は、「今まで3カ所のネイルサロンで働いてきましたが、道具はすべて自分で買ってそろえました。サロンが買ってくれたり、貸してくれたりしたことは一度もありません」と話します。

また、同じく都内でネイルサロンを経営する女性Bさん(40代)は「うちは社員が使うものはすべてサロン側で用意しています。ただし、自分で言うのも変かもしれませんが、この業界ではとても珍しいと思います」と言います。

イリストの必需品に、キューティクルニッパーと呼ばれる甘皮をカットするハサミがあり、高いと数万円もするそうです。また、爪にジェルを塗るジェルブラシは何本も必要になりますが、高価なものだと1本につき数千円はかかるといいます。

「業界の慣習」とはいえ、ネイリストに道具代の負担を強いることについて、ネイルサロンに違法性はないのでしょうか。労働問題にくわしい笠置裕亮弁護士に聞きました。

●「契約の内容にない支出の強制は違法」

——大谷さんは正社員とおっしゃっています。道具を自腹で購入するよう指示された場合は、従わないといけないのでしょうか。一般的な労働環境を考えると、違和感を覚えてしまいます。

今回のケースで、特徴的なのは、ネイリストとして働くにあたっての必需品である道具が自腹とされてしまっていることです。

これがなければ働くことができず、スタートラインにも立てないということですから、ネイリストの方としてはやむを得ず自腹を切らざるを得ないという状況に追い込まれているのではないかと思います。

賃金等の労働条件については、契約書等の形で労働者に明示しなければなりませんが、業界の慣習だったということですから、明示されていたわけではなかったのではないでしょうか。そうなると、業界の慣習を知らない初めてネイリストとして勤務する方にとっては、契約書にも書かれていないまったく予想外の出費ということになるでしょう。

——では、本来であれば、道具はネイルサロン側が用意すべきなのでしょうか。

イリストとして雇用し、働いてもらうという契約を締結した段階で、使用者には自分がネイリストに対して指示している仕事上、最低限必要な道具をそろえ、新入社員の方が問題なく働き始められるように環境を整える義務があります。

それにもかかわらず、契約書にすら明記することなく不意打ち的に必需品に関する出費を求めることは、契約の内容にもなっていない支出を強制するものであり、違法です。

これは、仮に契約書に書かれていたとしても、必需品を買わなければ仕事が始められないという状況に追い込まれているのであり、自由な意思に基づいて購入に同意しているとは言い難いため、やはり違法となるものと考えられます。

賃金から仕事に必要な経費を天引きしてしまう事例もあるようですが、これは労基法に定められた賃金の全額払い原則に反し、違法です。

●「ネイル業界の慣習に大きな問題」

——たとえば業務委託の場合だったら、自腹購入もやむを得ないのでしょうか。

業務委託の場合には、使用者が業務指示をしたとおりに働いてもらうということではなく、あくまで受任者が自身の裁量で自由に働くことができるわけですから、契約の中で必需品を自腹で購入するという取り決めになっているのであれば、そのとおり従う必要があります。

ただし、業務に関する指示を詳細にされており、実質的には労働させられているにもかかわらず、契約の名目だけを業務委託としている場合があります。その場合には、道具を自腹とすることは違法となる可能性が高いと言えますので、注意が必要です。

——「道具の自腹購入」がネイル業界で慣習になっていることについて、ご意見などあればお願いします。

それがなければ仕事を始めることすらできない道具を、契約書にすら明記せずに問答無用でネイリストの自腹としていることは、法律上大きな問題があります。たとえば、新入社員を迎え入れるにあたって、事務作業に必要なパソコンを自腹で買わせている会社はあるでしょうか。

人を雇って働いてもらうということであれば、最低限必要な物品はあらかじめ用意をしたうえで迎え入れなければなりません。それは、法律上の義務でもあり、社会的な礼儀でもあるのではないでしょうか。

【取材協力弁護士】
笠置 裕亮(かさぎ・ゆうすけ)弁護士
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「こども労働法」(日本法令)、「新労働相談実践マニュアル」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。
事務所名:横浜法律事務所
事務所URL:https://yokohamalawoffice.com/

元メロン記念日・大谷さん、ネイルサロン就職で道具を「自腹」購入 これって問題ない?