小学校、中学校には、障害をもつ子どもたちが安心して学習するための特別な学級があることをご存知ですか?どのような子どもたちが在籍するのか、授業はどのように行われているのか、卒業後の進路はどうなるのか、と気になっている親御さんもいらっしゃるかもしれません。そこで今回は、障害児教育について幅広い経験をお持ちのそうくる先生に、特別支援学級について詳しくお話を伺いました。

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特別支援学級とは?

障害をもつ子どもが学習や生活上の困難を克服するために、小学校と中学校に設けられている学級を特別支援学級といいます。障害の種類によって下記の7つに分類されます。

1.知的障害

2.肢体不自由

3.病弱・身体虚弱

4.弱視

5.難聴

6.言語障害

7.自閉症・情緒障害

1クラスは平均すると3名ほどで(最大8名)、1年生から6年生までの合同学級になります。少ない人数の中で個々のペースに合わせて学習の進み具合を変え、その子が持っている力を発揮できるように支援することが目的です。

ちなみに後で出てくる特別支援学校は、特別支援学級とは別のものです。特別支援学校は心身に障害をもつ子どもたちだけが通う学校で、主に生活上の自立を図ることを目的にしています。

特別支援学級に入るための判断基準は?

小学校に入学するお子さんが、通常学級と特別支援学級のどちらに在籍するかは、就学相談などで親御さんと本人の意向を確認した上で、市区町村の職員や医師などによる「就学支援委員会」が総合的に判断します。この話し合いは入学前年の夏ころから始まります。

いくつかの障害をもつお子さんがどの学級に入るのかは、知的障害の有無がひとつの判断基準になります。例えば弱視かつ知的障害をもつ場合は知的障害学級へ、肢体不自由で知的障害がない場合は肢体不自由学級になります。

ちなみに知的遅れがあるかどうかは就学相談で発達検査を行い、知能指数(IQ)を出すことで判定することができます。ただしIQの数値は一つの目安にはなりますが、これだけで判断することは難しいため、最終的には園や家庭での様子、本人の困り感や人との関わり方などを総合的に見て判断します。

特別支援学級の授業内容は?

基本的には教科書に沿って授業が進められますが、知的障害の有無によって進み方が変わります。また、特別支援学級に在籍しながら、その子ができる教科は通常学級の子どもたちと一緒に授業を受ける交流学級というものもあります。

①知的障害のない学級の場合

教科書に沿った授業にプラスして、「自立活動」という教育課程があります。これは障害によって学習や生活面に生じる困りごとや苦手を克服するための活動です。例えば手先が不器用で洋服のボタンをかけられない子がいたとします。その場合は図工の授業で細かい工作に取り組ませ、手先を使う練習をします。特別な授業を設けるわけではなく、普段の授業や生活の時間を少しカスタマイズしてあげて苦手の克服につなげます。

②知的障害の学級の場合

その子のレベルに合わせて、できる教科はその学年の教科書を、難しい教科は下の学年のものを使って授業をします。さらに先ほどの自立活動に加えて、もう一つ「生活単元学習」という指導が行われます

これはその子の伸ばしてあげたい部分から逆算して、オリジナルの授業を作って行われます。できるだけ実際の生活に即していることがポイントで、例えばお世話になった先生にホームパーティを開くという授業を行うとします。まずは何を作るか子どもたちで話し合いますが、これは生活の授業に当たるものです。次に買い物に行き、物の場所を店員さんに聞くことでコミュニケーションの力を伸ばす練習をします。そして計算の力を使って買い物をする。このような感じで子どもたちが楽しみながら主体的に学べることを目指しています。

通常学級と特別支援学級で転籍はできる?

自閉症・情緒学級などの知的障害のない学級から通常学級に転籍するケースはよく見られます。また通常学級から特別支援学級へ転籍することもできます。知的障害学級に関しては、基本的には転籍することは想定されていません。

①特別支援学級から通常学級への転籍

特別支援学級で過ごすことで、人との関わり方や自分の心の落ち着かせ方を学び、苦手や困難を克服していくお子さんもいます。普段の様子を見て、先生側から通常学級への転籍を打診することもありますし、親御さんの方からお申し出があって転籍することもよくあります。

②通常学級から特別支援学級への転籍

通常学級で過ごしていく中で、学習や生活をする上での困難が顕在化してきた場合は、特別支援学級へ転籍することもできます。ただし通常学級で過ごしていた場合、特別支援学級がどのような場所なのかイメージできていないお子さんも多いので、最初は違和感を感じるかもしれません。ですから転籍を考え始めたら、早いうちからお試しのような形で特別支援学級に参加するなどして、どのような場所なのかを少しずつでも経験させてあげることをおすすめします。

小学校卒業後の進学先について

①中学校進学時

特別支援学級は中学校にもあるので、小学校からそのままスライドする形で、同じ障害の学級に在籍するケースが多いです。ちなみに中学校では通常学級へ、とお考えの親御さんも多いかと思います。その場合は進学と学級変更という2つの大きな環境変化が、お子さんの心理的負担にならないよう配慮が必要です。

②高校進学時

高校へ進学する場合は、知的障害の有無で選択する学校が変わります。高校には特別支援学級がありませんので、知的障害がない場合は一般高校へ進学し、他のお子さんたちと同じ学級に在籍することになります。

知的障害を持つお子さんの場合は、特別支援学校の高等部へ進学する割合が高いです。他にも、フリースクールなどの通信制の高校に通うことがあります。

特別支援学校では高校卒業の資格を得ることができませんが(大学受験資格はもらえます)、とても手厚く就職支援をしてもらえるのがメリットです。特別支援学校は、障害をもつ子どもたちが社会的に自立するための支援を目的にしているので、社会人としてのマナー教育や職業訓練の時間も設けられていたり、インターンシップ制度もあるので、就職を考えているお子さんにはおすすめです。

またフリースクールなどの通信制の高校では、自分のペースに合わせて学習ができたり、なかには発達障害に理解のある高校もあるので居場所を感じやすく続けやすいというメリットがあります。

通常級?支援級?障害をもつお子さんの学級を選ぶ時のポイント

小学校入学にあたって、通常学級と特別支援学級のどちらがいいか迷っている親御さんもいらっしゃるかもしれません。その時は次のようなポイントで考えてみてください。

①客観的な意見を聞く

親御さんはどうしても「こうあってほしい」という期待や主観的な意見が入り込んでしまうもの。ですからできるだけ多くの方に客観的な視点でお子さんを見てもらい、その意見を参考にしてみてください。園や療育の先生はもちろん、ご親戚など幅広い意見をもらうことも大切です。

②園での実態をヒアリング

①に関連しますが、園の先生に普段の生活の様子をよく聞いてみてください。その際先生には、洗いざらい話してほしいと伝えてみることもポイントです。園の先生の中には、親御さんを傷つけないよう配慮してお話しされる方もいます。ですがお子さんのためにも、集団活動におけるリアルな様子を知っておくことが必要です。家でできていることが園でできていなかったり、その逆もあります。これらは学級を選ぶための大きな判断材料になります。

③小学校に見学へ行く

就学先の小学校にお願いをして、通常学級と特別支援学級の両方を見学させてもらいましょう。実際にどのように過ごしているのかを見て、入学後のお子さんをイメージしてみるのもいいと思います。ぜひお子さんも一緒に見学しに行ってみてください。

迷った時はお子さんの心地よさを最優先に

通常学級か特別支援学級か。お子さんにとっても親御さんにとっても重大な選択のタイミングだと思います。まずはお子さん自身が心地よく過ごせるかどうか、この学級にいたらどう感じるのかを想像してあげてください。

お子さんがもつ力を発揮させてあげるためには、安心して過ごせる環境が必要です。障害によって困難を抱えているお子さんは、周囲と自分を比べて自己肯定感が下がってしまう場合もあります。そのために特別支援学級という環境があり、そこで成功体験を積み重ね自信をつけて通常学級へ転籍するという道もあります。

お子さんの心地よさを第一に、迷ったら園や療育の先生、市区町村の教育相談にぜひ相談してみてください。ちなみに就学支援員会は入学前年度の夏には行われますので、ご相談はできるだけ早めがおすすめです。

【話を伺いたいのは】

そうくる先生/小学校教員

大学卒業後、小学校教員として通常学級で指導後、特別支援学級(情緒クラス)へ。研修で特別支援学校へ移り、3年間知的障害児の学級を指導。ここで得た経験によって自らの指導方法を大きく見直す。その後、小学校の情緒クラスを経て、現在は通級指導教室に勤務。指導を行いながら、インスタグラムやYouTubeで保護者や教師に向けた情報発信や相談ライブを行っている。 ライブを中心に年間1500件以上の相談に答えている。

※画像はイメージです/PIXTA