2000年代以降に急成長した中国のIT企業ですが、現在では国内での成長が頭打ちになり、その勢いは滞っています。企業成長のスピードは目を瞠るものがありますが、持続性には欠けると、NTTデータ経営研究所グローバルビジネス推進センターのシニアスペシャリスト岡野寿彦氏はいいます。いったいなぜなのでしょうか、みていきます。

中国企業が持つ「弱さ」

組織構造・運営の特徴は、意思決定や実行のスピード、柔軟性、リーダーの方針でメンバーが一気に動くことによる突破力など、中国企業の「強さ」の源泉となっている。一方では「弱さ」も生み出している。

中国企業の「弱さ」は何か? それは克服し得るのか? 中国企業人の「課題意識」に基づいて分析する。

攻めに強く、守りに弱い…「経営持続性」が低い中国

中国企業が社会に価値を提供していくうえで「継続力」は根本的な課題となっている。だからこそ、中国企業人が日本企業を評価する最大のポイントとして「経営の持続性」を挙げることが多い。

中国企業の継続性が低い「4つの理由」

①プロジェクト型の組織

目的達成のためにリーダーのもとにメンバーが結集するという組織構造に起因して、意思決定、組織運営において、オフィシャルな企業の発展よりもエリート層(リーダー+コアメンバー)と利害関係者の目的達成・利益が優先される傾向がある。

②企業組織よりも人(リーダー)にロイヤリティを持つ

メンバーはリーダーという「人」についていく。企業はエリート層の目的達成のための「器」として活用される面もあり、企業に対するロイヤリティは育ちづらい。

③企業経営が短期的な成果を求められる

経営の実行においてコアメンバーや「圏子」などの利害関係者に早期にパイを分配する必要があり、短期的な成果を求めやすい。このために、経済合理性の乏しい発注や投資が行われ、不良資産をつくりやすいという構造的な課題がある。

※ 個人間の信頼関係で出来上がった「運命共同体的な関係性を有するグループ」といった伝統的な人間関係を表す言葉

企業が成長してメンバーにパイを分け与えられる段階では一致結束するが、成長が鈍化してパイの配分ができなくなると求心力が一気に低下する。さらに、成長ステージでは表面化しなかった不良資産が顕在化するなど、成長の鈍化により一気にマイナスのスパイラルに陥りやすい。攻めに強く、守りに弱いのである。

④中国企業人の成長志向

中国企業人は一般的に成長志向であり、「この業務を通じてどのようなスキルを身につけられるのか」を重視する。最新の技術やビジネスモデルなど、トレンドに取り残されたくないという危機感も強い。

一方で、地道な取り組みへのインセンティブは高くない。特定の業務を繰り返す中で「改善」に取り組むよりも、常に新たな業務に挑戦したいと考えることが一般的である。転職意欲が高い要因である。さらに、実力ある社員は自らリーダー(一国一城の主)、権力者になりたいとの志向が強いために、企業組織が分裂しやすい構造になっている。

「企業の持続可能性」…課題は克服できるのか?

デジタル化の時代になっても、「圏子」など伝統的な人的関係に依存する/引きずられる組織の構造は、基本的に変わっていない。「世界最先端のデジタル技術」と「昔ながらの人間関係(グアンシ)/人治」の組み合わせで、デジタル中国は動いている。

中国政府は、中国経済が持続的に発展するためには、「人治から法治」への転換が必要だと危機感を持ち、「ルールに基づいて動く社会づくり」、「ルールに基づく企業のガバナンス」を推進している。

また、中国政府は発展理念の柱に「緑色(グリーン)」を掲げ、経済社会の持続可能性を重視する方針を強調しており、企業経営の持続性もその対象として位置付けている。

これを受けて、上海証券取引所は上場企業の持続可能性に関する情報開示を強化する方針を打ち出している(注1)。中国企業連合会は、製品、ガバナンス、社員、環境、資源(リソース)、顧客、社会との関係、政策への貢献など8分野68項目からなる「中国企業持続発展ランキング」を公表している(注2)。

国家のリーダーである政府が「企業の持続可能性」を重視する政策を打ち出したことで、企業経営者はこれに合わせて経営方針を転換する姿勢を示していくだろう。

しかし、これまで述べてきたように、「組織の継続性」の課題は、中国企業の組織構造や企業人の思考・行動に起因するものであり、引き続き中国企業の「弱さ」として残ると考えられる。

その中、ファーウェイ、小米、アリババなどデジタル中国を牽引する企業は、短期のスピードに加えて長期志向での人材育成、研究開発の積み重ねとを「両立」させる経営変革に取り組んでいる。

(注1)新華社「上交所:将進一歩完善中国上市公司可持続性信息披露框架」(2018-10-5)

(注2)2020中国企业可持续发展100佳排行榜(附完整榜单)─ 排行榜─ 中商情报网(askci.com)

 優秀な中間管理職がおらず、「現場力」が育たない

エリート層(経営トップ+コアメンバー)とその他メンバーの二層化した組織構造の宿命として、日本企業で課長代理・係長、課長、部長が担っている中堅層(中間管理者層)の人材が弱い。

現場業務をリードするべき人材のロイヤリティが日本企業と比べて高くない。これにより、自発的な創意工夫・改善のような「現場力」が育たない、定着しないという「弱さ」がある。

日本企業における「階層別研修」のような、「役職に応じた仕事のスキル」を教育しないことも影響している。管理職に求める定量目標やジョブディスクリプションは定義されるが、「やり方」は個人任せであり、企業として役職者を育てていく取り組みは乏しいのが一般的である。

企業組織の骨格を担う人材の「仕事の型」にバラツキがあることが、組織が硬直化しづらいという効果を生んでいる面はあるものの、継続的なナレッジ蓄積や改善活動は弱い。

また、市場競争力のあるエリート人材は、最先端技術やビジネスモデルには興味があるが、地道・泥臭い生産・サービス提供活動、改善を中間管理者として担うインセンティブが低いことも構造的な要因となっている。

「中堅が伸び悩み、現場力が育たない」…課題は克服できるのか?

エリートがつくるビジネスモデル、先端デジタル技術」と「一般社員、低賃金労働者の人海戦術」という組み合わせの体制は、一気に事業を立ち上げて規模の経済を働かせるうえでは有効に働き、デジタル中国の急成長の原動力となってきた。

しかし、新興国の特徴である社会実装型のデジタル化が飽和する一方で、デジタル化の対象が企業や社会インフラのミッションクリティカルな業務領域や安全・生命に関わる領域に及び、研究開発の重要性も高まる中で、この二層構造体制(これまでの成長モデル)の限界について危機感を持つ中国企業人は少なくない。

2019年に滴滴出行の副総裁をはじめ15名の幹部が、意見交換を目的にNTTデータを訪れた。滴滴出行からの質問は、「中堅メンバーがロイヤリティを持って改善に取り組む」、「チームでナレッジを共有する」、「顧客志向を組織に根付かせる」ために、どのような取り組みをしているかというものだった。

中国IT企業は、冷静に自己分析をし、インターネット第2ラウンドの競争環境変化に適応しようとアクションをとっていることを実感した。

それでは、中国企業の組織構造や運営は、どのように変化していくのだろうか。権威主義的なマネジメントに基づく二層の組織構造は、中国企業人の思考に組み込まれた「制度」として継続していくと考えられる。

その中で、ファーウェイ、小米、アリババなどデジタル中国を牽引する企業は、トップダウンによる経営に加えて、中間管理職層を育成して現場力を強化するという相矛盾する要素を「両立」させる経営変革に取り組んでいる。

「摺り合わせ」のモノづくりが苦手

中国企業は「摺り合わせ」アーキテクチャの製品開発(例:ガソリン車、コピー機、電子部品、素材、製造装置、半導体の微細化)、複数の業務を統合して社会的なシステムとして運用することは、一般に得意ではない。業務知識(特にリアルの業務知識)、技術力を組織能力として蓄積していくことにも課題がある。

自動車産業を例にとると、中国政府は、自動車産業を、国家の基盤を支える重点産業と位置付けて、自国自動車メーカーの実力強化に取り組んできた。1994年に公布した「自動車工業産業政策」では、「外国から技術を吸収して、自主開発力を高める」ことが盛り込まれた。

日本、ドイツ、米国など外国自動車メーカーが中国市場に参入するためには、「第一汽車」、「第二汽車(現在の東風汽車)」、「上海汽車」の3つの大型国有企業など中国政府が指定した中国自動車メーカーとの合弁会社を設立することを求めた。

外資の出資比率は50%以下に制限し、外資企業は中国の自動車メーカーと最大で2社までしか提携できないとした。これにより、中国自動車メーカーが技術を習得する機会をつくったのだ。

2009年には中国は世界最大の自動車市場になった。しかし、開発や生産において緻密な「摺り合わせ」が必要なガソリン車で、中国独自ブランド車は、外国自動車メーカーと伍する競争力を持てていない。

自動車業界の方と話をすると、「細かい部品を丁寧に摺り合わせて安全性や乗り心地をつくり上げていく車の製造は、中国自動車メーカーの組織体質と合っていない」、「中国国内において、日本企業の得意とする強固なサプライヤー・ネットワークが構築できていないが、これも摺り合わせによるモノづくり能力の不足に起因する」との意見で共通している。

「摺り合わせ型のモノづくりが苦手」…課題は克服できるのか?

中国政府は、「摺り合わせ型」の製品開発、マネジメントを自国企業は得意ではないと自己評価を行い、ゲームチェンジを進めている。「水平分業型」、「モジュール型」への産業転換である。EVシフトはその一例である。

また、IoTプラットフォームによるモノづくりなど、自国企業の強みを発揮できる生産モデルを開発して、「摺り合わせ」の弱さを代替しようとしている。「暗黙知」、「匠の技」に依存しないビジネスモデルをつくろうとしているのだ。

しかし、「摺り合わせ」型の製品開発、社会システムづくりの必要性は一定範囲で残り、中国の競争力のボトルネックとなる。

中国政府は、購買力という中国の強みを活かすことで外国企業との補完関係をつくりながら、同時に、時間をかけても自国事業者を育成ようとしている。自国のユーザーとしての力を活かしながら、中国の電子部品などのメーカーは徐々に日本企業にキャッチアップしていくだろう。

成長が頭打ちのいま…新しい経営哲学が問われている

ここまで述べてきたように、中国企業経営者は自社が社会課題や国家の発展に貢献する「大義名分」を掲げて、消費者や政府の支持を得ながら事業を進めてきた。企業の成長と国家・社会への貢献を両立させることで、社員の求心力を保ち、社会的にも支持を得てきた。「成長」を前提とした「大義名分」であり「共感」だったといえる。

しかし、ネット技術を社会実装し、プラットフォーム・モデルにより「規模の経済」をつくって解決できる「困りごと」(Pain Point)はひと段落している。中国政府がプラットフォーマー規制を強化しているのも、プラットフォームの力を経済成長や課題解決に活用するフェーズはひと段落したという認識が背景にあるだろう。

今後、世界に打ち出せる「成長」に替わる経営哲学を持ち、共感を得られる経営を実行できるか、中国企業も問われるフェーズに入っている。

「中国国内における成長の停滞」…課題は克服できるのか?

中国企業は、現状は引き続き成長のパイを求めて、「ネットとリアルの融合」、「中国の地方都市・農村、海外展開」など新たな市場の開拓に注力をしているように見える。また、中国政府が打ち出す理念や戦略の影響力が大きくなり、個別企業が経営理念によって中国社会・世界で共感を得ていくことが難しくなっているという面もある。

その中、中国企業の経営において、グリーン、持続可能性といった哲学が語られ実行される場面も着実に増えており、貧困対策や安全への取り組みが具体化している。中国政府が「新たな発展理念」の一項目として「緑色(グリーン)」を掲げていることも、企業による地球の持続可能性サステナビリティ)への取り組みを促すだろう。

中国の権威主義的マネジメントにおいては、リーダー(経営トップ)が方針を決めれば、組織はその方向に向けて大きく舵を切る。中国企業が打ち出してくる戦略を先入観なしに見ていくことが重要である。

※本記事は、岡野寿彦氏の著書『中国的経営イン・デジタル 中国企業の強さと弱さ』(日経BP 日本経済新聞出版)から一部を抜粋し、幻冬舎ゴールドオンライン編集部が本文を一部改変しております。

岡野 寿彦

NTTデータ経営研究所グローバルビジネス推進センター

シニアスペシャリスト

(※画像はイメージです/PIXTA)