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 スペインにある古代ローマの砦を調べていたとき、笑った人の顔、果物があふれるほど入った角型の籠(豊穣の角)、そして男根が岩に彫刻されているのが発見された。

 これら彫刻がなにを意味しているのか、その答えを得るには、ローマ神話と、自然の力を説こうとしたローマ人の骨折りを深く掘り下げる必要がある。

【画像】 人間の顔、男根が掘られた2000年前の岩

 スペイン南東の海岸、ベニドルム市の地中海近くにあるトサル・デ・ラ・カラは、広大な共同墓地をもつ丘の上の砦だと言われている。

 ここからは、青銅器時代にさかのぼる、陶器、道具類、装飾品が見つかっていて、この場所が地元民とほかの地中海文化を結びつける古代の交易拠点であったことがうかがえる。

 2000年前の岩面彫刻を発見したのは、スペインアリカンテ大学の研究チームだ。

 これは、「インスカトゥーラ・フェイス」として知られていて、人間の顔、豊穣の角、男根で構成されている。

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クイントゥス・セルトリウス将軍の遺産

 トサル・デ・ラ・カラは、紀元前80年から紀元前72年にかけて起こったセルトリウス内戦のさなかの紀元前77年頃、クイントゥス・セルトリウス将軍によって建設されたと、言われている。

 セルトリウスは、ローマ共和制時代後期の、ローマ軍司令官および政治家で、卓越した指導力と軍事的洞察力をそなえた人物だった。

 セルトリウス戦争中、クイントゥスはヒスパニア(現代のイベリア半島)でローマ元老院の権威への反乱を主導した。

 地元部族と同盟を結んでゲリラ戦術をくりひろげ、ローマ軍に対抗したのだ。確実な証拠はないが、トサル・デ・ラ・カラは、彼によって建設されたという説が濃厚だ。

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クイントゥス・セルトリウスの肖像画 / image credit:public domain/wikimedia

トサル・デ・ラ・カラの真の用途はなんだったのか?

 3つのシンボルが彫られた彫刻の話の前に、砦あるいは要塞陣地だとされているトサル・デ・ラ・カラは、本当はいったいなんだったのかを、しっかりと理解する必要がある。

 砦や要塞とは、特定の場所を守るための軍事拠点で、壁、塔、濠などいくつかの防御機能をそなえているものだ。

 一方、要塞陣地とは、ローマの軍事施設で使われる特定の用語で、おもに泉、水道橋、水路、貯水池、制御機構など、水源を守り制御するためのかなり小さな要塞のことをいう。

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 トサル・デ・ラ・カラは、海洋交易を監視し、敵艦から海岸を防御する役割を担う、沿岸軍事飛び地の連なりの一部だ。

 しかし、さらに大規模な発掘調査をしてみないことには、トサル・デ・ラ・カラが、要塞なのか、要塞陣地なのか、はっきり分類するのは難しい。

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ベニドルム市にあるトサル・デ・ラ・カラ/ image credit: University of Alicante

古代の微笑む顔をひもとく

 この微笑みの顔の大きさは、57センチ×42センチ。右上の箇所が賭けているため、不完全なものだが、ふたつの顕著な特徴から、この古代の芸術作品の意味や目的が推測できるという。

 古代ローマ文化で、男根のシンボルは、豊饒、権力、幸運といった3つの概念と関係がある。

 豊穣という意味では、ローマの男根は、男としての精力、男らしさ、生殖能力を象徴しているが、それはまた農業の豊作をも意味する。

 これが、庭園、家畜、男性器の守護者である豊穣の神プリアーポスと関連づけられることが多い理由だ。

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ギリシア神話における羊飼い、庭園および果樹園の守護神で生殖と豊穣を司る、男性の生殖力の神「プリアーポス」 / image credit:public domain/wikimedia

 権力と幸運については、男根は悪霊を追い払うことができるという意味で、これを持つ者を霊的に守ると信じられていた。

 このため、粘土で作られた男根像は、ファルス(男根のお守り)として、身に着けたり、出入口にぶらさげたりして、邪眼を避けた。

 邪眼は、誰かの繁栄や成功、幸運を嫉妬した結果とされ、嫉妬深い人の羨望の眼差しが、対象に呪いなどマイナスな結果をもたらすと信じられていた。

豊穣の角

 豊穣の角の彫刻もまた、豊かさと繁栄のシンボルだ。

 神話の角、つまり角の形をしたバスケットから、フルーツや野菜、花があふれていている様子は、食べ物、飲み物、その他の資源が無限に供給されることを表している。だから、幸運、農業の成功、豊かさを擬人化した女神フォルトゥーナとよく結びつけられる。

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ローマ神話に伝えられる運命の女神「フォルトゥーナ」 / image credit:Private collection, Scan by Yellow Lion 2006 / WIKI commons

 結論として、見つかった彫刻の微笑む顔、男根、豊穣の角を解釈すると、男らしさ、豊穣、農業の成功と幸福を読み解くことができる。

 そうだとすると、彫刻はこれらを提供してくれる神プリアーポスを表していると考えられるのかもしれない。

References:Roman Carvings of a Smiley Face and a Phallus Found in Spain | Ancient Origins / El ‘castellum’ del Tossal de la Cala arroja un hallazgo excepcional: un relieve unico en los territorios romanos | Benidorm / written by konohazuku / edited by / parumo

 
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古代ローマ時代の岩に人間の顔と男根、果物の籠の彫刻が発見される。約2000年前のもの