リッチマン氏は就任にあたって「新たな歴史を創る機会をいただき、とても感謝しています」と語った(C)Getty Images

 鈴木貴美一前ヘッドコーチが築いてきた、28年間の財産を誰が引き継ぐのか。今オフ、バスケットボールファンが最も注目している“人事”と言ってもよいだろう。

 伝統あるシーホース三河が選んだのは、NBAの現役コーチを招聘するという前例のない挑戦だった。

【関連記事】Bリーグシーホース三河の西田優大が語る「エースとしての自覚」と「プレッシャーへの対応」

 三河は6月2日、2023-24シーズンのヘッドコーチに、NBAウィザーズでアシスタントコーチを務めるライアン・リッチマン氏が就任することを発表した。

 33歳のリッチマン氏はプロ選手としてのキャリアがないものの、早くから指導者の道を志して研鑽を積んできた。メリーランド大学女子・男子チームのバスケットボール部でアシスタントとしてスカウティング業務などに携わった後、2013年にウィザーズにアシスタントビデオコーディネーターとして入団。2016年からは選手育成を任され、2018年以降はベンチ入りアシスタントコーチとして戦術・分析を担当。一段ずつ着実に階段を登ってきた実力派だ。

 サマーリーグチームのヘッドコーチを務めたのち、2019-20シーズンはウィザーズ傘下のGリーグチーム・キャピタルシティ・ゴーゴーのヘッドコーチに就任。スカウティング、戦術の構築、選手の育成などコート上のあらゆる領域を監督したほか、選手・スタッフの日常的な管理にも責任を負い、2人の選手をウィザーズへ送り出すことに貢献した。

 Gリーグは、選手のみならず、意欲的なコーチやスタッフの育成の場でもある。キャピタルシティ・ゴーゴーのアンバーニコルゼネラルマネージャーは「ウィザーズには可能性を秘めた才能が多くいる。彼らの才能を伸ばすために、ゴーゴーのヘッドコーチとして活用する以上に良い方法があるでしょうか」と語っている(『NBA.com』より)。この言葉から、ウィザーズがいかにリッチマン氏を手塩にかけて育ててきたかが分かるだろう。

 キャピタルシティ・ゴーゴーで多くを経験したリッチマン氏は、2020年から再びウィザーズのアシスタントコーチに戻り、入団1年目の八村塁、デニ・アヴディア、コーリー・キスパートらの指導と育成に尽力。2022-23シーズンまでNBAの最前線で指導にあたっていた。

 ヘッドコーチ経験は少ないものの、分析力と選手育成に長けたリッチマン氏。「どのチームでも、どの選手と一緒に仕事をしても、目指すところは同じです。選手の特徴を知り、その可能性を最大限に引き出す方法を学ぶことが、コーチングの醍醐味なのです」と語る。リッチマン氏がもたらすNBAの最先端の戦術やトレーニングによって、三河の選手たちがどのように変化し、可能性を広げるのか、期待がふくらむ。

 将来NBAのヘッドコーチを目指す新進気鋭のコーチは、「兄のような雰囲気がある」(アドミラル・スコフィールド/レイクランドマジック)そうだ。ウィザーズのPodcastに出演したリッチマン氏は、理路整然と話しながらも、穏やかで親しみやすい雰囲気があり、選手やスタッフと良い関係を築いていくだろうと想像させる。

 さらに付け加えるなら、ここ数年、外国籍選手が定着せず苦労してきた三河にとって、ウィザーズやNBAとの強いパイプができることは、将来的にも多くの恩恵をもたらすだろう。

 三河の鈴木秀臣社長は、「リッチマン氏の着任は、これまでの伝統と文化を継承しつつ、新たなシーホース三河への改革の一手と考えています。もう一度このタイミングで、全員が”優勝”へのマインドセットをして新たな体制で新シーズンに挑みます。シーホース三河の新たな1ページにご期待ください」とコメント。クラブ一丸で、大きな変革へ挑む覚悟がにじむ。

 一方のリッチマン新ヘッドコーチも「新たな歴史を創る機会をいただき、とても感謝しています。このチームには長い成功の歴史と地域社会のサポートがあり、それが私たちの素晴らしい土台となることでしょう。シーホース三河とファンの皆さん、この特別な責任を私に託してくれて、本当にありがとうございます。さあ、仕事に取り掛かろう!」とクラブの伝統へ敬意を払いながら、ファン・地域と共に新たな歴史を刻むことを力強く宣言する。

 若き指揮官の言う通り、これまで築いてきた強固な土台があるからこそ、大改革に挑むことができる。三河は、目指す場所にたどり着くため、変わることを恐れず、前へ進んでいく。

[文:山田智子]

Bリーグ・三河、新HCにNBA現役コーチを招聘!八村塁らを指導・育成したリッチマン氏が就任