性犯罪の規定を見直す刑法などの改正案が、参議院で審議入りできず廃案になる可能性が出てきたとして、性被害の当事者団体などが6月2日、都内で緊急記者会見を開いた。

改正案は「強制性交罪」の罪名を「不同意性交罪」に変更し、「性交同意年齢」を13歳から16歳へ引き上げるなど、大幅な改正となっている。5月30日、衆議院本会議で全会一致で可決され、参議院に送られた。

そんな中、入管法改正案をめぐって与野党の攻防が激化しており、立憲民主党6月1日、入管法改正案の採決を阻止するため参議院法務委員長の解任決議案を提出。6月2日の本会議で反対多数で否決されたが、刑法などの改正案は今も審議入りできていない。

性暴力被害者らでつくる一般社団法人「Spring」の金子深雪さんは「今回の改正法律案は、2017年の刑法改正に積み残された課題を解決すべく、性暴力被害当事者らがずっと声をあげてきた思いが形となったものです。この法律案が参議院での審議、可決を経て、今国会で成立することを、私たちは心から願っております」と訴えた。

⚫︎「すべてチャラになってしまう」

被害当事者の声を届けるため、6年間継続してロビー活動をおこなってきた「Spring」理事の寺町東子弁護士は「なんとしても今国会で、可決していただきたい」と強調した。

「衆議院の審議では、被害者の声を聞いて、附則(新しい制度が定着するまでの引き継ぎの規定)を入れていただいた。積み残された論点の5年後見直しも入っている。もしこれで廃案になると、附則も附帯決議(政府が法律を執行するに当たっての留意事項を示したもの)もすべてチャラになってしまう」(寺町弁護士)

性犯罪被害にくわしい上谷さくら弁護士は、ジャニーズ事務所の創業者である故・ジャニー喜多川氏による性加害問題に触れた。

「性被害について仕事をしてきた身からすると、規模や期間の長さは異例ですが、全国どこでも起きている典型的なパターン。驚きはありませんでした。力関係を背景にした手なづけに基づく性虐待は日常的に起きていて、男の子も被害にたくさんあっています」(上谷弁護士)

そのうえで、今回の刑法改正は「ジャニーズJr.のような被害者を救うための論点がほぼ網羅されている」と指摘する。

改正案は「不同意性交罪」の構成要件として、現在の「暴行・脅迫」のほかに、「拒絶するいとまを与えない」「恐怖・驚がくさせる」「経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力で受ける不利益を憂慮」など、8つの行為を具体的に挙げている。

また、「性交同意年齢」を13歳から16歳へ引き上げ(13~15歳は5歳以上の年齢差がある場合処罰対象)、性犯罪の時効を5年延長(被害時に未成年であれば起点を18歳とする)する。新たにわいせつ目的で16歳未満に対して、嘘や脅迫をしたり誘惑したりして、面会を要求する行為も処罰されるようになる。

上谷弁護士は「仮に、性交同意年齢で救われない人がいたとしても、不同意性交罪で『地位に基づく影響力で受ける不利益を憂慮』という項目がついたので、被害時に10代後半になっていてもこの要件で救われる可能性がかなり高い」と話し、こう訴えた。

「大事な刑法改正が、時間切れ廃案はありえない。知恵を絞りあって、刑法改正案を可決して、成立させてほしい」

⚫︎「撮影罪」の新設も

また、改正案では、性的部位を撮影(盗撮)することや画像・動画を第三者に提供することなどを取り締まる「撮影罪」も新設される。

航空関連企業の社員などでつくる労働組合「航空連合」が2022年におこなったアンケートでは、客からの「盗撮被害」にあったという客室乗務員(CA)が7割にのぼった。

しかし、これまでは航空機内での盗撮を見つけても、時間や場所が特定できない限り、処罰が難しい現状があった。

航空連合の内藤晃会長は「(7割という数字は)驚愕の数字でした」と振り返り、「CAは盗撮の心配を払拭できず、安心して業務することができない。さらに、航空機内の乗客同士の盗撮も処罰することが難しいのが現状。法律の抜け穴だと思っているので、確実に今国会で成立を求めたい」と訴えた。

性犯罪の刑法改正「時間切れ廃案はありえない」 当事者らが訴え「今国会で成立させて」