植物には神経はない。だが何かが触れれば、それをしっかり感じ取る能力があるという。しかも触られた瞬間と、離れた瞬間まで区別しているのだ。
『Nature Plants』(2023年5月15日)に掲載された研究によると、極細のガラス棒で植物に触れてみると、触れたときと離したときでは内部に異なるシグナルが発生していることが明らかとなった。
その触覚は動物とはまるで違うがとても繊細なものだ。
だが、なぜ植物にはそんな細やかな触覚があるのだろう? それを調べれば、ただじっとしていると思われた植物が、意外にも活発な生き物であることが見えてくる。
【画像】 植物の細胞は触れられたり離されたことを感じ取ることができる
植物に触覚はあるのか?植物にわずかな刺激を与えたとき、どう反応するのか?
ワシントン州立大学の研究チームは、体が動かず、口も利けない植物の反応を調べるために、植物の遺伝子を操作して、細胞内のカルシウムの流れを直接観察できるようにした。この技術を「カルシウムセンサー」という。
実際に調べられたのはアブラナ科の「シロイヌナズナ」とナス科の「タバコ」だ。
その細胞のたった1つを極細のガラス棒で軽く刺激して、そのときの反応を特別な顕微鏡で観察する。
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すると、ガラス棒で触れて30秒もすると、カルシウムイオンのゆっくりとした波が付近の植物細胞に伝わり、3~5分ほど続くことが確認されたという。
だが、それだけではない。植物は触れられたことだけでなく、何かが離れたことも感じている。ガラス棒を離してみると、ほぼ一瞬で今度は速い波が発生し、1分もしないうちに消えたのだ。
シロイヌナズナの細胞に触れると、カルシウムイオンのゆっくりとした波が発生(動画右上の表示で1分30秒頃)。ガラス棒を離すと、今度は速い波が発生(6分50秒)する/Credit: Washington State University, copyright Nature Plants
植物の持つ、動物とは別の触覚メカニズム
こうした波は細胞内の圧力変化によって発生すると推測された。
浸透性の膜がある動物細胞とは違い、植物細胞は頑丈な細胞壁でおおわれている。だから軽く触れただけで、細胞内の圧力がスッと上昇すると考えられるのだ。
研究チームはこの仮説を検証するため、植物の細胞に細いガラス管を差し込み、人工的に圧力を変化させてみた。
すると予想通り、ガラス棒で触れたときと同じようなカルシウムイオンの波が発生したのである。
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植物に軽く触れるだけで、内部にカルシウムのシグナルが広まる/Credit: Nature Plants (2023). DOI: 10.1038/s41477-023-01418-9
研究を率いたマイケル・ノブロック教授は、「人間や動物は、感覚細胞を介して触られたと感じます。植物の場合、細胞内圧の増減を介した仕組みであるようです」と説明する。
面白いことに、植物細胞はどの細胞でもその役割を担うことができるという。人間のように神経細胞である必要はないのだ。
シロイヌナズナの細胞に触れると、カルシウムイオンのゆっくりとした波が発生(動画右上の表示で1分30秒頃)。ガラス棒を離すと、今度は速い波が発生(6分45秒)する/Credit: Washington State University, copyright Nature Plants
なぜ植物に触覚があるのか?
だが動けない植物に触覚など何か意味があるのだろうか?
もちろんある。たとえば、イモムシのような害虫に葉を噛まれれば、その味を不味くしたり、毒を出したり、化学物質を放出し仲間に危険を知らせたりと、身を守るためにさまざまな反応をするのだ。
また植物をブラッシングするとカルシウム波が発生し、さまざまな遺伝子が活性化することも明らかになっているという。
植物は私たちが思っている以上に活動的な生き物なのだ。
今回の研究では、ガラス棒で触れたときと離したときでは、カルシウムイオン波に違いがあることがわかったが、それぞれが植物の遺伝子にどう影響するのかまではわからない。
今回使われたカルシウムセンサーのような新しい技術ならば、その謎を解き明かすこともできるそうだ。
追記:(2023/06/04)本文を一部訂正して再送します。
References:Plants can distinguish when touch starts and stops / Pavement cells distinguish touch from letting go | Nature Plants / written by hiroching / edited by / parumo
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