高知県出身の植物学者・牧野富太郎をモデルに、神木隆之介演じる主人公・槙野万太郎の波乱万丈な生涯を描いた連続テレビ小説らんまん」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか※土曜は月~金曜の振り返り)の東京編が5月からスタート。浜辺美波が扮(ふん)するヒロイン・寿恵子も本格的に登場し、恋愛模様も加速度的に進んでいる。

【写真】「鎌倉殿の13人」「らんまん」など話題作への出演が続く山谷花純

5月10日放送の第28回からは、万太郎の下宿先となる十徳長屋の住人で、ワケあって東京に流れ着いたミステリアスな小料理店の女中・宇佐美ゆうが登場。大河ドラマ初出演となる「鎌倉殿の13人」(2022年、NHK総合ほか)で鎌倉幕府2代将軍・源頼家の妻・せつを好演した山谷花純が演じている。

話題作に出演し続ける山谷は「らんまん」にどんな思いで臨んでいるのか。朝ドラオーディションのエピソードや十徳長屋の会話劇について、さらに彼女なりの心にゆとりを持つ方法など、さまざまなことを語ってもらった。

■真摯に誠実に向き合って会話してお芝居をすることが大切

――「あまちゃん」(2013年、NHK)に続いて「らんまん」で二度目の朝ドラ作品への出演となります。10年にわたって朝ドラのオーディションを受け続けてきたそうですね。

あまちゃん」が初の朝ドラ出演で、気付いたら10年の時がたっていましたね(笑)。年2回の朝ドラオーディションを受けさせてもらって、念願かなってやっと台本を手にすることができました。

――諦めずに挑戦し続けられた理由はありますか?

もう恒例行事ですよ(笑)。毎回NHKのスタジオに番号で結果が張り出されるんですけど、その番号をマネージャーさんに確認してもらって「あった」「なかった」って後日、報告してもらうんです。高校受験とか大学受験に近い感覚ですね。

それを繰り返していると、受かる、受からないよりも、楽しんでこようって気持ちになるんです。やっぱり合格する人の方が少なくて、落ちる人の方が何倍も多いので。結果よりも、そこで自分がどう過ごすかを大切にした10年間でした。

実は、朝ドラのオーディションって独特で、人間性を見られる質問もすごく多いんです。今日は「どんな質問をされるんだろう?」「私のことを興味持ってもらえるかな?」って、ワクワクした気持ちでオーディションには参加していました。

10年オーディションを受けた中で、自分でいろいろと試行錯誤してみたこともあるんです。覚えてもらうために飛び抜けたこと言ってみたりして(笑)。でも、やっぱり真摯に誠実に向き合って会話してお芝居をすることが一番大切なんだろうなって結論にたどり着きました。

■家族総出で目標にしていた場所

――落ち込むこともなく挑戦し続けられたのは、楽しもうという姿勢で臨んでいたからなんですね。

それが、やっぱり落ち込むんです。98%受からないと思っていても、残りの2%はどこか受かることを信じている自分がいるので。お母さんにも何回かオーディションのスタジオの前まで送ってもらっていたんですけど、「今回は一次通るといいね」って声を掛けてもらっていました。家族総出で目標にしていた場所なんです。

――それなら出演が決まってご家族は喜んだでしょうね。

オーディションの結果についてマネージャーさんから電話を頂いたタイミングが丁度、お母さんと妹と3人でご飯を食べていたときだったんです。去年、大河ドラマに出演させてもらったときも喜んでくれたんですけど、一つ一つの作品がつながっているってお母さんも喜んでくれていました。

大河からまた朝ドラでNHKに10年ぶりに帰ってこられたんだっていうのを、自分でも実感できた瞬間でしたね。

■自然と生まれた会話劇のテンポ感

――いろいろな思いを抱えて収録に臨んだと思いますが、撮影現場はいかがでしたか?

いつも通りでした。すでにクランクインして出来上がっているチームの中に「はじめまして」ってあいさつして入っていく形だったので、リハーサルのときはすごく緊張はしましたが。ただ、私の演じる宇佐美ゆうが住んでいる長屋メンバーたちとも同じタイミングで撮影のスタートを切ったので、心強い仲間たちと作品をどうやって盛り上げていくのかっていう楽しみの方が強かったです。

――宇佐美ゆうは万太郎の下宿先である十徳長屋で共同生活を送りますが、個性豊かな住人たちとの会話劇が面白いと好評です。

15分という短い尺(放送時間)の中で、たくさんの人たちが一気に出てくるので、テンポがいいですよね。そういうふうにしようって会話をしたわけではなく、台本を読んでみると絶対に間を詰めた方が面白いだろうなとみんな思ったのだと思います。ポンポンポンポン流れるように会話劇が進んでいくっていうのは、自然と最初から出来上がっていました。

らんまん」という作品はワンシーンが長く、台本のページ数も多い、10分間くらい長回しするのが普通なんです。でも、十徳長屋の人たちは偶然なのか、舞台経験者がすごく多いんですよ。舞台も始まったら止まれないので、みんな協力して「このシーンを最後まで駆け抜けよう!」って気持ちなんじゃないかなって。

それがストーリーにもいい影響を与えていると思いますし、血はつながってないご近所さん同士の関係かもしれないけど、長屋メンバーの役者さんたちとはどこか家族のような信頼関係で補い合えているのがいいなって思います。

■子役を中心に将棋やカードゲーム

――及川福治を演じる池田鉄洋さんや堀井丈之助役の山脇辰哉さんなど、皆さん年齢はバラバラだと思いますが仲も良さそうですね。

話題が絶えないです、下は5歳の子(渋谷そらじ)がいますからね。子役の方を中心とした過ごし方が多くて、先輩方が将棋を子役に教えていたりします(笑)。カードゲームもはやっていて、江口りん役の安藤玉恵さんが小さい子たちの中で大ブームの「ナンジャモンジャ」っていうカードを持ってきてくれて、それをスタジオの前室で子どもと大人が本気で勝負するっていう(笑)。

なので、お芝居の話を具体的にはしていないんです。明治時代が舞台で、お着物を着て下駄を履いてお芝居をするので、衣装に着替えた瞬間から気持ちもタイムスリップしている感覚。自然とその時代の人になっているので、みんなうまく切り替えて役の姿になり切れているんだと思います。

■大河ドラマデビュー作「鎌倉殿の13人」を振り返る

――山谷さんにとって大河ドラマデビューとなった「鎌倉殿の13人」のお話についても聞かせてください。「らんまん」出演時には、視聴者から「『鎌倉殿の13人』のせつだ~」と反響があったそうですね。

初回放送から1年はたっているんですよ。作品がものすごく愛されていたというのもあるんですけど、これだけ時間がたっても役名で呼んでもらえるんだなって。私の名前よりも役名を覚えてもらえる方がうれしくて、物語が終わっても皆さんの心の中に役が生き続けているのは光栄です。思い出ボックスの中に入れていた、一生忘れない役をもう一度思い返すことができて励みになりました。

だからこそ、「らんまん」の次に新しい作品に出演させてもらったときに「おゆうさんだ!」って言ってもらえるように頑張りたいですし、私のお芝居を見たときにいろいろな役名が出たら一番うれしいです。

――俳優・山谷花純にとって「鎌倉殿の13人」はどんな作品になりましたか?

大河ドラマに出演するのも初めてだったというのもありますし、新しい世界ですかね。10年以上この仕事を続けていても「まだ知らないことがこんなにたくさんあるんだ」「こんなに緊張することがあるんだ」、すごく初心に戻らせてもらった作品だったんです。ものづくりに対して役者だけではなく、各部署の方々が作品を面白くしたいという、言葉なき思いが伝わる座組がすごくすてきでした。

ただ、そこにいるだけで気持ちを感じることができる作品だったからこそ、そこに置いていかれないように私自身も頑張っていました。波に乗っていかないと自分も寂しいですし(笑)。撮影現場に行くときは毎日「あれできるかな、これできるかな」っていろいろ引き出しをひっくり返して準備したのが楽しかったなって。あのときの高揚感や緊張感は忘れないようにしないと、って今も心掛けてはいます。

■心のゆとりを保つ方法は「この時代に存在しないものを見ること」

――多くの作品に出演されて忙しいとは思いますが、以前インスタグラムで植物の写真と共に「心のゆとりは、人を豊かにすると思うのです」と投稿されていました。忙しい中でも心にゆとりを持つ方法を教えてください。

職業柄、映画を見ても本を読んでも、テレビをつけても音楽を聴いても、全部仕事につながってしまうんです。私が好きで始めたことですし、すごく幸せなことなんですけど、一度スイッチが入っちゃうと仕事をしないといけないって気持ちになっちゃうんです。なので、何が一番、心が安らぐかなと思ったら、植物とか化石とかを博物館に行って見ることだって気付きました。

――「らんまん」も植物学者の話なので通ずるところがありますね。なぜリラックスできるのでしょうか?

私、もともと恐竜が大好きなので、この間「恐竜博2023」という展示会に足を運んでみたんです。この時代に存在しないものを見たときに「自分はなんて小さい人間なんだ…」って思っちゃいました(笑)。

人それぞれだとは思うんですけど、自分が触れることも目にすることもできない何かを想像する時間ってものすごく豊かですよね。今の時代にないものを自分の目で見て体験するのは、しがらみとかそういうものを清められる時間だと思うので、良かったら皆さんもぜひ!

――最後に「らんまん」視聴者へのコメントをお願いします。

お忙しい時間だと思うんですけど、朝の8時からドラマを見ていただけるのは役者にとってもうれしいです。

主人公の万太郎は「いってらっしゃい」って言葉を掛けられることが多いんですけど、主人公が新しい一歩を踏み出すのと同じように、朝仕事に向かうときや学校に行くとき、幼稚園に送り迎えをする方々に向けての「いってらっしゃい」でもあるのかなって。

皆さんの新しい一日の後押しになる「いってらっしゃい」という作品になれたらと思っているので、今後もよろしくお願いします。

◆スタイリスト:高橋美咲、ヘアメーク:永田紫織

山谷花純/※ザテレビジョン撮影