「外貨建て保険」に加入している人は、加入当初から、いまほどの円安に振れることを想像できていたでしょうか。加入当初には払えると思っていた保険料が円安で膨れ上がり、後悔したという人も少なくありません。本記事では、CFPの伊藤貴徳氏が、外貨建て保険に加入して後悔した37歳のA夫妻の事例とともに、その救済措置について解説します。

世帯年収1,600万円のA夫妻、保険見直しで「外貨建て保険」に加入も…

ある日、筆者のFP事務所に相談にお越しになったのは、サラリーマンのAさんと妻のBさん。ともに37歳、結婚4年目で、都内の新築マンションに暮らしています。お2人とも誰もが聞く有名企業にお勤めで、来年には初めての子どもが生まれる予定です。世帯年収は1,600万円ほどあり、俗にいう「パワーカップル」です。 

A夫妻は結婚するタイミングで、近所の保険ショップで保険の見直しを行いました。そのときに提案されたのは、「ドル建て保険」。いわれるがまま、将来の資産形成を兼ねて加入しました。月々の保険料は、円に換算すると約15万円。結婚したてということもあり、保険と貯蓄を両方賄うことができるなら……と契約に踏み切りました。

死亡保障を兼ねながら比較的高い金利で運用できることから、「将来的に教育費や老後の生活費に充てることができるだろう」と、Aさんはこの保険を気に入っていました。しかし、加入から3年後。保険料が徐々に増えていることに気づきます。

加えて、妻Bさんの妊娠が判明。大変おめでたいことですが、Bさんの産休にともない、給料はいったん減少する見込みです。

マンションの住宅ローン、産休にともなう給与の減少、これから生まれてくる子どもにかかるお金、そしてなぜか増える保険料……これらすべてのことを考えると、見直したはずのこの保険を今後継続することができるのかと不安に駆られるようになりました。

「外貨建て保険」の保険料が上がってしまったワケ

「ドル建て保険」とは、払い込んだ保険料を米ドルなどの外貨で運用する保険のことです。円建ての保険と異なり、死亡保障や支払保険料、解約返戻金はドル表記となり、為替レートによって受け取る保険料や円貨で支払う保険料が変動します。

ドル建て保険は、日本より比較的高い金利で運用されることから、円建て保険より高い利回りが期待できる反面、為替の変動によって円で受け取る金額が変動する「為替リスク」があります。

Aさんが加入した外貨建て保険の設計書は、「保険料払込期間の10年を経過すると保険料支払いは終了するものの、その後も保険は続き、貯蓄部分も時間の経過とともに増加していく」「老後までには円換算で約2,000万円を積み立てることができ、払込終了以降は、途中で取り崩してもドルベースでの元本割れの可能性は低い」という内容になっていました。

しかし、先述したように保険料はあくまで「ドルベース」のため、毎月の為替レートによって支払う保険料は増減があります。

Aさんがこのドル建て保険に加入したのはおよそ4年前のこと。当時、1ドル110円前後だった為替レートは、現在140円に迫るところまで円安となっています。 1ドル110円から140円に円安となると、その変動率はおよそ1.27倍。つまり、保険料も1.27倍に上がっています。

そのため、加入当時円換算で15万円だった保険料は、19万円まで上昇するところとなっていたのでした。

外貨建て保険は投資に近い…運用の目安は

金融広報中央委員会が公表した「家計の金融行動に関する世論調査令和3年」によると、67.3%の方が月々の手取り収入の11%を貯蓄に回しているということがわかっています。これはたとえば手取り収入が30万円の場合、月3万円を貯蓄に回しているということになります。

FPである筆者も、手取りの1割を貯蓄に回すというのは収支バランス上、無理のない割合だと考えます。ただし、その貯蓄額すべてを金融商品に回すことは避けなければいけません。銀行預金など流動性の高いものにも、一定程度預けておくべきでしょう。 

では、貯蓄のうちどれくらいの割合を投資などの金融商品にあてるべきなのでしょうか。これは、家族構成や家計状況などにより変わってきます。同調査の「資産構成割合」を参考に考えると、以下のようになります。

【理想の「分散投資」割合(注)

預貯金……55.3% 

生命保険(個人年金含む)……13.8% 

損害保険……1.6% 

債券……3.5% 

株式……14.8% 

投資信託……7.0% 

財形貯蓄……1.5% 

その他……2.5% 

(注) 金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査令和3年)」をもとに筆者が再計算

FPの助言をもとに「払済」を選択

Aさんは普段よりニュースや新聞等で経済状況を把握されており、これまでの為替の動きも理解されている方でした。にもかかわらず、「ここまで円安に振れるとは思わなかった。こうなるのなら、もう少し保険料を抑えておくべきだった」とおっしゃいます。

1ドル140円台は、およそ25年ぶりの水準です。ちなみに、株価もバブル期以来の最高値を記録しています。よくも悪くも、これからの長い人生のなかでは「想定外の状況もありえる」ということを念頭に置きながら、投資や資産形成を行う必要があります。「どこまでの“想定外”を想定するか」については、明確な線引きは難しいかもしれませんが、「投資や資産形成は余裕資金で行う」というのが最善であるように思います。

また、もし想定外の状況となったときに、相談できる専門家がいるかどうかも大切です。 

今回のAさんは、筆者への相談を踏まえ、結果的に「外貨建て保険」の保険料支払いを止めながら、保険を続ける「払済」という選択を取りました。これは、これまで支払った保険料をもとに保険内容が再計算され、保険を続けながらも毎月の保険料の支払いを止めることができるというものです。

保険金額や解約返戻金は当初の条件より劣ってしまいますが、定年退職を迎える年齢のころには、解約返戻金はドルベースでこれまで支払った保険料と同じ水準まで戻すことができそうです。

「こんな方法があるなんて知らなかった」とAさん。奥様の出産や教育費など、今後の収支見通しを立てたうえで、改めて投資・資産形成を行うことになりました。

まとめ

投資や資産形成は長期で行うのが鉄則とよくいわれます。その長い期間のあいだには、さまざまな経済状況の変化はもちろん、ご自身の状況の変化や家族環境の変化もあると思います。 FPをはじめ、専門家のアドバイスを参考にすることで、将来への選択肢をさらに広げていただきたいと思います。 

【参考】

※ 家計の金融行動に関する世論調査(令和3年)

伊藤 貴徳

伊藤FPオフィス

代表  

(※写真はイメージです/PIXTA)