
最大の魚類である全長約10mのジンベエザメ、最大の動物である全長約25mのシロナガスクジラ、体の大きな彼らは何を主食にしているかご存知でしょか?
それは、水中の小さなプランクトンです。
そんなに小さな生物ばかり食べていて、なぜ大きな体を維持できるのでしょうか?
いえ、そこにはむしろ「プランクトンでなくてはならない理由」があるのです。
今回は、「不思議だけど、実は当たり前」な大型海洋生物とプランクトンの関係に迫ります。
プランクトンが主食であるからこそ、体が大きい
シロナガスクジラとマッコウクジラでは、全長が大きいのは勿論シロナガスクジラになります。では、どちらの方に歯があるかご存知でしょうか?
答えは、体長約15mと小さめのマッコウクジラの方で、歯が生えた「歯クジラ」の仲間になります。
一方、シロナガスクジラは体長約25mという巨体になり、歯はなくヒゲのようなヒダが生えている所謂「ヒゲクジラ」の仲間に分類されます。
では、小さなプランクトンをよく食べるのは、どちらでしょう?
答えは、体の大きなシロナガスクジラです。
厳密には、プランクトンとは「水流に身を任せて、漂う生物」の総称であるため、大きなクラゲや稚魚も含みますが、ここでは小さな微生物=プランクトンを指すことにします。
一方で、マッコウクジラは、その歯を活かしてダイオウイカなどを捕食します。
マッコウクジラも非常に大きな生き物なので、彼らがダイオウイカを襲って食べるというのはどこか納得できるものがあります。
しかし、ここで疑問なのは「より大きな体を持つシロナガスクジラが、なぜ小さなプランクトンばかり食べていて平気なのか?」ということです。
実は、この質問自体がナンセンスで「体が大きい動物こそ、プランクトンを食べなければならない」のです。
プランクトンは、生態ピラミッドの底辺を支える生物であり、個体数が他の生物に比べ、圧倒的に多くなっています。
非常に小さいため、私達が生活で目にすることはほとんどありませんが、水中という水中にウジャウジャいるようなものだと思って下さい。
シロナガスクジラなどは、大量の海水を飲み込み、そのうちプランクトンだけを口内に残し、余分な海水は排出するという「濾過食」をしています。
彼らの口内にはヒゲと呼ばれる、歯の代わりに毛のようなものが生えています。彼らはこのヒゲを使って飲み込んだ海水からプランクトンをこし取る「濾過」を行うのです。

体が大きい海洋生物の場合、この時一度にたくさん海水を飲み込めるため、効率良くプランクトンを食べることが可能です。
一方で、シロナガスクジラより小さいマッコウクジラが同じことを行ったら、どうでしょう?
一度に飲み込める海水の量が少なくなるため、勿論そこに含まれるプランクトンの量も少なくなり、効率の良い食餌はできないのです。
また、この「濾過食」では他の生物とエサの取り合い競争をする必要がなくなります。
ひたすら、目の前にある海水を飲み込めば良いためです。体を大きくするためには、確実に栄養を摂取する必要がありますが、プランクトンであればそれが可能なのです。
カリフォルニア大学海洋科学研究所らの新しい研究では、泳ぐ速度と飲み込める海水量、そしてその生物に必要なエネルギー量の関連が調査されており、これによるとミンククジラが、濾過摂食の最小サイズであり、これより小さいと進化的にこの食餌方法が成立しない可能性を報告しています。
泳ぐ「スピード」も、主食に関係している

では、体が小さいイルカやシャチは、プランクトンで十分な栄養を摂取できないため、泣く泣く魚を食べているのでしょうか?
いえ、彼らには「スピード」という武器あるため、プランクトン以外の生物を狩ることができます。
そのため、プランクトンよりも大きな魚を狙うことができるため、それらを主食にしているのです。
体が大きくなった分、彼らは俊敏な動きをすることができません。そのため、速く泳ぐ魚を狩るのは不得意としています。
捕まえるのが不得意な魚を主食としてしまったら、どうでしょう?
彼らは自分の大きな体を維持するためのエネルギーが十分に得られず、飢え死にしてしまうでしょう。
つまり、大きな海洋生物は俊敏な動きができないため、「プランクトンでないと、捕食できない」という理由もあるのです。
大きい動物、小さい動物の主食の比較

「体の大きい生物ほど、個体数が多く、動かないものを主食としている」法則は、実は陸上でも同じです。
例えば、ライオン、チーター、ゾウ、サイ、スイギュウのうち体が大きいのはどの動物でしょう?
そうです、ゾウ、サイ、スイギュウなど後者の動物になります。
彼らは、草を主食とする草食動物なのです。体の大きなジンベエザメ等と同じように、量が豊富にあり、動きも少ないものを主食にしているということです。
一見、「体の大きな生物ほど、小さい生物を食べる」というのは効率が悪いように感じますが、むしろ身体が大きいと効率が良くなる食餌方法なのです。
単純に生物の身体のサイズと、食べているもののサイズだけを比較すると不思議な話に思えます。
しかし、その餌がどれだけ獲得しやすいか、そしてどうすれば効率よく食べられるか、という点に目を向ければ身体が大きいほどプランクトン食になるというのは不思議なことではなくなるのです。
記事内容に一部誤りがあったため、修正して再送しております。
元論文
Minke whale feeding rate limitations suggest constraints on the minimum body size for engulfment filtration feeding https://www.nature.com/articles/s41559-023-01993-2 The characteristics of krill swarms in relation to aggregating Antarctic blue whales https://www.nature.com/articles/s41598-019-52792-4#auth-E__J_-Miller
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