対面、インターネット上問わず、誹謗中傷を受け、相手を刑事告訴したい場合にはどうすればよいのでしょうか? 本記事では、Authense法律事務所の弁護士が、誹謗中傷をした相手を刑事告訴できる要件、刑事告訴する場合の対処法について解説します。

誹謗中傷はどんな罪になる?

誹謗中傷をされた場合、加害者に対してどのような法的責任が追求できるのでしょうか? 加害者に問える可能性がある罪は、主に次のとおりです。

名誉棄損

名誉毀損罪とは、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合に該当する罪です。誹謗中傷が名誉毀損罪に該当する場合には、「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」に処される可能性があります。名誉毀損罪の要件については、のちほどくわしく解説します。

侮辱罪

侮辱罪とは、事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した場合に該当する罪です。誹謗中傷が侮辱罪に該当する場合には、「1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」に処される可能性があります。

なお、侮辱罪の法定刑は、以前は「拘留または科料」のみとされており、たとえ有罪となっても数千円程度の罰金のみで済んでしまうケースが大半でした。しかし、誹謗中傷による自殺が社会問題となったことを受け、令和4年7月7日より法定刑が引き上げられています。侮辱罪の要件については、のちほどくわしく解説します。

脅迫罪

脅迫罪とは、相手や相手の親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した場合に該当する罪です。誹謗中傷がヒートアップして、「お前を殺してやる」や「あなたの子どもを誘拐してやる」などと発言した場合には、そのほかの事情次第にはなりますが、脅迫罪に該当する可能性があるでしょう。脅迫罪に該当する場合には、「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」に処される可能性があります。

損害賠償請求の対象

誹謗中傷をされた場合、加害者を刑事告訴して、先ほど紹介した名誉棄損罪などに問う方法もあれば、加害者に民事上の責任を追求して損害賠償請求をする方法もあります。損害賠償請求は加害者に前科がつくわけではないものの、加害者から金銭の賠償を受けることが可能です。

誹謗中傷によって認められる損害賠償請求額は事案によって異なるものの、被害者が個人である場合には、おおむね数万円から50万円程度となる場合が多いでしょう。なお、誹謗中傷について刑事告訴をするための要件などと、損害賠償請求が認められるための要件などは重なる部分が大きいものの、まったく同じではありません。刑事告訴をすべきか損害賠償請求をすべきか判断に迷う場合には、弁護士へご相談ください。

「名誉棄損罪」が成立するための要件

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合には、名誉毀損罪が成立する可能性があります。では、誹謗中傷が名誉棄損罪に該当するといえるためには、どのような要件を満たせばよいのでしょうか? 主な要件は次のとおりです。

なお、名誉毀損罪親告罪とされており、被害者からの告訴がなければ起訴することはできません。そのため、加害者を名誉毀損罪に問うためには、被害者が刑事告訴をすることが前提となります。

「公然と」に該当すること

1つ目の要件は、その言動が「公然と」行われたことです。たとえば、社内のほかの人にも聞こえる場所で名誉を毀損するような発言をした場合には、この要件を満たすでしょう。インターネット上であれば、誰もが見ることのできるX(旧Twitter)投稿へのリプライ(返信)やYouTubeのコメント欄で名誉を毀損するような発言をした場合には、この要件を満たすものと思われます。

一方で、ほかに人がおらず、声も外部に漏れない会議室内での発言や、X(旧Twitter)のダイレクトメール(個別メッセージ)などでの言動は「公然と」とはいえず、名誉毀損罪の成立要件を満たさないでしょう。

「事実を摘示」すること

2つ目の要件は、「事実を摘示」することです。たとえば、単なる「バカ」や「クズ」などの発言は事実の摘示とはいえず、名誉棄損罪は成立しません。一方、たとえば「X氏は会社の上司と不倫をしているだけの役立たず」という発言や、「Y氏は会社の金を横領して贅沢三昧をしている」との発言、「Z氏は裏口入学だ」などの発言は事実を摘示しているといえ、この成立要件を満たすといえるでしょう。

なお、ここでいう「事実」というのは、「真実」という意味ではありません。つまり、本当「らしい」ことの指摘であればこれに該当し、実際には不倫や横領、裏口入学などをしていなかったとしても、名誉棄損罪の成立要件を満たします。

「人の名誉を毀損する」こと

名誉毀損罪の3つ目の要件は、「人の名誉を毀損する」ことです。人の名誉を毀損するとは、相手の社会的評価を下げることを意味します。

「違法性阻却事由に該当しない」こと

刑法によれば、次の要件をいずれも満たす場合には、例外的に名誉毀損罪が成立しないとされています(230条の2)。

1. 公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合

2. その内容が真実であることの証明があったとき

たとえば、政治家による不祥事の報道などが、この代表例であるといえるでしょう。

名誉棄損罪が成立し得るケース~

これらを総合すると、次のようなケースでは名誉毀損罪が成立する可能性があるでしょう。

・X(旧Twitter)のY氏の投稿へのリプライで「Y氏は会社の金を横領しているからこんな暮らしができている」などと執拗に書き込む行為

・社内のほかの人にも聞こえる場で「お前は上司と不倫ばかりしているから営業成績が上がらない」などと発言する行為

ただし、名誉毀損罪が成立するかどうかは、発言や投稿の内容、発言や投稿に至る経緯など諸般の事情を総合的に考慮して判断されます。加害者の言動を名誉毀損罪に問えるかどうか迷ったら弁護士へご相談ください。

「侮辱罪」が成立するための要件

事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した場合には、侮辱罪が成立する可能性があります。では、誹謗中傷が侮辱罪に該当するといえるためには、どのような要件を満たせばよいのでしょうか? 主な要件は次のとおりです。なお、侮辱罪名誉毀損罪と同じく親告罪とされており、起訴するためには被害者からの刑事告訴が必要となります。

「公然と」に該当すること

先ほど紹介した名誉毀損罪と同じく、言動が「公然と」行われることが要件となります。そのため、1対1のダイレクトメールでされた言動や他者のいない空間での言動については、原則として侮辱罪に問うことはできません。

「人を侮辱した」こと

2つ目の要件は、人を侮辱したことです。名誉毀損罪とは異なり、事実の摘示までは必要とされません。たとえば、「お前は無能だから死んだ方がマシだ」という発言や、「ぶすでキモい、消えてほしい」などの発言は、特に事実の指摘はありません。しかし、相手を侮辱する発言であることには変わりありませんので、侮辱罪には該当する可能性があるでしょう。

侮辱罪が成立し得るケース~

これらを総合すると、次の言動は侮辱罪に該当する可能性が高いでしょう。

・YouTubeライブへのコメントで「ぶすでキモい、消えてほしい」と投稿する行為

・ほかの社員にも聞こえる場で「お前は無能だから死んだほうがマシだ」と罵倒する行為

ただし、こちらも名誉毀損罪と同じく、発言や投稿の内容、発言や投稿に至る経緯など諸般の事情を総合的に考慮して判断することとされています。受けた誹謗中傷について侮辱罪に該当するかどうかに悩んだら、早期に弁護士へご相談ください。

誹謗中傷をした加害者を刑事告訴する流れ

誹謗中傷をした加害者を刑事告訴するための一般的な流れは次のとおりです。

1.弁護士へ相談する

誹謗中傷をした加害者を刑事告訴したい場合には、まず弁護士へご相談いただくことをおすすめします。なぜならば、告訴状は、後述のとおり記載しなければいけない事項があったり、刑法という法律論として「なぜ犯罪に該当するか」という点を明快かつ詳細に記載する必要があったりすることから、専門家である弁護士が行うことが推奨されるためです。

2.発信者情報開示請求をする

刑事告訴をするにあたっては、先に誹謗中傷した加害者を特定しておくことを求められることが多いように思われます。特に海外法人が運営・管理するSNSや掲示板の事例ではこれが顕著であると思われます。

そのため、加害者が匿名である場合には、刑事告訴をする前に、誹謗中傷をした加害者を特定するため、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律に基づく発信者情報の開示を求める手続き(以下本記事では総称してわかりやすく「発信者情報開示請求」といいます)をすることが強く推奨されます。

発信者情報開示請求とは、X(旧Twitter)、Facebook、5chなど誹謗中傷がなされたSNSや掲示板の管理者や、NTTKDDIソフトバンク、OCNなど加害者が投稿などに使用したプロバイダに対して、投稿などにかかる情報や加害者の情報を開示するよう請求する手続きです。より具体的な方法については、弁護士に確認するとよいでしょう。

3.証拠を集めて告訴状を作成する

誹謗中傷をした加害者の特定ができたら、証拠を揃えて告訴状を作成します。告訴状には、告訴人の氏名や住所と加害者の住所や氏名のほか、告訴対象としている事実や告訴に至った経緯などを記載してください。弁護士に依頼している場合には、弁護士が告訴状を作成します。

4.警察へ告訴状を提出する

告訴状が作成できたら、集めた証拠とともに警察署または検察庁へ提出します。なお、交番などでは対応してもらえないことが多いため注意してください。

誹謗中傷した加害者を刑事告訴するポイント

誹謗中傷をした加害者を刑事告訴するためのポイントは、主に次のとおりです。

早期に準備に取り掛かる

誹謗中傷をした加害者を刑事上の罪に問いたい場合には、できるだけ早期に準備へ取り掛かりましょう。なぜならば、時間が経過するとSNSや掲示板やプロバイダにおいてログが消されてしまい、刑事告訴の前段階で必要となる発信者情報開示請求などが困難となってしまうためです。ログの保存期間はSNSや掲示板やプロバイダで異なりますが、おおむね3ヵ月や6ヵ月程度としているものが多いといわれています。

また、ログの保存期間内であっても、投稿者が誹謗中傷の投稿を消してしまったり、ほかのユーザーからの削除請求などにより投稿が消されてしまったりする可能性がありますので、そうなる前にURLも写るかたちでスクリーンショットを保存してきましょう。そのため、誹謗中傷をされたら、すぐにでも刑事告訴の準備に取り掛かるとよいでしょう。

弁護士へ依頼する

誹謗中傷をした加害者の刑事告訴をしたい場合には、無理に自分で対応しようとせず、誹謗中傷問題にくわしい弁護士へご相談いただくことをおすすめします。なぜならば、先に述べたとおり、告訴状の作成についても非常に専門性のある事項になりますし、また、多い発信者情報開示請求についても、自分で行うことは容易ではないためです。

焦って削除請求をしない

自分を誹謗中傷する内容の書き込みがなされたら、すぐに投稿を消してほしいと感じるかもしれません。しかし、加害者の刑事告訴を検討しているのであれば、焦って削除請求をすることは避けたほうがよいでしょう。

なぜなら、削除請求の結果投稿が削除されてしまうと、刑事告訴のための証拠が消えてしまうためです。そのため、投稿の削除請求がしたくても自己判断では行わず、あらかじめ弁護士へ相談し、削除請求をしてよいかアドバイスを受けたうえで行うことをおすすめします。

Authense 法律事務所

(※写真はイメージです/PIXTA)