栃木県の高根沢町には、全国的に珍しい「ヘリコプター神社」があります。離着陸が可能なため、駐機してお祓いを受けることも可能だとか。ただ、このような施設を造ったのは、神社自体が大災害で被害を受けたからでした。

全国初! ヘリポートを有する神社

栃木県の高根沢町にある安住神社は、「乗りもの」と縁が深い神社として知られています。ここは航海・交通安全を司る神「中筒男尊」を御祭神としており、その関係で2008年より境内に「バイク神社」をお祀(まつ)りしています。

バイクは事故が起きてしまった際に怪我を負うリスクが自動車などよりも高いことから、それらに乗るライダーの安全祈願を行うために「バイク神社」は造営されたとのこと。加えて、安住神社の関係者にバイク愛好家がいたことも影響しているそうです。

安住神社の禰宜(ねぎ)である荒井清律さんによると、バイク神社という名称を名乗ったのは、安住神社が日本国内では初めてで、同社では「全国バイク神社認定第一号」を商標登録しているとか。ゆえに、全国のバイク愛好家から知られた存在となっています。だからか、毎週末にはツーリングを兼ねたライダーたちがここを訪れており、なかにはバイク愛好家の著名人がお忍びで来ることも多いといいます。

しかし、安住神社は「バイク神社」とは別にもうひとつの愛称が存在します。それはなんと「ヘリコプター神社」というもの。神社の入り口に立つ大鳥居の前は駐車場となっていますが、そこには巴紋とヘリコプターの離着陸場を示す「H」の文字が円形シンボルで描かれています。

実はここ、国土交通省から正式に許可を受けたヘリポートであり、実際にヘリコプターの離着陸が可能な場所となっています。安住神社は、このような施設を整備した神社としても全国で初めてのケースだそうです。

そのため、ここは民間のヘリコプターだけでなく、栃木県ドクターヘリのランデブーポイントや、近隣にある陸上自衛隊宇都宮駐屯地の場外着陸場にも指定されているとのこと。ここからも地元に貢献している施設だということができるでしょう。

なお、神社としてもこのヘリポートをふだんから活用しています。クルマのお祓いが行われるように、ここへヘリコプターが持ち込まれ「ヘリコプターお祓い」が行われることもあるとか。その点で「ヘリコプター神社」という名前は伊達ではないようです。

しかし、神社がなぜ、ヘリポートを整備したのでしょうか。

「乗りもの神社だから」ではない ヘリポートを整備した切実理由

一般のイメージだけでいえば「バイク神社」を祀っている神社だけに「乗りもの繋がりかな?」と安易に考えてしまいそうですが、ヘリポートの整備には、過去に起きた自然災害の苦い経験が関係しているといいます。

「このヘリポートを整備した一番の理由は2011年に発生した東日本大震災です」と教えてくれたのは前出の禰宜である荒井清律さん。

「震災ではこの地域も大きな被害を受け、神社の鳥居や灯籠などは全部倒れてしまいました。地震の揺れがもっと長かったら、境内の建物はみんな倒れていたかもしれません。あの時は再建するのが大変で、私自身も神社以外のことをしなければならないと考えてしまうほどの被害でした」

荒井さんや神社だけでなく、この近辺に住む親戚や知人も大きな被害を受けたそうです。そこから、今後は神社として防災意識の向上を図るとともに、地域へ貢献しようと考えるようになり、その結果、思いついたのがドクターヘリの発着場を整備することだったそうです。

「このあたりは緊急搬送で対応できる病院は少なく、ここから車で移動した場合は40分程度掛かってしまいます。そのため、急患輸送ではドクターヘリがよく使われており、また大規模な災害が起きた時には神社の敷地を使って協力できることはないかと考え、ヘリポートを整備しました。現在、ヘリポートになっている場所は、元々は砂利の駐車場でしたが、それを自費で舗装しています。ヘリコプター運航会社にお願いして認可のための飛行場外離発着陸場図面を作ってもらい、2012年に防災ヘリやドクターヘリの緊急離発着場として国土交通省の許可を得ています」

ヘリコプター神社」と名乗っているものの、その始まりは防災拠点としての地域貢献にあったことがわかります。荒井さんも「必要なことをやったってだけですかね」とサラリとその理由を語ってくれました。

機体持ち込み「お祓い」するなら要事前予約で

もちろん、整備したヘリポートは神社としてもしっかりと活用しています。

前出の「ヘリコプターお祓い」とは別に、毎年ゴールデンウィーク期間中にはヘリコプターの遊覧飛行を行っており、有料(今年は1人4000円)で神社のヘリポートから数分間のフライトを楽しむことができます。今年5月には神社の近郊にある「株式会社ヘリサービス」のベル206B「ジェットレンジャー」が飛来し、2日間に渡って多くの人々が体験飛行を楽しんでいました。

なお、「ヘリコプターお祓い」を受けようと飛来する場合、クルマやバイクと違っていきなり飛来することはできず、神社と事前に日程を調整したうえで関係機関へ申請することが必須です。

流れとしては、最初に安住神社へ連絡すると、着陸に必要な「飛行場外離着陸場図面」が送られてきます。次に、申請手続きとして国土交通省の東京空港事務所(羽田空港内)に「飛行場外離着陸許可申請書」を提出。そして、最後に安住神社とお祓いを行う日程を調整。このように、ヘリポートがあるとはいえ、実際にヘリコプターが降りるとなると準備が必要になることから、参拝者が多い初詣期間中は「ヘリコプターお祓い」は行っていないということでした。

「バイク神社」「ヘリコプター神社」と、乗りものにゆかりが深い安住神社。地元の高根沢町は御料牧場があるほか、ホンダが研究開発拠点を構えています。乗りもの好きならば一度は訪れてみても良いかもしれません。

安住神社前のヘリポートに着陸するベル206B「ジェットレンジャー」。朱色の大鳥居とヘリの組み合わせが見られるのは全国でもここだけだろう(布留川 司撮影)。