アニメ『機動戦士ガンダム』には、ジオン公国の主力戦車として、砲塔部分が分離して飛行する「マゼラ・アタック」が登場します。現実の兵器にこのようなものは存在しませんが、“砲塔が飛行”すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。

同じ名称、でも大きさはバラバラの不思議な戦車

アニメ『機動戦士ガンダム』は、人型の兵器、通称「モビルスーツ」と呼ばれるロボットが主役ですが、これが実用化される前は、戦車が陸戦用の主力兵器だったという設定です。その時代を描くうえで、「地球連邦軍」と対立する「ジオン軍」の主力戦車として劇中に登場するのが「マゼラ・アタック」です。

この戦車の最大の特徴は、砲塔部分が「マゼラ・トップ」として分離・飛行する点です。ただ、その大きさは、きちんと設定されていたわけではないようで、作品によってサイズが異なります。資料によってもやや異なりますが、『機動戦士ガンダム』に登場した「マゼラ・アタック」は全長15.9m、全高13.4m、全幅7.4mだそう。主砲は175mm砲とされています。

実在する陸上自衛隊10式戦車が全長9.42m、全幅3.24m、全高2.3mですから、戦車としては超巨大といえるでしょう。しかし、ここまで巨体にもかかわらず、全備重量は42.4t(62t説も)と、軽量が売りの陸上自衛隊10式戦車(44t)より軽いので、飛行能力と引き換えに防御力はかなり低い可能性も考えられます。

エンジン出力は1万6000馬力。自衛隊10式戦車が1200馬力ですから、約13倍もある計算で、前出したような巨体が99.4km/h(120km/h説もあり)の高速で走り回る想定です。

一方で、『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』に登場する東南アジア型「マゼラ・アタック」は全長10.2m、全高6mと、半分くらいの大きさです。『機動戦士ガンダム MS IGLOO2』に登場する欧州戦線仕様の「マゼラ・アタック」だと、全長12.04m、車体長10.74m、全高6.37m、全幅7.31m、全備重量95tと、それぞれがまるで別物といえるほど異なるサイズ感になっています。

同じ名称ながら、これほどサイズ感が異なる兵器は『ガンダム』では珍しい存在です。この3種は、搭載兵器こそほぼ同じなのに、大きさが倍も違うというのは不思議な話で、ひょっとしたら、「ジオン軍」が「地球連邦軍」を混乱させるために、意図的に誤った情報を発信したのかもしれません。

「マゼラ・トップ」が分離する理由

サイズの違いはさておき、「マゼラ・アタック」は、なぜ砲塔が分離・飛行する能力を備えているのでしょうか。この戦車の開発年度は、一説では宇宙世紀0075年ですから、『ガンダム』世界では定番の設定、レーダーが無効化するという「ミノフスキー粒子」が戦場で使用されることを前提に開発されたからと考えられます。

通常、戦車の全高は被弾率を考えても低い方がよく、新型戦車ほど背が低くなる傾向がありますが、「マゼラ・アタック」は陸上自衛隊10式戦車と比べて3倍から6倍の高さがあります。これは、「ミノフスキー粒子」によってセンサー類が無効化された「地球連邦軍」の61式戦車を先制発見する目的で、目視で効率よく索敵するために、あえて背を高くしているのではないでしょうか。

砲塔が飛行するのも、敵戦車より大口径砲を備えているのも、数で劣る「ジオン軍」が、砲塔を飛行させることで、敵戦車を先制攻撃することができ、まんいち飛行して命中率が低下したとしても、一発あたりの威力の大きさでその命中率の低さを補おうと考えたからだと筆者(安藤昌季:乗りものライター)は推察します。

なお、「マゼラ・アタック」の砲塔を飛行させた「マゼラ・トップ」は、劇中において「ガンダム」の背後で空中静止し、至近距離から主砲を撃つといった高い運動性能を見せており、ある意味で「ジオン公国」の科学力が高いというのを見せつけています。

とはいえ「マゼラ・アタック」は砲塔が旋回しない点や、砲塔が5分しか飛行できない点などから、非実用的と評されることがあります。これは、逆にいうと砲塔が自ら敵に近づいて射撃するので、本体装着時に旋回する必要はないと割り切っているのではないでしょうか。

「マゼラ・ベース」の背が高いワケ

5分しか飛べないのは航空機としては欠点ですが、空中静止まで可能な「マゼラ・トップ」の運動性能を考えると、車体側の「マゼラ・ベース」に再装着して、推進剤や砲弾を再補給できるのでしょう。これも、補給物資搭載スペースを鑑みて、「マゼラ・ベース」は車高が高いという考え方もできるかもしれません。

「マゼラ・トップ」に大量の推進剤や砲弾を詰んで運動性能を下げるより、「地球連邦軍」の61式戦車がこちらを捕える前に、飛行→砲撃→補給の繰り返しで、相当数を撃破する方が有利、と「ジオン軍」は考えたのだと筆者は推察します。マゼラ・トップの飛行速度は300km/hと低速ですが、短い飛行時間を考えると、速ければ再装着の難易度が上がるからでしょう。

「マゼラ・トップ」の再装着に30秒かかるとして、行き帰りに4分30秒(270秒)使えます。おおよそ2分飛行して攻撃し、2分で「マゼラ・ベース」へ戻ると仮定するなら、主砲射程を考えると11km範囲の敵を砲撃できます。

地球連邦軍」の主力戦車である「61式戦車」の最高速度は90km/hですから、11kmを詰めるのに7分20秒(440秒)かかります。61式戦車が「マゼラ・ベース」を捕捉する前に、4、5回は空中からの砲撃を受けるわけです。そして「マゼラ・アタック」の速力は61式戦車を上回るため、理論的には攻撃→再装着後、距離を開けて、何度でも空中攻撃を行えます。

もちろん、これは筆者が考えた机上の空論ですし、実際には制空権の優劣や、モビルスーツの有無で、想定したような戦法が通用しないことも多々あったでしょう。

現実世界を前提に考えると、荒唐無稽に思える「砲塔飛行戦車」ですが、『機動戦士ガンダム』でよく出てくる「ミノフスキー粒子」の存在を考えると、ある程度の合理性を有していたのかもしれません。

『ガンダム』に登場するジオン軍の主力戦車「マゼラ・アタック」と同じ口径の砲を積むM107自走砲。こちらは175mmカノン砲(画像:アメリカ陸軍)。