登録者数5万人超のYouTubeチャンネルブラック企業で生き抜く社畜を見守るチャンネル」を運営する“社畜系YouTuber”の玄田小鉄氏。彼は広告業界でデザイナーとして勤務し、自らを「自分は会社に雇われた奴隷」「社畜デザイナー」と表現するほど過酷な業務を行っているという。いったい、どれだけブラックな職場で働いているのだろうか。

 ここでは、玄田小鉄氏がブラック企業でどんな働き方をしているのかを綴った著書『ブラック企業で生き抜く社畜を見守る本』(ワニブックス)より一部抜粋して紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)

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超高額の単価の裏には落とし穴

 広告代理店は仕事を獲得するために必死です。そのため制作サイドが泣きを見るような条件での仕事を受けてくることも多いです。

 でも、そういう理不尽な案件も仕方ないと受け入れています。無茶な案件を受けることで相手に貸しを作り、将来いい案件がもらえるかもと期待しています。しかし、実際は、条件の悪い仕事を受けてしまうと、そのあとも都合よく使われてしまいます。 

 とはいえ、さすがにやり過ぎだなという仕事もあります。それは定期購買者あての会報誌を作るという仕事でした。

延々と続くクライアント確認と修正作業

 なんとデザイン費が1ページ10万円という超高額の単価でした。毎月20ページほど担当していたので、そのたびに200万円の売上です(書籍のデザイン費は通常ページ単価2000円ほどです)。

 どれだけデザイン費が高くても事務所の利益となるだけで僕の給料は手取り16万です。ですが、末端デザイナーからしもこういう仕事はありがたく、少しはモチベーション高く働くことができていました。

 ただ、単価の高い仕事でよくあるのが、クライアントブラック体質すぎて他社では受けてもらえず、高単価とすることで受けてもらうというパターン

 デザインのやり取りもとても大変で、クライアント確認と修正作業が延々と続きます。そして、入稿当日となった時に事件が起こりました。

代理店の営業から怒号の電話

 通常、デザインが完成したら、広告代理店の営業がクライアントに最終確認をとって校了(クライアントにこれ以上の修正が入らないことを承諾いただくこと)、そして入稿(デザインデータを印刷工程に進めること)と進めます。

 広告代理店の営業はわざわざ九州にあるクライアントの本社に出向いていて、入稿に向けて最終の社長確認をしています。こうやって広告代理店クライアントファーストな働き方を見ていると、どの会社でもみんな身を削りながら働いていて大変だなと感じます。

 その日は、入稿に向けて先輩とスタンバイしていました。何ページもあるので、先輩と作業を手分けしています。

 夕方になり、「締め切り」に設定した時刻になりました。それまでに来ていたクライアントからの修正内容は反映し、あとは校了のゴーサインを待つばかり。その時、代理店の営業から電話がかかってきました。

「社長から修正があるみたいだからちょっと待ってて! 今からメールで修正箇所送るから!」とのことです。

 そう言われたら我々社畜は待つしかありません。30分ほど待ったところで、メールが届きました。間髪入れずに代理店の営業から電話も来ます。

「何時にアップできそう?」 

 想定時間を伝えると

クライアントが待ってるんだからもっと早くしてくれ!」

 と怒号が飛んできます。じゃあなんで聞いてきたんだろう。と思いますが、何も言い返すことはできません。

「待つ」という行為が苦手に

 そして僕と先輩は急いで作業をします。この時だけは作業スピードについて来られないMacの処理速度にイライラします。画像データも多く扱っていて、ページ数も多いのでデータがかなり重いです。

 そして修正したデザインを提出し、代理店担当者にも電話で報告し、またしばらく待ちます。

 ただひたすらに待ちつづけます。犬のように待ちます。

 この時すでに夜21時ごろで、もう終電で帰れないことを覚悟し始めます。

 先輩はこの状況に慣れているのか、机に突っ伏して仮眠をとっています。僕は電話がきたら2コール以内に取らないといけないので、寝ずに待機します。この待ち時間に今までの制作物をポートフォリオ(作品集)にまとめたりしています。

 1時間待ったところで返事がきました。またしても修正があるようです。このやりとりをあと2回繰り返します。デザインの修正とクライアント確認を繰り返し、どんどん時間が過ぎていきます。結局校了したのは深夜3時すぎです。

 このクライアントは毎回こんな働き方を要求してきます。今は受ける回数も減ってきましたが、多かった頃は毎月依頼がきて、入稿日は深夜4時頃まで対応していました。 

このままだと脳梗塞になって死んでしまいそうと思うことも

 印刷会社の担当者は、僕たちがデータを送ってから作業開始なのでさらに大変です。みんなお金で買われて働いている奴隷です。

 ほかの案件も担当しているので、寝ることなく翌日も朝から働きます。先輩は帰宅して仮眠を取ってから出社します。いい身分です。

 この生活がいつまでつづくのだろうと不安に思ったり、このままだと脳梗塞になって死んでしまいそうとか思うこともありましたが、心のどこかでこの働き方を楽しんでいたりもします。

 ところで、広告業界に入って意味がわからないと感じたのが、こうした待ち時間です。待ち時間の多い仕事を繰り返したせいで、待つという行為が苦手になりました。

 ラーメン屋で並ぶのも苦手となり、美味しいラーメン屋に行くことはすっかりなくなってしまいました。

「みなし残業」という悪魔との契約

 こんなブラックな労働環境を支えているのが「みなし残業」です。これは悪魔との契約に近く、これを結んだら最後、どれだけ残業しようが残業代は0円です。

 僕のYouTubeでも、こんなに働いているってことは残業代で稼いでいるんだろうと思う方もいるようですが、どれだけ働いても給料は変わりません。

 広告業界、特にクリエイティブ職はこの制度を取り入れているところが多いです。 

 みなし残業とは、最初から一定時間分の残業代が固定給の中に含まれている残業代のことです。

 働けば働くほど時給換算では安くなっていきます。先日恐る恐る時給換算をしてみたところ、月によっては時給500円台で働いていることもありました。

 このみなし残業制度によって、デザイナーはどれだけ働いても豊かにならず、働けば働くほど気力体力を失います。 

デザインの仕事は時間では区切れない

 十分なお金と時間があればストレス発散方法はいくらでもあるのでしょうが、お金も時間もないためストレスは溜まる一方です。お金も時間も使わないストレスの発散方法を見つけられないと、いずれ鬱になってしまいます。僕は今、薄給激務ながらもなんとか工夫しながら発散することができています。

 しかし、みなし残業が絶対に悪いかというと、そうではないのが難しいところです。 

 デザインの仕事は時間では区切れないこともあります。時間がたくさんあれば良いアイデアが出るというわけでもなく、短い時間で良いアイデアを大量に生み出す人もいます。 

 優秀な人ほど短い時間で仕事ができるので、もし残業代が発生してしまうと仕事ができない人ほど稼げるというおかしな仕組みになってしまいます。

 ただ、今の職場では、みなし残業によって労働意欲が下がるので、成果主義を取り入れてほしいです。

「広告業界の最底辺」「精神疾患で辞める人ばかり」手取り16万円、ブラック企業勤務の“社畜デザイナー”を苦しめる過酷な労働環境 へ続く

(玄田 小鉄/Webオリジナル(外部転載))

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