自社の商品と似ている絵柄の布団を製造・販売されて著作権侵害されたとして、寝具メーカーのA社が、ホームセンターやインテリアメーカーなど3社(B社、C社、D社)を相手取り、約2600万円の損害賠償や商品の廃棄を求めていた訴訟で、大阪高裁は著作権侵害を認めない判決を言い渡しました(2023年4月27日付)。

この訴訟は、布団の絵柄が著作権法の対象となる「美術工芸品」にあたるかどうかが争点となっていました。大阪高裁はどのような判断をしたのでしょうか。

●バラの花やダマスク柄、アラベスク柄を組み合わせた絵柄

A社の布団は、同社がテキスタイルデザイナーから購入したデザインを元に製造し、2014年から販売していました。布団の柄は、バラの花やダマスク柄、アラベスク柄と呼ばれるものが、上下方向に組み合わさったものです。

一方、ホームセンターを運営するB社は、仕入れ業者であるC社にプライベートブランド(PB)商品の開発を委託しました。C社は、インテリアメーカーのD社に再委託し、D社からバラの花模様とアラベスク模様などを上下方向に配置した絵柄の提供を受けました。

C社はこれらの絵柄をB社に対して提案するとともに、参考としてA社の絵柄も示しました。B社はA社の絵柄が好ましいと回答して、A社の絵柄を参考にPB商品を製造。2018年からB社のホームセンターで販売するようになりました。

●布団の絵柄に著作物性はあるか

主な争点は、そもそも「A社の布団の絵柄に著作物性があるかどうか」でした。

A社は、バラの描き方にしても「無限の選択肢がある」などとして、絵柄に「著作物たりえる創作性がある」と主張しました。

これに対して、B社とC社は「布団は、人が睡眠時に長時間使用するものであり、汗などの体液や皮脂が付着することが不可避」であり、「一汗染みや皮脂汚れが目立たないような絵柄であることも、重要な実用的機能の一つ」として、布団の絵柄が「実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているとはいえない」などと反論しました。

また、D社も、布団の絵柄について「極めてありふれたものにすぎない」などとして、著作物性は認められないと主張しました。

1審・大津地裁は「著作権物ではない」と判断し、大阪高裁も1審と同じく、「著作権法上の著作物ということができない」と結論づけたうえで、A社の請求を退けました。

●大阪高裁の判断のポイント

大阪高裁の判断のポイントについて、知的財産権にくわしい冨宅恵弁護士に聞きました。

——今回の判決をどうみたらよいのでしょうか。

今回の大阪高裁の判決は「伝統的な判断基準」に基づくものと言えます。

たとえば、美術品の典型例には、キャンバスに描かれた絵画、木や岩から削り出した像などが挙げられます。

そういった絵画や像は、世の中に一品しか存在せず、これらに「個性」が表現されている場合、創作性が認められて、著作権法で保護されるわけです。

一方で、古くから、量産される工業製品のデザインも著作権法で保護されるのかという問題がありました。

この問題を考えるにあたっては、特許庁に出願することによって工業製品のデザインが保護される「意匠」との関係を考慮する必要があります。

意匠法では、新規、かつ、創作非容易な工業製品のデザインに限って、特許庁に出願して登録されると、そこから25年間保護されることになっています。

一方、著作権法では、出願手続きは必要なく、著作物であると判断されると創作者の死後70年も保護されることになります。

工業製品のデザインを著作権法で広く保護することを認めてしまうと、特に手続きもなく長期にわたって保護される著作権法の保護のほうが有利となり、意匠法による保護を求める人がいなくなります。

そこで、裁判所では、意匠制度とのバランスから、典型的な美術品のように一品ものでない、つまり量産される工業製品も著作権法の保護の対象になるが、工業製品の場合には、本来の用途から離れて、独立に鑑賞の対象足りうるようなデザインが施されていなければならないと考えられてきました。

●「本来の用途から離れて、独立に鑑賞の対象足りうる」かという基準

——これまでも工業製品のデザインが争われた事例はあるのでしょうか。

上記の考え方を明確に示したのは、長崎地裁佐世保支部昭和48年2月7日判決です。

この事件では、量産品の博多人形が著作権法によって保護されるかどうかが判断されました。そして、意匠法との関係から、「本来の用途から離れて、独立に鑑賞の対象足りうる」かという基準が示されて、多くの裁判で採用されてきました。

他にも、デザイン書体が著作権法で保護されるのかという問題では、最高裁が、この基準を採用し、問題となった書体が、本来の利用から離れて鑑賞の対象たりうるかという基準を示しました(平成12年9月7日判決)。

ところが、幼児用の椅子が著作権法によって保護されるのかが問題となったケースでは、知財高裁が「本来の用途から離れて、独立に鑑賞の対象足りうる」かという基準を「不要である」と判断し、問題となった幼児用の椅子が著作権法の保護対象になると判断しました(平成27年4月14日判決)。

ただし、この知財高裁の判決では、複製権侵害の判断を厳格におこなって、結果として著作権侵害を否定しています。

デザイン書体に関する最高裁判決との関係が問題となりましたが、その後の東京地裁の判決では「本来の用途から離れて、独立に鑑賞の対象足りうる」かという基準が必要であると判示されています。

●大阪高裁の判断は今後どう影響する?

——今回の大阪高裁の判断は今後、どのような影響を与えるのでしょうか。

そもそも、著作権法によって保護される対象は、先に説明したような一品もので、専ら鑑賞の対象となるものです。

ですから、量産される工業製品が保護されるとしても、一品ものの美術品に準じる性格のもの、つまり、本来の用途としても使用するが、それとは離れて鑑賞の対象となるようなものではなければなりません。今回、大阪高裁が改めて確認した基準は、今後も採用されつづけると思います。

【取材協力弁護士】
冨宅 恵(ふけ・めぐむ)弁護士
大阪工業大学知的財産研究科客員教授。多くの知的財産侵害事件に携わり、プロダクトデザインの保護に関する著書を執筆している。さらに、遺産相続支援、交通事故、医療過誤等についても携わる。「金魚電話ボックス」事件(著作権侵害訴訟)において美術作家側代理人として大阪高裁で逆転勝訴判決を得る。<https://www.youtube.com/c/starlaw>
事務所名:スター綜合法律事務所
事務所URL:http://www.star-law.jp/

「布団の絵柄を真似された」会社がホームセンターなどを訴えた裁判、著作権侵害にあたる?