信頼できる友人・知人からの紹介を通じて人材を獲得する採用手法、「リファラル採用」。従来の採用方法よりコスト削減でき、ミスマッチを抑制できるなどさまざまなメリットがあります。リファラル採用を成功させるには、どんな準備・実践が求められるのでしょうか? 鈴木貴史氏の著書『人材獲得競争時代の戦わない採用「リファラル採用」のすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、成功事例として「株式会社モスストアカンパニー」を紹介します。

株式会社モスストアカンパニー

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【企業データ】

従業員数:正社員約300名、キャスト約4,500名

業種:外食・中食

領域:アルバイト・新卒・キャリア全ての採用

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「リファラル採用」の導入背景

少子高齢化に伴い、労働力の減少が深刻化しているサービス産業において、採用や離職などの人的資本は喫緊の課題です。なかでも、飲食店のアルバイト職の離職率は一般的に50%といわれ、働き手の安定的な確保が難しい状況です。また、社員や店長候補の採用も激化しており、慢性的な人手不足が続いています。

モスストアカンパニーはこうした背景から、アルバイト採用の強化と離職率の減少、そして正社員登用の増加を目標にリファラル採用の強化を目指しました。

従来もリファラル採用制度は行ってきましたが、店舗によって取り組みにバラつきがあったり、制度が形骸化していたりと、改善が必要な状態でした。そのため、全社でリファラル採用の推進へ舵を切ることとしたのです。

従来のリファラル採用を「リファモス」として強化

【準備:バラバラだった各店舗の制度を全社で統一】

リファラル採用制度の運用を店舗ごとに任せていたため、全国のキャスト(アルバイト・パート)までの浸透度合いやインセンティブの管理にもばらつきが生じていました。そこで、店舗ごとに管理する体制から、本社人事が全社のリファラル状況を管理・推進するように変更しました。人事から各店長にリファラル採用の情報を発信し、そこからキャストに伝えていく段階的なコミュニケーションをデザインしました。

【認知:制度に独自のネーミングを付けて採用ターゲットも拡大】

スタッフがイメージしやすい「リファモス」というキャッチなネーミングを掲げ、本社やスーパーバイザーからの声掛けやキャンペーンを実施して認知を広げていきました。初期段階はキャリア採用で店長や社員の採用を実施し、その後、キャストへと採用ターゲットを拡大しました。加えて、プレスリリースを発信し、社外に向けてもリファラル採用を本格化したことを伝えていきました。

【共感:貢献度の可視化と賞賛による動機付け】

MyReferシステムにより各店舗での紹介状況を可視化したため、そのデータを用いて、リファラルを多く実施した従業員を賞賛していきました。

また、現場社員が集まる事業方針の説明会で「圧倒的な採用難時代であり、会社としての成長を継続するためにリファラル採用が重要である」という、リファモスに取り組む背景と意図を継続的に説明しました。一度説明をしただけでは浸透しないので、社員研修など現場社員との直接の接点がある際には、リファラル採用に取り組む目的を何度も説明して地道な声掛けをしていきました。

【行動:SNSからでもリファラルできる仕組みとノウハウの還元】

従業員がアクションを起こしやすいように、MyReferツールを使ってSNSでの紹介を簡単にしました。特に高校生のキャストは友人とLINEでコミュニケーションを取り合うため、スマホで簡単に紹介ができることがポイントになっています。

また、人事担当者が全店舗の情報を管理することにしたため、よい取り組みがあればそれを他店舗にも還元していくような循環を生み出すことができました。

【実績:2日に1人がリファラル採用で入社し、1年以内の離職率も低減】

モスストアカンパニーのなかで、2日に1人のペースでどこかの店舗で誰かがリファラル採用により入社する状況が生まれました。そしてリファラル採用を行ったことで、2016年6月から2017年7月までの約1年間でキャストの1年以内離職率が12.5%にまで低減することができました。リファラル採用で入社するとほとんど辞めないという喜ばしい結果が出ているのです。

また、リファラル採用を推進していく過程で、従来から行われていたキャストからの社員登用の仕組みもわかりやすく整備しました。モスストアカンパニーでは、3年以上継続して働いているキャストの方々が多く、そのなかには社員になれば即戦力として活躍できる優秀な人材が多くいます。しかし、これまでは人事と現場の情報共有にはバラツキがあり、人事は優秀なキャストがどの店舗の誰なのかほとんどわからない状況でした。現場の優秀なキャストのことは現場の社員が一番知っているので、現場社員からダイレクトに声掛けをしてもらう導線を整備し、また、キャストが自らリファラルの内部求人に応募できる仕組みも整備しました。これにより、リファラル採用ツールを通じて内部紹介が加速し、正社員募集の求人に自ら応募して正社員になりたいという意思を本社人事へ伝えることができるようになったことで、正社員採用にも好影響を及ぼしています。

取り組みのポイント

飲食店において、1年以内離職率が12.5%になるということは驚異的なことです。リファラル採用を実施することで、店舗のなかで気の合う仲間たちと働けるようになったことが離職率の低下に寄与していると考えられます。また、店舗で働くキャストを従業員自ら仲間集めするようになったことで、結束力や当事者意識が醸成されたことも離職率低減の要因といえるでしょう。

さらに、社員登用の仕組みを利用するキャストが増加したことは、リファラル採用を通じて、一人ひとりがモスストアカンパニーで働く可能性を考えるようになったり、自分自身の可能性も見据えるようになったりしたことも要因としてあるでしょう。企業にとっても、個々の社員にとっても、リファラル採用は大きなメリットのある取り組みといえます。

鈴木 貴史

株式会社TalentX(旧株式会社MyRefer) 代表取締役CEO

(※写真はイメージです/PIXTA)