皆さんは失敗や周囲からの評価が下がることを恐れるあまり、成果が出る前から弁解に走ってしまったという経験はありますか?誰しも自分に対する評価の悪化は好ましいことではないでしょう。しかし、周囲に対して自分を低く見せることは、最終的には自身の本質的な実情に伴わない結果を生みかねません。

そこで、この記事ではそんな自己を低く見せて周囲の評価を得ようとする行動であるセルフハンディキャッピングについて特徴やメリット・デメリット、克服する方法について解説します。また、アスリートの抱えやすい慢性痛とセルフハンディキャッピングに関係性についても解説します。

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セルフハンディキャッピングとは

セルフハンディキャッピングとは、わざと自己に制約やハンデを課す行為のことです。 具体的には、本来なら目的のために全力を尽くすべきなのに、敢えて自分自身に不利な条件を与え、結果が出にくくなるような要因を作ります。 例として、重要な試験の前に意図的に時間を無駄に過ごしたり、他の優先事項に取り組んだりするといった行動があげられます。 セルフハンディキャッピングの目的は自身のプライドを守るために、劣等感や自己評価の低下を回避することです。 また、成功や失敗の原因を外的要因に押し付けることで自己肯定感を保ったり、自己の能力に対する疑念を払拭する効果もあります。

セルフハンディキャッピングの特徴

セルフハンディキャッピングは客観的な視点で捉えると自らの保身を優先させる行為として映りやすいことから、ネガティブな印象を抱く方も多いのではないでしょうか。 しかし、意外なことにセルフハンディキャッピングには成果に近づくためには欠かせない価値も存在します。 そこで、ここではセルフハンディキャッピングの特徴をメリットだけでなく、デメリットも含めて解説します。

セルフハンディキャッピングのメリット

セルフハンディキャッピングのメリットには以下のようなものが挙げられます。

・自己肯定感の維持
セルフハンディキャッピングのメリットとして自己肯定感の維持が挙げられます。 高い自己肯定感は、ものごとや感情を受け入れ、自らをコントロールする原動力となります。 失敗の原因は自分が劣っているわけではなく取り巻く原因にあると考えることで、物事を前向きに捉え次の行動までのタイムラグを減らすことができます。 また、万が一、十分な成果を生むことができた場合は「自分は能力が高いから逆境でも成果を生むことができた」と考え、自己肯定感をさらに高めることができます。

・自身に対する評価の保護
場合によっては自身に対する社会的な評価の保護も見込めるでしょう。 周囲からの批判や評価に対して、特定の事情により結果が振るわなかったと発信することで評価へのダメージを軽減することができます。 ただし、多くの場合ではセルフハンディキャッピングによる評価の操作は一時的なものに終わるでしょう。 高い公平性や一貫性を持った評価指標の中では、バイアスのかかりやすい評価主体そのものによるは意味をなさないでしょう。

セルフハンディキャッピングのデメリット

セルフハンディキャップのデメリットには以下のようなものが挙げられます。

・本来の成果が出せない
自ら不利な条件を課すことで、本来の能力や潜在的な成果を十分に発揮できなくなる可能性があります。 また、自己の成長やパフォーマンスの向上に制約がかかることがあります。

・自己効力感の低下
セルフハンディキャッピングが習慣化すると、自己効力感の低下に繋がることがあります。 自己の能力に対して疑念を抱くようになり、挑戦や新たなチャレンジを避ける傾向が生じる場合があります。

・周囲に対して不信感を与えてしまうことがある
特に、チームプレーの競技をしている場合は、周囲からの信頼や評価にも影響を及ぼす可能性があります。 セルフハンディキャッピングを頻繁に行うことで、他者からの評価や信頼を減少させることがあり、人間関係や社会的な成功に悪影響を及ぼすことがあります。

セルフハンディキャッピングには2種類存在する

実はセルフハンディキャッピングは2種類存在します。

獲得的セルフハンディキャッピング
獲得的セルフハンディキャッピング(acquired self-handicapping)ではあらかじめ成果が出にくくなるような要因を自ら作り出します。 例えば、テスト前にゲームや整理整頓に時間を費やしてしまい、「結果的に点数が伸びなかった」と言い訳することや、仕事をあえて引き受けて「タスクを完遂できなかった理由は仕事が増えたからだ」と自身に言い聞かせます。 こうした行動を取ることで自尊心を守りつつ、成功した場合にはさらなる自己満足感を得ることができます。

主張的セルフハンディキャッピング
主張的セルフハンディキャッピングは、成果を生むことができなかった要因を周囲に発信することで、期待される成果をあえて下げます。 例えば、睡眠不足を周囲にアピールすることで、実際には努力していないにもかかわらず「自分は周囲が予想だにしない成果を出せた」と主張します。 仮にうまくいかなかった場合には「寝てないから成果が出ないのは当然」と自己を正当化することができます。 ただし、主張的セルフハンディキャッピングが頻繁に行われると、信頼性や印象に悪影響を与える可能性があります。 自己効力感や信頼を保つためには、実際の努力や蓄積された実績が求められます。

【論文で解説】アスリートの慢性痛にはセルフハンディキャッピングが関与している?

原因となるような疾患が見当たらないにもかかわらず、痛みが慢性的に続く状態を慢性疼痛と言います。 この状態はアスリートに多く、怪我や不安などによる心理的要因が大きく影響していることが多いとされます。 オランダのマーストリヒト大学の研究者らによる研究Achievement Goals, Fear of Failure and Self-Handicapping in Young Elite Athletes with and without Chronic Pain(2021)では、思春期のアスリートにおける慢性疼痛とセルフハンディキャッピングの相関を検証しました。 研究の結果、慢性疼痛を抱えているアスリートはそうでないアスリートに比べて、統計学的に有意にセルフハンディキャッピングを行いやすいという結果が得られたそうです。 また、この研究ではセルフハンディキャッピングを優先させることで本来の目標から逸れてしまい競技から離れてしまう危険性についても触れられています。

セルフハンディキャッピングを克服するには

セルフキャッピングが習慣化してしまっている人にとっては克服することは大変なことに思えるかもしれません。 セルフハンディキャッピングの根底には自己における不安や失敗経験が大きく影響していることもあります。 セルフハンディキャッピングを乗り越えるには、失敗を恐れず、自信とポジティブ思考を持ち挑戦することや、周囲のサポートを活用することが効果的です。 自分の言動や思考を見つめ直し、自己評価を高めることで自信を構築し、行動に変化を生むことも大切です。 また、ときには周囲のサポートを活用し、他人の視点やアドバイスを受けることで解決策を見つけてみても良いでしょう。

引用論文・https://www.mdpi.com/2227-9067/8/7/591

[文:スポーツメンタルコーチ鈴木颯人のメンタルコラム]

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会
代表理事 鈴木颯人

1983年イギリス生まれの東京育ち。7歳から野球を始め、高校は強豪校にスポーツ推薦で入学するも、結果を出せず挫折。大学卒業後の社会人生活では、多忙から心と体のバランスを崩し、休職を経験。
こうした生い立ちをもとに、脳と心の仕組みを学び、勝負所で力を発揮させるメソッド、スポーツメンタルコーチングを提唱。
プロアマ・有名無名を問わず、多くの競技のスポーツ選手のパフォーマンスを劇的にアップさせている。世界チャンピオン9名、全日本チャンピオン13名、ドラフト指名4名など実績多数。
アスリート以外にも、スポーツをがんばる子どもを持つ親御さんや指導者、先生を対象にした『1人で頑張る方を支えるオンラインコミュニティ・Space』を主催、運営。
『弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉』『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』など著書8冊累計10万部。

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