優秀な人材を集めている人に役立つかもしれません。

ドイツのシャリテ・ベルリン医科大学(CUB)で行われた研究によって、知能が高い人ほど難しい問題の回答に時間がかかることが示されました。

また研究では知能が高い人と低い人の脳内で起こるプロセスを比較することで、知能の本質に迫る発見もなされました。

今回の研究結果をAIに組み込むことができれば、AIの知能をより人間に似たものに変化させられると期待されます。

しかし、なぜ頭が良い人はほど難しい問題に時間をかけてしまうのでしょうか?

研究内容の詳細は2023年5月23日に『Nature Communications』にて公開されました。

目次

  • IQが高い人ほど難しい問題に「時間をかける」と判明!
  • 知能とは問題解決の「面倒な検証プロセス」に耐える力だった

IQが高い人ほど難しい問題に「時間をかける」と判明!

IQが高い人ほど難しい問題に「時間をかける」と判明!
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

昔から頭の良さの指標に「難しい問題でも即座に答えに辿り着く」ことが含まれていると信じられていました。

フィクションでも、凡人がいくら時間をかけても解けなかった難問を、颯爽と現れて「即座に答える」天才が登場することがあります。

IQテストをはじめ多くの知能を図るテストも、制限時間内により多くの問題に応えることで、高成績を収められるようになっています。

また多くの人々は素早い意思決定ができる人は有能とみなす一方で、考え込む時間が長い人は「消極的」「無能」とみなしがちになります。

しかし意外なことに「知能の高さ」と答えを出す「意思決定のスピード」そして「答えの正しさ」の3つの関連性を調べた研究は少なく、本当に意思決定の早い人が知能が高く答えが正確なのかは、実は不明となっていました。

そこで今回、シャリテ・ベルリン医科大学の研究者たちは、IQが判明している650人の被験者たちの脳活動をMRIで測定しながら、「簡単な問題」から「難しい問題」までさまざまな問題を解いてもらいました。

ここで言う「簡単な問題」とは「赤信号なら車は止まるべきか?」といった、知能に関係なく時間さえかければ誰でも必ず正解に辿り着けるものです。

一方「難しい問題」は脱出ゲームや論理パズルのように論理と推論の構築が必要とされ、単に時間をかけるだけでは答えに辿り着けず、地道に検証プロセスをすすめなければならない、「脳が疲れる問題」となっています。

さらに難しい問題には往々にして、一見すると飛びつきやすい、誤った「引っかけ」も存在していました。

それでも既存のイメージ通りならば、知能(IQ)が高い人は、難しい問題でも素早く正しい答えを出してくれるはずです。

しかし結果は違いました。

頭のいい人は難しい問題に応えるのに長い時間をかけていました
Credit:Michael Schirner et al . Learning how network structure shapes decision-making for bio-inspired computing . Nature Communication (2023)

実験を行ってみると、IQが高い人は時間さえあれば誰でも正解するような「簡単な問題」を素早く答えることは得意でした。

しかし「難しい問題」ではIQが高い人は低い人よりも、答えるのに長く時間がかかっており、代わりに正答率が高いことが判明します。

一方、IQが低い人は「簡単な問題」を答えるのに多くの時間を要したものの「難しい問題」はIQが高い人よりも短時間かつ「低い正答率」で、誤った引っかけを選んでしまう傾向にありました。

この結果は、簡単な問題にかんしては既存のイメージ通り頭が良い人が素早く答えに辿り着くものの、難しい問題では頭がいい人ほど時間をかけて、より正しい答えに辿り着くことを示しています。

また難しい問題の答えを早急に下してしまう人は、答えが間違っているだけでなく、知能も低い可能性が高いことを示します。

フィクションの世界では、難問を一瞬で解いてくれる天才は、強敵を一撃で倒すヒーローのような頼もしさがあります。

しかし現実では、知能の高い人ほど難題には時間をかけ、少しずつ正解に近づいていくようです。

そのため、もし知能が高い優秀な人材を集めているならば、難しい問題に即座に答えを見つけてしまう人より、時間をかけて挑むジックリ型の人を探すといいでしょう。

ただ今回の研究で本当に凄いのはここからになります。

研究ではなんと「IQが高い人が難問に時間をかけて正解するとき」そして「IQが低い人が難問に即座に間違った答えを出すとき」それぞれ脳内で何が起きているかが調べられ、知能の正体に迫っているのです。

知能の本質とは、いったい何だったのでしょうか?

知能とは問題解決の「面倒な検証プロセス」に耐える力だった

知能とは問題解決に必要な「面倒な検証プロセス」に耐える力
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

知能の本質とは何なのか?

謎を解明すべく研究者たちは被験者たちの脳活動をもとに、1人1人の脳の意思決定プロセスを再現する「脳のアバター」を作りました。

この脳のアバターでは被験者たちの脳活動の忠実なシミュレートが行われており、さまざまな難易度の問題に対して、どんな脳活動が起きているかを正確に再現することが可能です。

すると興味深いことに、実際の人間の脳でも「脳のアバター」でも共に、意思決定に時間をかける「遅い」脳では、より多くの脳領域間の活動の同期がみられました。

難しい問題を解くには、推論と論理を組み立てながら作業記憶を随時、新しいものに更新していくことが重要です。

分析では、優れた同期性を持つ脳は同期ができていない脳に比べて、必要な検証プロセスを終えるまで、答えを出すのを我慢して先延ばしにできることが判明します。

一方、同期性が低下した脳では問題解決に必要な「面倒な検証プロセス」を完了するまで待てなくなり、文字通り「結論に飛びついている」ことが示されました。

問題を解くとき、私たちの脳内では答えへとつながる複数の神経ネットワークが構築され、より強力な証拠や論理をもったニューロングループが「答え」として選択されることになります。

テストの4択のように私たちの脳内では検討すべき候補に関連した神経ネットワークが瞬間的に形成され、証拠や論理の検証を受けて候補が絞られているからです。

「赤信号で車は止まるべきか?」のような問題では、答えにつながる神経ネットワークの構築や検証に必要な同期レベルも少なくてすむため、私たちはこの問題を「簡単」と感じます。

しかし難しい問題の場合、答えにつながる神経ネットワークの構築が多くなり、検証に多くの労力が必要とされるため、それらしい結論に飛びつきたいという欲求が高くなっていきます。

同期の維持が苦手な脳は検証を続ける辛さに耐えきれず、この誘惑に負けてしまいます。

この結果から、知能の本質とは脳領域間の同期を維持し続け、面倒な検証プロセスに耐える力だと言えるでしょう。

これは考える持久力と言えるでしょう。

知能は遺伝的要素が50%以上と言われていますが、後天的に才能を発揮した天才たちは、運動同様にこの考える持久力を鍛えることで才能を発揮したのかもしれません。

人間の知能と同じ特徴をAIに持たせる

人間の知能と同じ特徴をAIに持たせる
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

今回の研究では、人間の知能を忠実に再現する「脳のアバター」が開発され、研究に用いられました。

そして研究では、脳領域間の活動を同期させ続けることが、検証プロセスや作業記憶を維持させ、問題解決まで意思決定を下すのを耐えることを示しています。

そのため、もしAIに同じような同期・思考プロセス・作業記憶といった要素を組み込み、意思決定までのスピードを遅くするような仕組みを取り入れることができれば、より人間に近い知能を作れるようになるかもしれません。

また脳のアバターで観察された結果が現実の被験者の脳活動と一致しているという結果は、医学分野においても有用になる可能性があります。

もしアルツハイマー病のような認知症を再現する患者1人1人の脳アバターを構築することができれば、外科・薬物・脳刺激などの、どの方法が有用になるかをシミュレーションで予測し、高精度な個別医療を提供することが可能になるでしょう。

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参考文献

Intelligent brains take longer to solve difficult problems https://www.bihealth.org/en/notices/intelligent-brains-take-longer-to-solve-difficult-problems

元論文

Learning how network structure shapes decision-making for bio-inspired computing https://www.nature.com/articles/s41467-023-38626-y
IQが高い人ほど難しい問題の解答に「時間がかかる」と判明!