先日、「限界オタク」という言葉が若者の間で人気だとテレビ番組で紹介されていました。限界オタクの意味は、アニメとかゲームなどの特定の分野に好意を抱きすぎる人、だそうです。

 そしてどうやら、かなり無茶な行程で趣味の旅行をする人も限界オタクに含まれるとか。僕も旅行が好きでよく行くので「コイツ限界だ……!!」などと周りに言われていた気がします。関心のあることには金をかけ、宿や移動にはコストをかけず、コスパのいい旅をするスタイルで、類は友を呼ぶというもので「限界旅」をする知人も増えました。

旅に金を使わずコスパを重視するライフスタイルが話題に

 この旅行系「限界オタク」が中国でも「特殊兵式旅行」という名前で登場し、ネットで話題になりました。5月1日からの中国の大型連休に、若者が駅のベンチに泊まりながら、金と時間を節約するために長距離列車を活用して数日をかけて中国全土を巡るというもの。まぎれもない限界オタクの行動であります

 日本をはじめ世界各国で爆買いをした中国人より若い世代の、旅に金を使わずコスパを重視するライフスタイルが話題になったわけです。今後、中国から日本へ観光が簡単にできるようになったとき、爆買いをする人々だけでなく限界旅行をする金払いの悪そうな人々も来そうな気がしてなりません。

 中国のトレンドニュースを日々見ていると、最近の中国の若い世代は趣味には金を使うけど、それ以外のことには倹約するようになった、という報道が増えたように感じます。また、「若者は消費したいという欲望がない」という内容を中国語ネット検索すると、2020年以降のニュースが大量に出てきます。

「浪費をせずミニマリストであることが美徳」という考えも

 例えば、メルカリのようなオンラインの中古取引サイトで欲しいものを安く買おうとする人が増えたのです。近年は「試してみたいが頻繁に使うか分からない」という小型家電やフィットネスマシンの中古商品購入に慣れている人が多数います。

 服を中古で買っている人も多いです。昔であれば「他人の服を着るなんて汚れるようでありえない」と言われたものですが、中古売買で済ますうちにQOL(Quality of life)は変わらないという認識になったという話も。

 フィットネスクラブの会員カードを売買するところも見かけるようになり、必要なだけ利用資格を買って売ることも習慣化。

「仕事や生活において、自分のアイデンティティセンスを示すために高級品に頼る必要はない」とばかりに、贅沢品などの必要のないものは買わず、むしろ浪費をせずミニマリストであることが美徳という考えもよく見るようになりました。ほんと若者の考え方は変わりましたよ。10年ほど前の中国人なら所有することが喜びだったけれど、その経験を経て、今は所有することにドライになったのでしょう。

10元店が立て続けに出てきて競争が激化

 振り返れば、中国でコスパ重視のブランドはこれまでも成功例はありました。例えば「ダイソーユニクロ無印良品を足して3で割ったようなブランド」と言われる「メイソウ(名創優品)」が代表的です。メイソウは「100円ショップ」ならぬ「10元店」の先駆けとして中国全土ばかりか世界規模で展開し、それまでの中国では高価で統一感のなかった雑貨を手軽な値段で買えるようにしました。

 しかもメイソウに続けとばかりに「MUMUSO(ムムソウ)」や「YOYOSO(ヨヨソウ)」といったメイソウ似のチェーンも出てきて競争は激化。その後、先行するメイソウは2020年10月に米ニューヨーク証券取引所に上場し、商品の供給網であるサプライチェーンを強化。コロナ禍でも比較的安定した商品供給を実現し、10元店の中で抜きんでた存在となっています。

 また表参道にも進出したドリンクアイスクリームチェーンの「MIXUE(蜜雪冰城)」は、既存の中国のドリンクチェーンに比べて激安で買えることが人気となり中国全土に普及。さらに海外にも展開し、各地で好評に。

コスパのいいディスカウントショップが中国各地で続々と登場

 また、最近高田馬場に開店したフライドチキンチェーン「正新鶏排」もMIXUE同様、激安で店舗を広げたチェーンです。中国でスターバックス以上に店舗を増やす「ラッキンコーヒー」も元はといえば、配布されるクーポンを利用するとかなりお得になることで人気のチェーンですし、ECや配車やフードデリバリーもクーポンでお得になるサービスが利用者を増やしています。いずれも若者に人気です。

 倹約上手になるのは若者だけではありません。食品にも倹約の波がやってきています。

 中国はコロナ禍において、局地的に感染エリアロックダウンする「ゼロコロナ政策」を行った結果、不景気となり、2022年後半は不景気がより一層深刻になりました。そんななかで、コスパのいいディスカウントショップなどが中国各地で続々と登場し、一気に普及しました。

いいモノを安く売る量販店が人気

 日本人の多い上海では「Hot Maxx(好特売)」というチェーン店が在住日本人にも愛用されているようです。賞味期限切れになりそうな商品などの訳あり商品を激安価格で売っていて、コロナ前からあったけれど、盛り上がってはいませんでした。しかしコロナになってからこれが大きなムーブメントになり、上海などの大都市から中国各地に広がっています。

 中国のニュースを読むと、「不景気で消費が落ち込む中での期待のサービス」「消費が冷える中で、いいモノを安く売る量販店が人気」的な書かれ方をしているわけですよ。ああ、これは日本も通った道じゃないかと。しかもいろんな記事で「目指せ、日本のドン・キホーテ」と言わんばかりの文章になっている。

 MIXUEやラッキンコーヒーなどは今や1万店を超えているのに対し、ディスカウントストアは伸びているとはいえ、まだ1000店舗にも満たないので、店舗数の拡大はこれからが本番です。大都市だけでなく地方都市でも人口密度の高い商業地にどんどん展開されていき、各地でディスカウントチェーン店同士のガチンコ対決が見られるようになるのは時間の問題でしょう。

スーパープライベートブランドで黒字を達成

 それだけ店舗が増えていくとなると、メイソウ同様サプライチェーンの構築が大事になっていくわけですが、これも規模の大きいディスカウントストアは既に手をつけていて、プライベートブランドも作っている。

 ディスカウントストアではないけれど、おそらく今一番、小売の理想形なのが、アリババグループでカバのマークスーパー「Freshippo(盒馬鮮生)」です。

ニューリテール(新小売)」を合言葉に、かつて日本の一部界隈でも話題になるほど最先端なスーパーだったFreshippoは、中国各地の専門の農場や養殖場と提携し、アリババテクノロジーを活用して生産効率を向上。食品を自社で加工してFreshippoに卸す仕組みを構築しています。

 プライベートブランドにより中間マージンを排除し、またプライベートブランドを同店ECサイトや実店舗で推していくことで、利益率を高めて中国のスーパーではなかなか難しいと言われる黒字を達成しました。Freshippoを追う他のスーパーも、今後は安くて高品質なプライベートブランドを推すようになるでしょう。

中国デフレ社会に本格的に突入

 このように中国では、100均ならぬ10元均一や中古市場、プライベートブランドが揃い、安くていいモノを買って使えるようになりました。中国政府も脱炭素社会を推奨する手前、中古などのリサイクルは否定できません。

 中国の首都経済貿易大学教授の陳立平氏は2019年に「中国の小売業界は低価格と品質を両立する商品革命の時代に入る」と分析しています。また中国の大手調査会社「知萌諮詢」の調査レポート「2023年中国消費趨勢報告」によれば、今の中国の若者は盲目的にお得なモノを買うのではなく、必要なモノが安くなったときに買うそうです。

 中国がデフレ社会に本格的に突入する時期ですが、例えば少子化も驚くほどの“中国スピード”で進んでいるわけで、進むときは想像以上の速さで進むかもしれません。中国式の“もったいない”が面白いニュースを生み出すかもしれないし、中国ならではの驚きの倹約商品や倹約サービスが今後出てくるかもしれませんね。

写真=山谷剛史

(山谷 剛史)

中国で人気のディスカウントストア「Hot Maxx(好特売)」(Hot Maxxのオフィシャルサイトより)