
死者の埋葬は、ホモ・サピエンス(現生人類)が最初に始めたわけではなかったようです。
南ア・ウィットウォーターズランド大学(Wits University)の率いる国際研究チームは先日、南アフリカの洞窟内で約33万5000年〜24万1000年前と推定される”世界最古の埋葬地”を発見したと報告しました。
埋葬を行ったのは、絶滅した小さなヒト族の「ホモ・ナレディ(Homo naledi)」と見られています。
これまでのところ、ホモ・サピエンスによる最古の埋葬跡はアフリカで見つかった約7万8300年前のものです。
ホモ・ナレディはそれに大きく先んじて、家族や友人の弔いを行っていた可能性があります。
研究の詳細は、2023年6月5日付で3本の査読前論文がプレプリントリポジトリ『bioRxiv』に公開されています。
ホモ・ナレディの脳サイズは現生人類の3分の1しかない
絶滅した人類種の1つホモ・ナレディの化石が最初に見つかったのは2013年のことです。
これは南アフリカの都市ヨハネスブルグの近郊にある「ライジングスター洞窟」の内部で発見されました。
この洞窟は、”人類のゆりかご”と通称され、ユネスコ世界遺産に登録されている「南アフリカの人類化石遺跡群」の一部です。
それ以来、ライジングスター洞窟ではホモ・ナレディの化石断片が延べ1500個以上も回収されています。
またホモ・ナレディの化石から全身骨格を復元してみると、ホモ・サピエンスよりずっと小柄であることが分かりました。
大人でも身長は約1.5メートル、体重45キロと推定され、脳のサイズは私たちの3分の1程度、研究者らは「ミカンほどのサイズ」と表現しています。

ホモ・ナレディは類人猿と現生人類の中間的な存在ですが、道具を扱うための器用な指先や二足で歩くための足はすでに持ち合わせていました。
その一方で、脳の小ささから「ホモ・サピエンスのように死者を弔うといった文化的な行動は取らなかっただろう」というのが一般的な見解でした。
ホモ・ナレディによる「世界最古の埋葬地」を発見!
しかし今回、同じライジングスター洞窟で2018年から続いていた発掘調査により、ホモ・ナレディの遺骨を埋めた埋葬地が発見されたのです。
埋葬地は地下約30メートルの場所にあり、床に楕円形の穴を2つ掘っていて、そこに識別できる限りでも5人の遺骨が埋められていました。
これは明らかにホモ・ナレディが意図して死者を弔った証拠と考えられます。
また遺骨の1つには、手首の骨に密着する形で石器が1つ見つかっており、埋葬品も一緒に供えていたことが示唆されました。

埋葬地の年代は約33万5000年〜24万1000年前と推定されており、ヒト属による埋葬証拠としては間違いなく世界最古のものです。
研究者らは「少なく見積もってもホモ・サピエンスによる最古の埋葬より10万年以上は古い」と述べています。
さらに驚きはそれだけに留まりませんでした。
なんと同じ地下洞窟内で、石の壁に幾何学模様を彫り込んだ”アートの痕跡”まで見つかったのです。
ホモ・ナレディには「芸術の文化」も持っていた?
研究チームは洞窟の柱に、わざと表面を削って平らにした痕跡や、十字架や正方形、三角形、また井の字のような幾何学模様を無数に掘り込んでいる跡を発見しました。
ホモ・ナレディがこれらの彫刻にどんな意味合いを持たせていたかは不明です。
しかし、のちの時代にホモ・サピエンスが壁画として表現した「芸術の心得」が、すでにホモ・ナレディの中に芽生えていたことを示すものかもしれません。

以上の発見は、人類の進化や文化の発達について再考を促します。というのも死者の埋葬や芸術はこれまで、脳が大きくなるにつれて複雑な感情や高度な認知能力を持ったときに初めて可能となるものと考えられていたからです。
しかし、ホモ・ナレディの脳は先にも言ったように、私たちの3分の1程度しかありませんでした。
研究主任で古人類学者のリー・バーガー(Lee Berger)氏は「それにも関わらず、ホモ・ナレディが死者を埋葬し、洞窟の壁にシンボルを刻み込む能力を持っていたことは驚くべき発見である」と述べています。
今回見つかった埋葬地や彫刻については更なる分析を必要としていますが、ホモ・ナレディは亡き者を悼み、美を追求するこころを持っていたのかもしれません。
元論文
241,000 to 335,000 Years Old Rock Engravings Made by Homo naledi in the Rising Star Cave system, South Africa. https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2023.06.01.543133v1 Evidence for deliberate burial of the dead by Homo naledi https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2023.06.01.543127v1 Burials and engravings in a small-brained hominin, Homo naledi, from the late Pleistocene: contexts and evolutionary implications https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2023.06.01.543135v1.article-info
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