すさまじい速度で少子高齢化が進展する日本。かつては子世代が担っていた介護も「迷惑をかけたくない」と考え、施設へ入所を希望する親世代が増えている。だが、高齢者施設には入所希望者が殺到し、なかなか順番が回ってこない。やむなく選択した老老介護には、さまざまなリスクがともなうが――。実情を見ていく。

「子どもの負担になりたくない」…切実な親心

現在の日本では、高齢化・核家族化とも進展している。結果、高齢者が高齢者を介護する「老老介護」、認知症を発症している高齢者が認知症の高齢者を介護する「認認介護」が、今後、一層増加すると考えられている。

横浜市在住の田中さん夫婦(仮名)は、お2人とも80歳の同い年。50代の息子が2人いるが、同居はしていない。年金額は夫婦で月22万円程度。

「長男は製薬会社勤務で、いまは仙台にいます。10年前にお嫁さんと離婚して、高校生の息子と2人暮らしです。仕事も多忙で、高校生のひとり息子の面倒で手いっぱいのようです」

「二男は東京都在住ですが、共働きで3人の娘を育てています。1人は今年から大学で、下の2人も、大学受験を控えています」

田中さん夫婦は切実な様子で語る。

「息子たち家族は、自分たちが生きていくのに精いっぱい。彼らの負担になりたくない。これが私たちの願いです」

一方で「老老介護」の現実も、数字から浮き彫りに

では実際のところ、高齢者の介護の状況はどうなっているのだろうか。

厚生労働省『介護給付費等実態統計月報』などで年齢別に要介護認定者の割合を確認していくと、65~69歳で2.9%、70~74歳で5.8%と、年齢を重ねるごとに増加を続け、後期高齢者である75歳を超えると12.7%(75~79歳)と、10人に1人の水準になる。さらに80~84歳では26.4%と4人に1人、85歳以上では59.8%と、5人に3人の割合になる。

また厚生労働省『2019年 国民生活基礎調査の概況』によると、要介護となる理由の1位は「認知症」で24.3%。「脳血管疾患(脳卒中)」が19.2%、「骨折・転倒」が12.0%。ただし要介護4、要介護5のトップは「脳血管疾患(脳卒中)」で、それぞれ23.6%、24.7%となっている。

実際の介護はだれが行うのかというと、「同居する家族」が54.4%で過半数。その内訳は「同居する配偶者」が全体の23.8%、「同居する子」が全体の20.7%。また介護者は女性が65.0%、男性が35.0%と、圧倒的に女性に多い。

また同居の介護者と要介護者の組合せを年齢別にみていくと、「70~79歳」の要介護者では「70~79歳」の家族が介護している割合が56.0%と過半数。また「80~89歳」の要介護者では「50 ~59歳」の家族が介護している割合が31.6%と最も多くなっているが、続いて「80歳以上」が25.1%と、高齢者×高齢者の組み合わせが非常に多いことが分かる。

「お金があれば安泰」とは言い切れず…

上記の田中さん同様、高齢者が子どもに迷惑をかけたくないと考えるなら、将来的には介護施設への入居が選択肢となるだろう。しかし、介護施設にもさまざまな種類がある。

公的介護保険の施設サービスなら、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、 介護療養型医療施設、介護医療院の4つがあり、要介護と認定された人は施設サービス費用を原則1割負担することになる。一方で、サービス付き高齢者向け住宅など、公的介護保険の施設サービス対象外の施設を選択する方法もある。一般的には、民営施設のほうが費用負担は大きい。

総務省の調査「高齢者施設入所者の家計の把握」によると、介護施設からの月々の請求額は平均12万円程度、その他の個人的な出費が月々2万円程度だった。この調査は調査票の回収数の少なさに留意が必要だが、介護施設への入居については、入居一時金を除き、月14万円程度が目安と考えられる。

また、厚生労働省の調査では、厚生年金受給者の年金受給額は月14万円程度、65歳以上男性に限ると月17万円だった。また、厚生労働省の試算によると、一般的な夫婦の年金は月22万円程度だった。年金から天引きされる税金等を考えると、民間施設への入居には「年金プラスα」が必要だといえる。貯蓄が少なければ、公的施設への入居の検討が必要だ。

だが高齢者の老後は、「それなりのお金があれば大丈夫」とは言い切れない。

近年問題となっているのが、介護難民の問題だ。介護サービスを必要としているにも関わらず、受けることができずにいる人が増えている。

日本創生会議(現在は活動中止中)の調査によると、2015年の段階からすでに「2025年には、東京都心での介護難民は約13万人」と予想されていた。とくにコストの少ない特別養護老人ホームは入居待ちの要介護者が数万人単位、75歳以上の高齢者が急増する今後は、入居待ちがさらに増えることが想定される。

介護の担い手が増えないという問題も大きい。負担が大きいのに低賃金という介護業界の状況については国も是正を図るべく対策を講じているが、増加し続ける高齢者に対処しきれていないというのが実情だ。

費用はいくらでも出せるという富裕層なら話は別だが、一般の人たちには費用面の限界がある。老人ホームに入りたくても入れない、介護に翻弄されて高齢者夫婦が共倒れ…。そんな状況も現実になる可能性は十分あるといえる。

(※写真はイメージです/PIXTA)