生活保護は、最低限の生活すら望めなくなった人のための最後の命綱です。しかし、誤解や偏見のため、本来受給すべきなのに受給できない人がいます。本記事では、生活保護申請サポートの専門家である特定行政書士の三木ひとみ氏が著書『わたし生活保護を受けられますか』(ペンコム)から、在留資格のあるフィリピン人Rさんの例をもとに、日本人にも決して他人事ではない生活保護申請に関する誤解と正しい知識について解説します。

在留資格のある外国人。役所で母国に帰れと言われ

フィリピン国籍の女性の方が、お子さんを連れて生活保護相談にお越しになりました。

「生活に困っているなら、フィリピンに帰ればいい」

そう役所で言われて、困り果ててお電話をされてきたのです。在留資格があり、人生のほとんどを日本で暮らし、結婚をし、子どもも生まれ、働いて納税もしてきた女性。

ほかの行政書士や弁護士に相談をしても、

「元配偶者の家に居候しているなら、生活保護申請しても却下される。引っ越してから申請しないと生活保護は受けられない」

そう言われて行きついたのが筆者の事務所でした。

■ポイント

日本国籍を持たない外国人は生活保護法による保護は受けられないが、適法に日本に滞在し、活動に制限を受けない永住者、定住者等の在留資格を有していれば、生活保護法に準ずる取り扱いを受けられる。認定難民もこれに含まれる。

【相談】人生のほとんどを日本で暮らしてきたフィリピン人

◆日本で働き人生のほとんどを日本で過ごしてきたが……

相談に来られたフィリピン人女性の方(以下、Rさん)は、長年日本で生活し、日本語も上手で、電話では最初日本人かと思ったほどです。

実際に事務所でお会いすると、これまでの日本での苦労をとても朗らかに語ってくださいました。亡きお母さまもフィリピン人。生前長らく日本で生活されていて、お仕事をして納税もされて、日本社会に貢献していたのです。

フィリピン国籍のRさんは日本人男性と日本で結婚しましたが、結婚生活1年足らずで離婚。その後も離婚した元配偶者との間に2人のお子さんが生まれましたが、男性は認知をせず、自分の子ではないと言い張る始末。

在留資格も有り、お仕事をされていたRさんはそうしたストレスも要因となり、病気になってしまい、仕事を続けられなくなり収入が途絶えてしまったというのです。

国籍はフィリピンでも、人生のほとんどを日本で過ごし、健康なときは働いて納税もしてきたRさんです。

■ポイント

外国人保護の実施責任は、入管法に基づく在留カードまたは入管特例法に基づく特別永住者証明書に記載された住居地の管轄福祉事務所となる(日本人は住民票がどこにあろうと、実際に寝泊まりしている場所の管轄福祉事務所に申請をする)。

例外的に、外国人であるDV被害者が住居地の変更届出を行うことができない状態にある場合は、日本人と同様に実際の居住地で生活保護を受給できるケースもある。

【外国人と生活保護】社会保障を受ける権利のある在留資格を持つ外国人

◆急がれる外国籍の方の日本での生活支援

生活保護の相談に行ったRさんに、窓口の人が放った言葉は「生活に困っているなら、フィリピンに帰ればいい」。

人生のほとんどを日本で過ごしたRさんに、何と心ない言葉でしょうか。このような外国人差別は、残念ながら生活保護行政でも見られます。

外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法が2019年4月1日に施行されました。

国会では、外国人増加による治安悪化を懸念する意見も出ましたが、令和2年(2020年)版犯罪白書によれば実際には来日外国人犯罪の検挙件数は平成17年(2005年)を、検挙人員についても平成16年(2004年)をピークに減少傾向が続いています。

また、犯罪に至ったケースの多くは、日本での貧困や差別、教育の問題が背景にあると言われています。

治安維持のためにも、外国籍の方の日本での生活支援について、思いやりを持って、外国籍の方、そのお子さんについても考えてもらいたいと思っています。

そもそも、行政による法令順守はなされて当然のことです。社会保障を受けるべき権利のある在留資格を持つ外国人の方に対して、生活に困っているなら自国に帰れとは。明らかに、行政の裁量逸脱行為と言わざるを得ません。

【申請】生活保護申請中に自己負担なく病院にもかかれた

◆特定行政書士が申請書を代理提出し受理

土曜日に行政書士事務所に相談に訪れたフィリピン人のRさんの生活保護申請は、2日後の月曜日に、早速、特定行政書士が申請書を作成して、福祉事務所に代理提出、受理されました。

◆当初、「調査期間中は医療費は無料にならない」と対応拒む

病気なのに国民健康保険料が払えず通院ができなかったRさんは、福祉事務所で生活保護申請中であることを証明する書面を発行してもらい、無事に自己負担なく病院にもかかることができ、ほっとしたとのこと。

これも、申請後にRさん本人が直接福祉事務所の担当者に相談しても、

「調査期間中は医療費は無料にならない」

と、いったんは対応を拒んだため、当事務所の行政書士が再度担当者に電話連絡をして交渉し、対応してもらったものです。

◆弱者の立場に配慮し血の通った行政運営を

本来、弱者の立場に配慮し血の通った行政運営が徹底されていれば、行政書士がこのように福祉事務所と生活にお困りの市民の方の間に入る必要もないわけです。

ともあれ、逆境でも明るく「私はセンスがいいから安いものを買っても褒められるの!」と、小学生のお嬢さんが持たれていた、ビーズをあしらったかわいらしいハンドバッグに言及した私に、そう笑顔で返してくださったRさん。

無事に病院に行き必要な薬をもらうことができて、ほっと、胸をなでおろしたのでした。

■ポイント

他人宅に住んでいても、真に困窮していれば生活保護は受けられる。

他人名義の家に生活困窮者1人が住んでおり、経済援助も受けられず困窮している人が、単身で生活保護申請をすることは当然可能。

三木 ひとみ

行政書士法人ひとみ綜合法務事務所

特定行政書士

(※写真はイメージです/PIXTA)