「下流老人」「老後破産」…なんとも辛い言葉が多くなった昨今。老後に必要なお金、貯められていますか? 厚生労働省『賃金構造基本調査』(令和4年)などとともにみていきます。

日本の「課長」「部長」「係長」給料はいくら?

まずは男性。厚生労働省『賃金構造基本調査』(令和4年)によると、「部長」の平均賃金は58万6,200円(年齢52.7歳、勤続年数22.1年)、「課長」の平均賃金は48万6,900円(年齢48.8歳、勤続年数20.5年)、「係長」の平均賃金は36万9,000円(年齢45.4歳、勤続年数17.8年)です。

一方女性だけに絞ると、「部長」の平均賃金は52万100円(年齢52.1歳、勤続年数18.6年)、「課長」の平均賃金は43万5,000円(年齢49.2歳、勤続年数18.8年)、「係長」の平均賃金は33万7,600円(年齢45.8歳、勤続年数17.1年)となっています。

さて、課長職のAさん(50歳/男性)。月給は50万円、手取りは40万円ほどになります。若くして親を亡くし家を相続したため、住宅ローンなどの支払いはありませんが、3人の息子の教育費が途方もないと語ります。

「長男は大学4年、次男は大学1年です。2人とも文系で、学費は年間100万円ずつ程度かな。三男は今高校3年、受験生なんです。……いや本当に、生活がままならないですよ。学歴はあるに越したことはないから、大学は必ず卒業してほしいのですが、それにしても高すぎる」

「コロナが流行ったときには、リモート授業が多かったじゃないですか。それ以来、オンライン授業も継続しておこなわれているようです。妻に息子たちの様子を聞くと、『リビングで寝っ転がって見てるときもある』って言うんですよ。高い金払ってんだからいい加減にしろと、我が子に思うのは当然として、大学も大学です。コロナ前とコロナ禍と、学費は変わりませんでしたから」

「課長と言っても……手取りにしたら、家族5人養う分にはまったく足りないと感じています」

Aさんの主張は、無理もありません。社会保険料の負担は増加し続けており、一昔前のサラリーマンと比べると、圧倒的に手取り額は減少しているのです。

「従順なので、国から搾取されていることに文句も言わず…」

“サラリーマンの給料からは、税金や社会保険料があらかじめ差し引かれます。具体的には所得税、住民税、健康保険、厚生年金、雇用保険などです。その結果、たとえ年収が1000万円あっても、手取りは600〜700万円にまで減ってしまいます。給料が上がったとしても、税金や社会保険料の負担が重たいために、手取り額はほとんど増えません。

実際にこの十数年間、年金や保険料の負担額は上がり続けています。2002年から2017年の間で年収500万円の人は手取りが35万円、年収700万円の人は手取りが50万円も減っています。

多くの人はこれだけ手取りが減っていることを知りません。サラリーマンは従順なので、国から搾取されていることに文句も言わず、黙々と働き続けているのです。”『9割の日本人が知らない「資産形成」成功の法則』

Aさんの奥様のBさんは、現在パートタイムで働いており、年収は103万円にギリギリ収まる金額です。自分と夫の老後のためにと働き続けていますが、正直限界を感じているそう。

「家の近くの食料品屋で働いています。時給は1,100円。月十数万円程度に収まるよう調整しながら勤務していますが……しんどいですね。立ち仕事にそろそろ限界を感じているのですが、結婚してすぐ専業主婦になって、働いていなかった時代が長かったもので、パソコンなどはあまり得意ではないんです」

「私ももちろん頑張ります。ただ、夫には70歳を過ぎてもしっかりした収入を得てほしい。今までは子どもたちの学費で貯蓄どころじゃなかったけど、老後資金だって危ういんですから。2,000万円でしたっけ? そんな老後のための貯金、全然ありませんよ。……唯一、住宅ローンだけはなくてよかったと、心の底から思っています」

「老後2,000万円不足」問題の後に、「人生100年時代」という言葉が流行しました。厚生労働省のホームページには、「人生100年時代」について次のように掲載されています。

恐ろしい…「高齢になっても働く」人生100年時代

“(人生100年時代構想会議中間報告より引用)

ある海外の研究では、2007年に日本で生まれた子供の半数が107歳より長く生きると推計されており、日本は健康寿命が世界一の長寿社会を迎えています。

100年という長い期間をより充実したものにするためには、幼児教育から小・中・高等学校教育、大学教育、更には社会人の学び直しに至るまで、生涯にわたる学習が重要です。

人生100年時代に、高齢者から若者まで、全ての国民に活躍の場があり、全ての人が元気に活躍し続けられる社会、安心して暮らすことのできる社会をつくることが重要な課題となっています。”

「日本は健康寿命が世界一の長寿社会」「高齢者から若者まで、全ての国民に活躍の場があり」とはっきりと書かれていますが、これは暗に「働き続けてください」と言われているような感覚も得ます。

2021年4月1日より高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの定年引上げや継続雇用制度の導入なども始まっています。就業期間の延長にともない、年金受給開始時期について、上限が75歳に引き上げられることも決定した今、高齢になっても働くための社会づくりが一気に進んでいます。

「生きるために働く」。使い古されていた言葉でしたが、超高齢社会の日本では「死ぬまで働く」という、恐ろしい事態を象徴するスローガンに変容しつつあるようです。

(※写真はイメージです/PIXTA)