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異次元の少子化対策を進める岸田首相(写真:共同通信

「政府は、現在、中学生まで支給している児童手当の対象を高校生にまで広げ、さらに第3子は年齢にかかわらず月3万円を支給することなどを検討しています。しかも所得制限も撤廃する方針です」

そう語るのは全国紙記者だ。岸田文雄首相が進める「異次元の少子化対策」。目玉となるのが、児童手当の拡充だ。40代の主婦はこう期待を寄せる。

「食品や光熱費が値上がりし続けるなか、2人の子供が高校進学を控えています。高校生も毎月1万円の児童手当が出れば、ありがたいです」

■扶養控除を廃止すると、実質的な増税になる家庭が続出する

子育て世代から歓迎の声も多いが、関東学院大学経済学部教授の島澤諭さんは、こう指摘する。

「高校生への児童手当を支給するとともに、現在16歳から18歳の子供を扶養する親を対象にした38万円の扶養控除を見直すことも検討されています。仮に扶養控除が廃止となれば、課税対象となる所得が38万円増えることになり、所得税や住民税が高くなります」

では、扶養控除が廃止されれば、どれだけ増税となるのだろうか。ファイナンシャルプランナーの内山貴博さんに試算してもらった。

「概算ですが、たとえば年収600万円の場合、扶養控除があれば所得税が12万4140円、住民税が23万7140円で、合計36万1280円。ところが扶養控除がなくなれば、所得税が16万2140円、住民税が27万5140円になり、合計が43万7280円と、年間に7万6000円も増税されることになります。年収700万円の場合も、年間で7万6000円増税される結果でした」

1カ月当たりだと6千333円の負担増。“月1万円の児童手当”が出ても、実際は3千667円しか手元に残らないことになる。

「同様に年収850万円で試算すると、扶養控除がなくなることで所得税と住民税が11万4千円も増税になる計算になります」(内山さん)

月1万円の児童手当も、500円しか手元に残らないことに……。

国税庁の『民間給与実態統計調査』によると、男性の平均給与は545万円、女性は302万円です。扶養控除の廃止だけでも、子育て世代の4割ほどの家庭が、実質的な増税になるとみています」(島澤さん)

■共働き家庭で年間1万4000円の負担増の可能性

児童手当拡充のための財源は、子供がいない世帯を含め、すべての世帯で負担することになる。

「政府は、少子化対策を進めるために年間3兆円の新たな財源を確保する方針でした。そのうち1兆円を、加入者1人当たりの社会保険料を500円程度、引き上げることで、まかなうという案が出ていました」(島澤さん)

ところが6月1日、首相官邸で開かれた「こども未来戦略会議」で、岸田首相は年間予算を3兆5000億円規模と、5000億円も拡大する方針を示した。

「歳出改革によって予算を生み出すことを目指すと考えられますが、削減できる歳出が見つからない場合、社会保険料に転化される可能性があります。1兆5000億円を社会保険料加入者の目安となる20歳以上の人口で割り、労使で折半すると、1人当たり月595円、年7140円の負担増になります。共働きの家庭ではその倍、月1190円、年1万4280円も負担が増すのです」(島澤さん)

■過去の現金給付は効果が薄かった

児童手当によって少子化に歯止めがかかればいいのだが……。

「政府は“異次元”の少子化対策と言っていますが、インパクトのあるものにはなりそうもありません」(島澤さん)

そもそも、過去にも政府は現金の給付による少子化対策は行ってきた。1994年にエンゼルプランを開始し、その後、子ども手当なども行われたが、出生数、出生率ともに右肩下がり。2022年には、ついに出生数が80万人を割ってしまった。

「これまでの現金を給付する政策は効果が薄かったにもかかわらず、経済財政諮問会議の資料によれば、出生数を1人増やすために1億円から2億円もの税金が使われる予定です。非常にコスパが悪い。子供1人にかかる子育て費用は3000万円といわれています。

第1子に1000万円相当の支援をして子供を持つハードルを下げたり、経済対策によって若い人の手取りを増やしたり、賃金が上がらず手取りが増えない元凶となっている社会保障などの抜本的な改革などが求められているのではないでしょうか」(島澤さん)