
西アフリカの熱帯雨林には、ちょっと気まぐれな植物が存在する。「トリフィオフィルム・ペルタトゥム(Triphyophyllum peltatum)」というつる植物だ。
何が気まぐれかというと、普段は普通に光合成をしているのに、何かのきっかけで一時的に昆虫の血肉を求める食虫植物へと変貌するのだ。
一体何がきっかけで、ペルタトゥムは血肉を求めるようになるのか? これは今まで謎に包まれていたが、最新の研究によってついにそれが解明された。
それによると、とある栄養素の不足が関係しているようだ。
「トリフィオフィルム・ペルタトゥム(Triphyophyllum peltatum)」は、シエラレオネやリベリアといった西アフリカの熱帯雨林に自生するつる植物だ。
イチモツに激似なものや、地中にトラップを仕掛けるものなど、世に食虫植物は数あれど、ペルタトゥムは一時的に食虫植物化するという点でとてもユニークな存在だ。
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小さなときはごくごく普通の姿をしている。葉を地面に平らに広げて光合成を行い、肉食系である様子などおくびにも出さない。
だが、やがて血の色をした粘液が分泌される葉を成長させ、うかつにも近寄ってきた昆虫をとらえて消化するようになる。
ところが気まぐれなことに、必ずしもこのような食虫用の葉をしげらせるわけではない。しかも肉食なのはごく短い間だけだ。
先端に2つフックがある大人の葉が生えるようになると、肉に満足でもしてしまうのか、もう食虫をやめてしまう。
こちらは光合成をする大人の葉。先端にある2本のフックが特徴 image credit:Traud Winkelmann / Universitat Hannover
そもそもペルタトゥムが気まぐれに昆虫を食べるようになるのは、栄養分が不足した環境で生き延びるためだと考えられている。
だが栽培が難しいこともあり、食虫植物化するものとそうでないものは何が違うのかよくわかっていなかった。

条件を変えて育てたペルタトゥム。食虫植物化したのはリンが不足したものだけ(D)だった / image credit:Hedrich et al., New Phytologist, 2023
リンが不足すると食虫スイッチが入る
その謎を解き明かしたのが、ハノーファー大学などの植物学者チームだ。
彼らはこれまので研究で培った知識を駆使して、ペルタトゥムを育てることに成功。
こうして増えたペルタトゥムの新芽60本を窒素・カリウム・リンといった栄養が不足した土に植え、6ヶ月ほど観察を続けてみた。
すると食虫スイッチはリンが不足したときに入ることがわかった。これが不足したときだけ、食虫植物化のサインである赤い粘液を出す葉が生えてきたのだ。

トリフィオフィルム・ペルタトゥムは気まぐれに食虫植物へと変貌し、赤い粘液を分泌する葉を成長させる / image credit:Traud Winkelmann / Universitat Hannover
時に肉食になるのは、合理性にかなっている●
リンは、DNAや膜を作るの必要な植物にとって大切な栄養素だ。土に含まれるリンを吸収するために、植物は多大なエネルギーを費やして根を張り巡らせる。
ところがペルタトゥムの場合、乾季の終わりになるとリンが不足することもある。ペルタトゥムの中に昆虫トラップを発達させるものが出るのはこの時期だ。
そもそも動物の肉を食べるのは、そう簡単なことではない。昆虫をとらえるネバネバした液体や、それを分解するための消化酵素を作るには、大量のエネルギーを消費するからだ。
それでもペルタトゥムはリン不足をどうにか補おうと、一時的に食虫植物に変貌する。土に含まれるリンが十分回復すれば、もっと簡単に生やすことができる普通の葉に切り替える。
気まぐれに思えるペルタトゥムだが、じつは合理的に生きる手段を切り替えているようだ。
この研究は『New Phytologist』(2023年5月16日付)に掲載された。
References:This Unique Plant Turns Carnivorous When The Mood Strikes : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo

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