今日、会計の知識は、あらゆるビジネスパーソンにとって重要です。税理士・民間企業の経理担当役員で人気簿記講師でもある石川和男氏が、著書『決算書は、「ここ」しか読まない 企業の伸びしろを1分で見抜く「読み方のルール」』(PHP研究所)から、決算書の「読むべき項目」や「順番」をわかりやすく解説します。今回は「損益計算書」「貸借対照表」を組み合わせた企業分析手法「ROE」と「ROA」について解説します。

損益計算書と貸借対照表を組み合わせた最強の分析手法

◆「ROE」と「ROA」

損益計算書」、「貸借対照表」について、それぞれ単体での分析ではなく、両方の数字を使って企業分析を行う指標もあります。

それが「ROE」、そして「ROA」です。

ROEは、Return On Equity(リターン・オン・エクイティ)の略称です。

ROAは、Return On Assets(リターン・オン・アセッツ)の略称です。

Returnは「利益」、Return Onで「~の利益を出す」。ROEとROAは、どちらも「利益を出す」と訳す部分が共通しています。

では、何を使って利益を出すのか? Equityが自己資本、Assetsは総資産をさします。

したがって、ROEは、自己資本(株主のお金)を使って、どれだけ利益をたたき出すことができているのかを分析しています。

また、ROAは、総資産=総資本(会社が持っているすべての資産、もしくは調達状況)を使って、どれだけの利益をたたき出すことができるのかを分析しています。

利益は損益計算書に、自己資本と総資産は貸借対照表に表示されています。つまり、ROE、ROAは、どちらの決算書も使って分析する手法なのです。

◆「自己資本比率が高い」だけでは企業の成長性を判断できない

この2つの指標を確認する前に、「自己資本比率」についておさらいしましょう。自己資本比率とは、「総資本」に占める「自己資本」の割合です。

調達状況には、自己資本(純資産)と他人資本(負債)があります。会社を運用するために資産100億円が必要な場合、調達状況は自己資本か他人資本のいずれかで集めます。

返済義務のない自己資本が多ければ多いほど、返済義務のある他人資本は少なくてすみます。自己資本比率が高ければ高いほど、企業の安全性も高く倒産のリスクは低くなります。

自己資本比率が50%以上ある会社で「倒産することはまずない」といわれています。

しかし、自己資本比率が高ければ倒産リスクが低くなる一方、成長性の面で問題があります。本来は借り入れをしてでも設備投資をしてリターンを求めるところを、設備投資せずに勝負をしない。安定だけを求めても企業は成長しません。

たとえば、ソフトバンクの自己資本比率は30%を下回っています(2019年3月現在)が、売上高成長率は高く推移しています。それだけ借入をして、設備投資をしているといえます。

「ROE」から、株主の資本(自己資本)をいかに効率よく運用できたかを分析する

◆ROEとは

そこで登場するのがROEです。ROE(自己資本利益率)は、別名、株主資本利益率ともいわれ、株主の資本(自己資本)をいかに効率よく運用できたかを分析します。

ROE=当期純利益/自己資本×100

「当期純利益」が分子なので、高ければ高いほど効率よく利益を上げていることになります。

なお、分子には、広い意味では損益計算書における「5つの利益」―「売上総利益」、「営業利益」、「経常利益」、「税引前当期純利益」、「当期純利益」のいずれも入り得ます。しかし、ROEは、株主のお金を使って、どれだけ利益をたたき出すことができているのかを知るための指標なので、最終利益、つまり「当期純利益」を入れるのが一般的です。

ここで[図表3]をご覧ください。A社、B社、C社のうちどの会社がもっとも収益力のある会社といえるでしょうか?

一見、300億円も当期純利益を計上しているC社と答えたくなりますが、ROEを使って分析すると

A社=20億円/100億円×100=20%

B社=120億円/1,000億円×100=12%

C社=300億円/3,000億円×100=10%

ROEで見ると、300億円も利益を計上しているC社より20億円のA社が収益力のある会社なのです。

3,000億円の自己資本から300億円を生み出すより、100億円の自己資本から20億円を生み出すほうが、効率よく利益をたたき出しているということになります。

このようにROEを使うことで、会社の規模に関係なく収益力を比較することができます。

ROEは、すべての指標のなかで、もっとも大事だといわれています。それは企業が稼ぎ出す力である経営力と、株主への配分の両方が盛り込まれた指標だからです。

前述のように、300億円の利益を稼ぎ出しても、ROEが低ければ、株主へのリターンが少ないことになります。

では、ROEを上げるには、どうすればよいか?

ROEの計算式は、当期純利益/自己資本×100で算出します。つまり、分子である当期純利益を増やすか、分母である自己資本を減らすかしかありません。

◆当期純利益を増やす方法

当期純利益は、収益から費用を差し引くことで求められます。収益-費用=利益なので、収益を増やせば利益が増えるし、費用を減らしても利益が増えます([図表4]参照)。

ROEを上げるために、利益目標を掲げ、収益を上げ、ムダな費用を削減して達成するのは素晴らしいことです。

しかし売上を上げるために過剰なノルマを課したり、費用を圧縮するために無理なサービス残業を強制して、賃金を抑えたりしては、元も子もありません。

また、研究開発費を削減することで短期的にROEを上げても、将来の収益につながる研究開発費を削減してしまうと長期的には新しい開発ができず会社の成長も阻害されます。

ROEを上げることは重要ですが、長期的な視野で見ると悪影響が出る可能性もあるので、注意が必要です。

◆自己資本を減らす方法

自社株を買うことで、株式発行総数を減らす方法があります。

また資金調達において他人資本を増やしても、自己資本は減ります。ただ、その場合には、危険なことがあります。

たとえば、自己資本10億円で当期純利益が5億円の企業の場合、ROEは驚異の50%です。しかし、もし負債が490億円あったらどうでしょうか。調達状況の98%を他人資本で賄っている超危険な会社ということになりますよね([図表5]参照)。

このように調達状況を他人資本で賄えばROEは上がるため、分析する際にはその点にも注意する必要があります。

「ROA」から、総資産を利用して、どの程度の利益をたたき出したかを分析する

◆ROAとは

一方、ROAとは、総資産利益率といい、会社が持っている総資産(総資本)を投入して、どれだけの利益を上げているかを示す指標で、次の計算式で求められます。

ROA=利益/総資産×100

この分母の「総資産」(総資本)は他人資本と自己資本の合計です。

これに対し、分子の「利益」の部分には、広い意味では損益計算書における「5つの利益」―「売上総利益」、「営業利益」、「経常利益」、「税引前当期純利益」、「当期純利益」のいずれも入り得ます。しかし、「経常利益」にするのが一般的です。なぜなら、他人資本の調達コストである支払利息を含め、自己資本の調達コストである配当金を差し引く前の利益のほうが整合性がとれるからです。

[図表6]をご覧ください。貸借対照表B/S)の右側は、お金の調達状況(自己資本+他人資本)を明らかにしています。一方、左側(総資産)は、調達したお金をどのように運用しているのかという運用状態を明らかにしています。右側の総額が調達状況、左側の総額が運用状態を表しているだけで、どちらもイコールです。

右側から見れば、自己資本と他人資本を含めた調達状況で、どの程度の利益をたたき出したのかの指標になります。

左側から見れば、運用状態である総資産を利用して、どの程度の利益を上げたのかを明らかにしている指標といえます。

つまり、ROAとは、企業の収益性を総合的な観点から示す指標なのです。

最後に、先ほどの[図表5]の企業に話を戻すと、ROAは、自己資本のみならず会社の総資産(=総資本)を使って、いかに効率的に利益を上げているかの指標です。

したがって[図表5]の企業は、ROAで分析をすると、ROEが50%あっても、ROAはたったの1%になります。

ROA=5億円/500億円×100=1%

したがって、とても問題のある企業であることが判明します。このように、経営分析は1つの方向性からだけではなく多角的に分析する必要があります。

■Point!

「ROE」で、株主の資本(自己資本)をいかに効率よく運用できたかを分析する。

「ROA」で、総資産を利用して、どの程度の利益をたたき出したかを分析する。

石川 和男

合格率No.1簿記講師・税理士・建設会社総務経理担当役員

(※写真はイメージです/PIXTA)