もしも古代エジプトにタイムスリップして、儀式に出席することになったとしよう。そこでふるまわれたカクテルを飲み干したら、異次元へのトリップを経験することになったかもしれない。
2000年前の古代エジプトの壺の中身を調べたところ、そこに入っていた液体には酒、蜂蜜の他に、幻覚作用のある植物や血液、母乳、粘液までも配合されていたことが明らかとなった。
この幻覚カクテルは、「ベス」という舞踏と戦闘の神の信者が儀式で飲んでいたものらしい。
古代エジプト人たちはこれを飲むことによって、どんな作用がもたらされたのだろう?
「ベス」は舞踏と戦闘を司る古代エジプトの神だ。本来は、羊と羊飼いの守護神とされており、夢を司る神でもある。
体つきはずんぐりとしており、植物の冠をかぶり、ヒョウの毛皮を身にまとった姿で描かれる。舞踏の神らしく、楽器を鳴らして踊りながら邪気を払うとされている。
古代エジプトの遺跡からは、そんなベスの頭部をかたどった「ベスの壺(Bes vase)」という遺物が発掘されている。一体そこにはどんな液体が入っていたのか?
これを探るために、サウスフロリダ大学などの研究チームは、タンパ美術館に収蔵されている紀元前2世紀のベスの壺に残されていた成分を分析してみることにした。
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分析されたベスの頭がモチーフの壺 / image credit:al/Tampa Museum of Art in Florida
世にも恐ろしい配合の古代エジプトの幻覚カクテル
その結果、この飲み物には「ペガヌム・ハルマラ(Peganum harmala)」という地中海沿岸から中国西部にかけての乾燥地帯に生える植物が含まれていることが判明した。
その種子には天然由来の有機化合物アルカロイドである「ハルミン」と「ハルマリン」が大量に含まれており、これを口にすると夢のような幻覚を見ることで知られている。
ちなみにハルミンとハルマリンは、アマゾンの先住民が使用する幻覚カクテル「アヤワスカ」にも含まれるものだ。
だが、古代エジプトの幻覚カクテルからはそれだけでなく、やはり精神活性成分が含まれる「ブルーロータス(Nymphaea caerulea)」も検出されたという。
だが古代エジプトのカクテルには、こういった植物由来の幻覚剤だけではなく、ほかにもさまざまな成分が混ざっていたようだ。
たとえば、ごく普通のものとしては、発酵した果実から得られたアルコール、ハチミツ、ロイヤルゼリーといったもの。こちらは普通に美味しそうだ。
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だが、人間のタンパク質もたっぷり検出されていたのだ。
つまりは母乳や血液、さらには口や膣内から採取された粘液といったものだ。
儀式のとき精神的作用を得て気分を高揚させるためのカクテル
研究チームによると、こうした成分を総合的に考えると、幻覚カクテルに含まれていた植物は、儀式で精神作用を得るために意図的に配合されていたと考えられるという。
一説によると、ベスの名前の由来は”ベサ(守る)”であるらしい。当時の信者は、それを飲むことで邪悪から身を守れるとでも思っていたのかもしれない。
現在『Research Square』(2023年5月31日付)でこの研究の査読前論文を閲覧することができる。
References:Ancient Egyptians Drank Psychedelic Blood Cocktails, Study Finds / Ancient Egyptians Drank A Gnarly Brew Of Hallucinogenic Drugs And Human Blood | IFLScience / written by hiroching / edited by / parumo
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