「1科目の学費だけで月額8万円」子どもに激怒する母親の声が聞こえたことも…中国政府が「小中学生の学習塾」を禁止にした納得理由 から続く

 イマドキの中国の若者たちの恋愛観・結婚観はどんなものなのか? 「日米のアニメを見て育った僕らと親の溝は深い」と語る音楽関係者のAさんや、「婿を評価する一覧表」に驚いた起業家のBさん、「恋愛は生きていくために必要なもの」と語るバリスタのCさん、「家を持ってこそ2人の生活」と考える大学生のDさん、両親とのジェネレーションギャップに悩むEさんなど、中国でさまざまな背景を持つ20~30代の男女を取材したライターの斎藤淳子さんの新刊『シン・中国人 ――激変する社会と悩める若者たち』より一部抜粋してお届け。

 ここでは日本留学後に北京に戻り、現在は日系企業で働くキャリアウーマンのFさん(32歳)の恋愛観を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む

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Fさんが考える「理想の結婚相手」は…

 Fさんは日本の大学と大学院に留学したあと、東京で2年勤務し、コロナ直前の2019年に北京に戻り日系企業に勤務するオシャレなキャリアウーマン。待ち合わせた明るく広々としたビアホール風レストランでもテキパキとランチセットのオーダーをこなしてくれる。印象は日本と中国を股にかけバリバリと仕事をする「きれいなできる女性」だ。

 親とのジェネレーションギャップは「違いはあって当たり前だから、なるべく自分がなぜそう考えるのかを説明して分かってもらうようにしている」と話す。さすが、日本に留学しているだけあって、多文化コミュニケーションにも慣れているのだろうか。親とあまり大きな価値観の摩擦はなさそうだ。

 結婚の見通しについて聞くと彼女は滔々とこう語った。

「元々は、結婚は30歳か31歳くらいでするのが理想だったけど、コロナ禍でずっと人にも会えず、延びちゃった。お見合いはどんどん親にお願いしている。将来、子どもは35歳くらいで欲しい。もしかしたら2人目(の子ども)も欲しいかも。お見合いの相手には少なくとも自分と対等であってほしいから、自分と同じくらいのレベルを満たしている人が条件。つまり、大学院以上の学歴、私は天津に一つマンションを持っているので、相手もそのくらいの経済力が欲しい。仕事もしっかりしたものに就いている人が良い。自分は天津の戸籍だけど、子どもの教育や今後の発展のチャンスのことを考えると、北京市の戸籍、できれば(名門大学が集中して学園町として知られる)海淀区の戸籍が欲しい」のだそうだ。

 お見合い経験者だからだろうか、淀みない条件のオンパレードに面食らってしまった。

「差別はしたくないけど、地方出身者は人と人との距離の感覚が違う。一人親戚がいるとぞろぞろとその人に頼って皆がやってくるのはちょっと困る。そういう意味で考え方が近い大都市の人がいい」という。

 確かに、中国の都市と農村の文化的な差はヨーロッパなら異国に相当する差がある。そもそも、2188万人が住む北京市だけで既に、1744万人のオランダ一国以上の規模だ。規模で比較する限り、北京は確かに一国に相当する大きさだ。

「マンションの頭金は男性側が支払ってくれるのが必須」

 経済面では、「マンションの頭金の180万元~250万元(3600万~5000万円)は男性側が支払ってくれているのは必須。その後の支払いは二人でローンで返すのもあり、だけど、全部男性側が買い取ってくれていればなおさら良い」「1LDKの小さな部屋でない限り、北京の家は80~95平方メートル以上の大きさが普通で、その場合、価格は450万元~550万元(9000万~1億1000万円)が一般的」という。

 結婚観を聞くと、「結婚は自分が幸せと感じるためにするもの。そして、幸せというのはお金があるということ」と言い切る。「別にブランド物ばかり買って贅沢三昧の生活がしたいという意味ではなくて、世界旅行ができて、ヒルトンホテルに泊まったりできる、そういう生活をしたいの」という。ヒルトンに滞在する世界旅行ができる生活が彼女の理想のようだ。

お見合いはまず、学歴と経済条件をクリアしたら次のステップに行く。次は話が合うかどうかが問題だけど、前回、親の知り合いの紹介で会った四川省出身の男性は学歴は博士号を持ち、北京の海淀区の戸籍も持っていて良かったのだけど、『緻密な利己主義』タイプで自分のことしか考えない人だったので別れた」という。

 何でも北京ユニバーサルスタジオの半年パスを買って一緒に遊びに行こうという話になったが、彼は自分の分しかパスを買っていなかったのに失望したのが別れた直接の原因という。割り勘で負担するのは構わないが、彼女のパスの購入に無関心だったことにがっかりしたという。いかにも、合弁会社設立交渉の決裂を彷彿とさせる「別れ話」だ。愛とも恋とも異次元な付き合いに一抹の不安を感じるのは筆者だけだろうか。

「旦那のスマホパスワードは教えてもらう」

 もう一つFさんがはっきり言い切ったのが、「結婚したら夫のスマホパスワードを教えてもらうのは当然」「結婚は契約ですから」という。自分も異性の友達はいるので、旦那にも異性の友人がいるのは構わない、連絡先を削除するような横暴なことはしないが、一応、パスワードは知らせてほしいという。

 これには驚いた。彼女が迷うようすもなく、「当然」というのだから、彼女の周りでもそういう友人が多いのだろう。中国の男女の間にはどんな秘密もご法度で、夫婦やパートナーの間にプライバシーは不要という基準が一部では「当たり前」とされているようだ。この点は、中国独特のプライバシー感覚と近頃の男女関係文化に根差しているようだ。

 そして、予定通りにもし35歳までに子どもが生まれたら「親に見てもらう」という。それが周りの友人たちの間でも一般的らしい。筆者が「親にお願いするの?」と再確認したところ、Fさんは少し考えた後「お金持ちは子育て専用のお手伝いさんを頼む人もいるけど」と親以外の選択肢についても補足した。筆者が想定していた若夫婦だけで1人の子どもの面倒をみるという選択肢は彼らの世代の頭の中にはないようだ。

子どもを2人連れて歩くだけで褒められることも

 とはいえ、こう考えているのはおそらくFさんだけではない。そういえば、筆者も十数年前に、1人で2人の子どもを連れて幼稚園小学校に送迎している際、エレベーターの中で、同じマンションの住人の見知らぬおじいさんに「あんたは偉い!」と突然しみじみと褒められたことがある。これも、今思えば、中国では1人の子どもに対し、大人複数で面倒をみるのが当然になっている。この常識に照らし合わせると日本のお母さんは本当に「偉い」と映るのだろう。

 Fさんと子どもについて話題が及ぶと、「子どもはできれば、有名校の集中する北京市海淀区で進学させ、大学は自由な雰囲気のある海外に進ませたい」と希望を語る。一方で、現実にはゼロコロナの厳しい外出制限などの影響で、人に会いにくい状況が長引く中、なかなか良い人は現れない。

 日本で8年も独立した生活をこなし、「日本の男性も優しくしてくれた」と振り返る明るくテキパキとしたFさん。しかし、完璧な「条件」を求める彼女に、果たして息の合う素敵な「人」は登場するのだろうか?(前編を読む

(斎藤 淳子/Webオリジナル(外部転載))

32歳・キャリアウーマンのFさんが考える「理想の結婚」とは? 写真はイメージ ©getty