ここ最近、VTuberシーンやゲーム配信者の間で流行しているゲームがある。それがパズルゲームの『Q REMASTERED』だ。

【画像】にじさんじ・樋口楓がパワーですべてのパズルを解決していく様子 やはり力はすべてを解決する……!(全13枚)

 『Q REMASTERED』は、2015年1月からスマートフォン向けゲームアプリとして配信されていた『Q』を大幅にアップグレード・リマスターした作品で、操作性を大きく改良し、コントローラーでの操作を可能にしつつ、旧バージョンに加えて大量の新問題が収録され、Nintendo Switch用ソフトとして2022年7月28日に発売された。

 この『Q』を制作したのが、ゲームクリエイター・栗田祐介だ。彼のことをご存じない読者もいるだろう。しかし、VTuber~バーチャルタレントシーンを追いかけている方であればサムネイルや切り抜き動画などで一度は見たことがあるであろう『空気読み。』を手掛けた方といえば伝わるだろうか。いまやゲーム配信において“ド”がつくほどの定番タイトルとなったあの作品を知っている方であれば、『Q REMASTERED』というタイトルがまとう独特の雰囲気が予想できるのではないだろうか?。

「コップからボールを出せ」
「ヒーローを右のコンテナに入れろ」
「右向きにしろ」
「赤いボールを左の壁に触れさせろ」

 そんな問いかけがプレイヤーにされ、それ自体はシンプルでありながら、画面に広がる状況をパッと見てみると無理難題なようにも思えてくる。それでも答えを生み出すために、あの手この手を使ってプレイしつづける。『Q REMASTERED』はそんなゲームだ。

 とくに難易度「HELL」については「開発者自身も解けていない」という謳い文句があるほど難解なものに仕上がっている。バランス調整・ゲームデザインという点から見て「ゲーム制作側が解けないような問題をつくっていいのか?」とも感じてしまうが、それはむしろ「それくらいでないとプレイヤーが満足しない!」という作者の心情の表れかもしれない。

にじさんじ樋口楓の実況配信をきっかけに注目を集める

 2022年にリリースされた本作は、2023年に入ってから一気に注目を集め、多くのVTuberやゲーム実況者がプレイするゲームタイトルとなった。その火種となったのが、にじさんじ所属のタレント・樋口楓である。「電撃オンライン」のインタビューで、開発者である栗田はこのように口にしている。

〈栗田:最初のきっかけは、2月初旬に"にじさんじ"の樋口楓さんがライブ配信をしてくださったところからです。本当に感謝しかありません。

 『REMASTERED』のリリース直後は一切反響がなくて。もしこれがダメだとすると、今、どういうものを作っていけばいいのか……? と、ゲーム制作者としてわからなくなっていたところがあります。

 そんななかで、樋口楓さんをきっかけとして盛り上がっていただけたことは純粋に嬉しく思いましたし、自信にもなりました。〉
(参考:「『Q REMASTERED』再ブームの鍵はVtuber!? 『空気読み。』『Q』と配信者向けヒットゲームを連発する栗田Pに直撃インタビュー」)

 じつは、筆者も樋口が初めて本作をプレイした際のライブ配信を見ており、「面白そうなゲームが出てきたな」と内心感じていた一人だった。

 ここで一度、樋口楓に目を向けてみよう。

 今年で活動5年目を迎えた彼女は、この1年の間でゲーム配信や雑談配信での”さまざまリアクション”をネタにしたショート動画を投稿してきた。すると、そのリアクション芸とすら呼べる動画たちが大ウケし、自身のリスナーを増やすひとつのきっかけとなっていた。

 配信時の口調からして、どうやらスマートフォン版『Q』をプレイしていたようで、ある程度どのようなゲーム内容なのかを分かった上でプレイしたのではないかと推測できる。

 解答がなかなか出せない状況でイライラすれば「ああああん!! もう!!!」と怒号をあげ、思いもよらない形でクリアすれば豪快な笑い声をあげて気持ちよくプレイを進める樋口。

 にじさんじのなかでは「豪快」……ともすれば「怖い」とも見られがちな樋口楓の姿をとらえたショート動画は、なんと彼女の投稿したショート動画のなかでもトップクラスに再生されることになったのだ。

 ちなみに、樋口はその後何度かに渡って『Q REMASTERED』も配信でプレイしており、3度目の配信では上記のインタビュー記事もちゃんと読んでいることを報告、自身の名前が取り上げられていることにも触れている。

■『Q REMASTERED』の名がVTuberシーン全体へと波及していくまで

 樋口楓が2月初旬にプレイしたあと、2月26日不破湊が挑戦。3月1日には椎名唯華がプレイし、3月6日には不破が2度目の挑戦をする横で、本間ひまわりフレン・E・ルスタリオも配信することに。1日に3人ものライバーが『Q REMASTERED』をプレイしたこの日以降、本作はにじさんじ内でじわじわと流行していった。

 にじさんじ所属のタレントは、お互いに「どんなゲームをプレイしているのか?」と観察することが多く、プレイするきっかけについて問われれば「みんなやってて流行ってるなと思って……」とハッキリ答える者も多い。

 そういったことも影響してか、本作は3月には42回、4月には25回と、かなりの回数にじさんじ所属のタレントがプレイすることとなった。配信でプレイされた回数だけで言えば、『Apex Legends』『Minecraft』といった定番ゲームにも負けていないだろう。

 VTuberシーンでも影響力の強いにじさんじのメンバーがこぞって配信でプレイした少し後からは、にじさんじと同じくシーンを牽引するホロライブでも『Q REMASTERED』が流行し始める。

 ホロライブでは兎田ぺこら3月26日に一番手で配信すると、その翌日からホロライブ所属のメンバーが次々と配信上でプレイ。さくらみこ白銀ノエルらといった国内メンバーだけでなく、ハコス・ベールズや森カリオペといった海外メンバーもプレイし、3月から4月にかけての一ヶ月と満たない間になんと27人もの所属メンバーがプレイすることとなった。

 数十万人~百万人レベルのチャンネル登録者を誇るにじさんじホロライブの面々は、生配信をおこなえば数千人から数万人近くが視聴者としてリアルタイムに集まる大人気のコンテンツだ。

 そんな彼ら/彼女らが一気にプレイしたことで、『Q REMASTERED』はにじさんじホロライブ以外のVTuberシーンやゲーム配信者にも注目され、本作は配信界隈のいたるところに登場するようになったのだ。

 兎田ぺこらさくらみこが同作をプレイした際には、視聴者が一気に公式サイトをチェックし、その影響でサーバーがアクセス過多状態となりついにはダウンしてしまうほどであった。“これぞインフルエンサー”ともいうべき圧倒的な影響力であろう。

 にじさんじホロライブの影響力により、VTuberやゲーム配信者の間で一気に名前が広まった『Q REMASTERED』。本作のオフィシャルもその影響力によって生じた“波”を巧みにキャッチしており、それぞれ配信開始前の予告ツイートや配信が終わったあとの感想ツイートなどに、リツイート・コメント付きリツイートで反応している。

 にじさんじホロライブといったトップランカーだけではなく、デビューして間もない個人VTuberであっても同じように丁寧な対応をしているので、もはや「『Q REMASTERED』のTwitterアカウントを見ればまだ見ぬVTuberに出会える」といった状況だ。

 それだけでなく、お目当てのVTuberがライブ配信している場所に登場し、リスナーと同じようにヒネリの効いたコメントを残していくこともあるほどだ。

 ライブ配信、それもゲーム実況という場に開発者本人がやってくることは珍しく、コメントまで残していくのはとてもレア。しかも、ときにはスーパーチャットでコメントを残すほどであり、配信者本人・見ているリスナーも「本人!?」と一様に盛り上がる。

 ここまで配信者フレンドリーな(それもリスナーに近しい目線で楽しんでいくような)ゲームクリエイターもほかに類をみないのだ。

■シーンと一体となりWIN-WINの関係を作り上げることが成功の鍵?

 5月3日からは『Q REMASTERED』のSteam版が配信開始されており、Nintendo SwitchだけでなくPCからも本作をプレイすることができるようになった。

 Steam版ではコントローラーはもちろん、キーボードマウスでの操作にも対応しており、ポータブルPCゲーム機『Steam Deck』などでのタッチ操作にも対応している。

 さらに、Steam版では新機能として「IQ診断モード」が搭載され、専用ステージをプレイするとプレイヤーを分析したグラフが出力されるようになっている。

 実際にライブ配信やプレイ動画を視聴したり、あるいは本作実際にプレイしてみた方であればお分かりかもしれないが、このゲームに求められるのは「パズルゲーム」という響きから連想される知的遊戯のセンスよりも、「脳筋プレイでいいからムリヤリにでも答えてやろう」という、ある種「気合」とでも呼ぶべきプレイングが重要になる。

「問いかけられたら答えを返す」「答えがスマートみつからないのであれば、どのような形であってもひねり出す」。それがこのゲームの本質なのだ。

 栗田曰く「『Q』は解き方を考えずに作るほうが、答えが透けて見えないため良問になりやすい」とインタビューで答えているように、答え方が分からない・思いつかないような問題も沢山ある。そうしたパズルゲームにあるまじき「型破りな自由さ」が、樋口楓のような「型破りなリアクション芸」を得意とするライバーと惹き合わせたのかもしれない。

 冒頭でも述べたように、本作を制作した栗田祐介は『空気読み。』を制作したクリエイターである。こちらの作品は長きに渡ってVTuberシーンで定番タイトルとして扱われ、幾度となくゲーム配信でプレイされつづけた作品だ。

 『Q REMASTERED』のヒットを受けてからのSNS上での動き・立ち回りは、前述したような「みんなやってて流行ってるなと思って……」というプレイに至る動機をさらに強くするもので、『空気読み。』と同じように配信者・ファンから愛されるキッカケ・理由となりうるだろう。

 金銭が発生する契約を交わして「プロモーション案件」として配信で取り上げる形ではなく、自然発生的に盛り上がっている流れにむしろ自分たちが飛び込み、シーンと一体となるように動いていく。

 すべてのゲームがこういった“幸運”に恵まれるわけではないが、思い切った決断とWIN-WINな広告活動により、もしかすると本作は今後『空気読み。』に並ぶくらいの定番ゲームとしてシーンに浸透していくかもしれない。
(文=草野虹)

動画サムネイルより