いまやスマホ1つで簡単に仕事探しができる時代ですが、キャリアコンサルタントの森田昇氏は、すぐ応募できる体勢を整えるためにも「事前準備」に最低3ヵ月はかけるようアドバイスします。転職の成否は事前準備にかかっているといっても過言ではありません。事前準備の一環として、本稿では森田昇氏の著書『年収300万円から脱出する「転職の技法」』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、「ブラック企業の見極め方」を紹介します。

「会社選びの判断軸」ナシで転職先を探すのは危険

事前準備のうち①転職の目的を決め、②自己分析まで済んだなら、ここから③会社選びの判断軸を作り上げていきます。この会社選びの判断軸が定まっていない状態で転職先を探してしまうと、ブラック企業を引き当ててしまう可能性が高まります。

この見極め方をぜひ、今まさにブラック企業にいる人が、年収300万円で酷使されている状況から脱出するための知恵袋として使っていただけると嬉しいです。私も新卒入社の会社が月の残業時間100H超なのに残業代0円、年収300万円というブラック企業だったので(1社目)、当時知っておきたかったことを漏れなく書きますね。

厚生労働省は「ブラック企業」について明確に定義していませんが、一般的な特徴として、①労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す、②賃金不払残業やパワーハラスメントが横行する等、企業全体のコンプライアンス意識が低い、③このような状況下で労働者に対し過度の選別を行う、と言われています。もちろん、「それぞれの会社による」という前提はありますが、ブラック企業になりやすい業界というものは存在します。

こんな業界構造はブラックになりやすい

これは業界の構造的に儲けることが難しいため、社員や組織へ投資することができずに待遇が悪化している業界のことです。「業界の構造が悪い」としか言いようがないので、技術革新でどうにか改善されることを願っています。そうでないと、こういった業界が選ばれなくなりますから。

そんな構造とは、以下のとおりです。

・価格競争が激しい

・利益率が低い

・労働集約型

・個人相手の事業

・衰退している

・その結果、もうブラック業界だと知れわたってしまった業界

価格競争=コスト競争でもあるので、コストダウンは間違いなく人件費がターゲットにされます。熾烈なコスト競争は社員の待遇悪化を引き起こします。これは利益率の低さも同様で、どちらも儲からないため長時間サービス残業が横行しやすく、なのに年収300万円以下、という業界がざらです。代表的な業界は、商品として差別化できない生活必需品を多く取り扱っている小売業(スーパー・コンビニ・デパート等)です。

労働集約型といった、人間の労働力をあてにしてビジネスを回している業界も待遇が悪くなります。人間の力を前提としたビジネスモデルなので、人間が頑張らないと回らず、どうしても労働環境が悪化しやすくなります。現場の人間の力で成り立っている飲食業や運送業(トラック等での配送)に加え、IT業界もまた、「IT土方」と揶揄されるように人力と力技に頼っている側面もあるので、労働集約型に当てはまります。非対面・非接触での遠隔操作や自動運転、AIでの超高速プログラム開発やノーコードツールの早期普及が待たれます。

個人相手の事業では、接客なしではビジネスが成立しないため、時間あたりの売上が低くなります。労力をいくらかけても利益は薄いといった薄利多売ビジネスになりやすいので儲かりません。また、接客が中心になると労働集約型にもなってしまうため、ますます社員の労働環境が悪化します。個人相手の接客が必須な業界としてはアパレルやブライダル業界、介護・福祉が挙げられます。

介護・福祉以外は儲かりにくい業界かつ、利用者が減っている衰退業界なのでブラック化が進んでいます。このような業界では、毎年同じことをしているだけでは売上や利益が減っていく状況に陥っています。

これらの業界はすでにブラック業界と知れわたっているので、常に人手不足です。必然的に1人当たりの仕事量が増え、ますますブラック化するという負の連鎖に陥っています。

狙い目なホワイト業界は、その逆です。利益率が高いために価格競争も勃発せず、大規模設備や高度な知識等を軸に法人を相手にしたビジネスモデルであるため、誰もがホワイト業界だと認識しています。

もちろん、業界だけで括れない例外的な会社はたくさんありますが、業界選びの参考にしていただければと思います。

ブラック企業の特徴10選

ブラック企業に勤め続けることは、肉体的にも精神的にも大きなダメージを負います。もしあなたが、次の特徴に7個以上当てはまる会社に現在勤めている場合は、直ちに転職することをおススメします。そのままでは心身の健康を害します。

ブラック企業の代表的な特徴を10個、並べます。求人票や口コミサイトでもチェックしてみてください。

--------------------------------------------------------------------

ブラック企業の特徴10選>

1. 長時間労働(月の残業時間は45時間まで! 例外はあっても法定基準は覚えよう!)

2. 休日や有給休暇が少ない(業界によっては年間休日100日切る! 多い業界は120日以上! 1ヵ月分も違う!)

3. 週休2日制(「完全週休2日制」と書いてないと、月の土曜日ほぼ出勤!)

4. 給料が最低賃金以下(月の労働時間である160時間で月給を割ってみよう! アルバイトのほうが稼げるぞ!)

5. 残業代なし(れっきとした法律違反! 残業代は残業時間1分から支給対象!)

6. 固定残業代&裁量労働制(どちらも正当な残業代が消滅するうえ、無限に働かされる!)

7. やたらと情熱的なアピール(「夢」「やりがい」「絆」といった甘言しかアピールできない会社だぞ!)

8. やたらとアットホームをアピール(社長が絶対君主な昭和の家長制だぞ!)

9. ずっと求人募集している(離職率が高過ぎて求人をなくせない!)

10. 口コミサイトで大炎上(ネガティブな意見が集まりやすいネットでも、生々しい情報はだいたい合っている!)

--------------------------------------------------------------------

もしこれらのことが1つでも当てはまるのなら警戒しましょう。

一方で、ブラック企業のようなガンガン働く環境が性に合っている人もいることはいます。しかし、それには多くの給料やスキルアップ等の見返りが必要です。悪質なブラック企業は、そんな事もお構いなしに低賃金で社員をこき使い、ぼろ雑巾にして、ポイ捨てします。

ブラック企業は人材が定着しないため、常に飢えています。新しいカモを求めている牙を回避するためにも、コンプライアンス・法令順守をキッチリしている、働く意欲の高い人が多い、そして何より社員を大切にしているホワイト企業を見つけてください。

「商流」が下になるとブラックになりがち

ここまで会社選びの判断軸として、業界と会社の構造、状況からブラック企業になりやすい特徴を見てきました。あと1つ、「商流」を把握すればブラック企業対策はバッチリです。商流とは「商的流通」の略で、生産者から消費者まで商品の所有権が移転されていく売買活動の流れを指します。川の流れのように上から下へと流れていきますが、分かりにくいので例を挙げて説明しますね。会社同士の商流の代表的な例は3つあります【図表】。

1つ目は仕入から販売に至る流れです。業務用エアコンを例にすると、商社は家電メーカーから業務用エアコンを仕入れます。そして飲食店へ卸売りしますが、この流れでは商社から見ると、メーカーが仕入先、飲食店が販売先になります。仕入先⇒自社⇒販売先と商品が移転するので、その流れが商流となります。

2つ目は依頼元から依頼先に至る流れです。トラックでの大型重機の物流を例にすると、荷物の依頼元(ここでは仮に建設現場を取り仕切る建設会社としましょう)は、物流会社へ大型重機の配送を依頼します。そして物流会社は依頼先(ここでは仮に建設会社が施工しているレジャー施設としましょう)へ大型重機を配送しますが、この流れでは物流会社から見ると依頼元⇒自社⇒依頼先と大型重機が移動していくので、その流れが商流となります。

3つ目は元請けと下請けの流れです。IT業界におけるシステム開発委託を例にすると、発注企業が元請け企業のSIer(システムインテグレータ。システム開発や運用等を請け負うサービス事業者の略称)へシステム開発を依頼します。そして元請け企業は自分たちの人員だけで開発するのは難しいので下請け企業(2次請け)へ仕事を流し、下請け(2次請け)企業がまたその下請け(3次請け)企業に…と発注が川というよりむしろ滝のように流れていきます。この流れでは下請け(2次請け)企業から見ると元請け⇒自社⇒下請け(3次)企業と仕事が移転されていくので、その流れが商流となります。

3つの商流ともに、下流に位置する会社ほど社員の待遇が悪くなる傾向があります。商流的に上の会社の言いなりになりがちのため、値上げ等の希望が通らないからです。また、下流に近づくと個人客相手の事業となるので疲弊しやすく、さらに中間に位置する会社に利益を中抜きされることでブラック企業化しがちなのです。逆に商流が上流だと、中間に位置する会社に利益を乗せられることがないため、適正価格で取引でき、会社も儲かります。自動車業界を例にすると、細かい部品工場の下請けメーカーと、その中間メーカーと、元請けの自動車メーカーだったら、どの会社の待遇が良いかは分かりやすいと思います。

もちろん商流も、業界や会社と同じように例外的な流れはあります。「特許取得等でその企業でしか生産できない部品を取り扱っている」「スーパーエンジニアを複数抱える等でその企業でしかシステム開発できない」といったものですが、商流もまた転職先の業界・会社選びの参考にしていただければと思います。

まとめ:ブラック企業の見極め方

ブラック企業の見極め方をまとめると、①その業界が稼げる業界なのか、②会社が出している求人票や口コミサイトの評判はどうなのか、そして③商流の位置がどこなのか。この3つを会社選びの判断軸としていただければ、確実にブラック企業の魔の手から逃れられます。

もし今の会社こそがブラック企業だと見極めてしまったのなら、これはもう転職のベストタイミングですね。

森田 昇

10回転職したキャリアコンサルタント中小企業診断士

何の資格も技術もないまま就職氷河期の1998年に大学を卒業、社会人となる。新卒入社した年収300万円のブラックIT企業四天王の一角(当時。その後倒産)を3年で辞めた後、2社目は1ヵ月で、3社目は2ヵ月で退職。サラリーマン生活20年間で10回の転職を経験し、年収の乱高下を味わうも「ちょいスラ転職」で年収300万円からの脱出を果たす。

この転職法を紹介した再就職支援セミナーをハローワークで100回以上開催、2,000人の転職と再就職の支援をする。Twitterフォロワー数合計13,000人。著書に『売れる!スモールビジネスの成功戦略』(明日香出版社)がある。

(※写真はイメージです/PIXTA)