高齢者や閉経後の女性が発症しやすいというイメージの「圧迫骨折」や「骨粗鬆症」。しかし、40代や50代の男性が「知らないあいだに発症している」ことも多いと、横浜町田関節脊椎病院の越宗幸一郎院長はいいます。年収も増えて“稼ぎ時”のサラリーマンが圧迫骨折や骨粗鬆症を引き起こす「キケンな生活習慣」と、発症させないための「理想の生活習慣」についてみていきましょう。

「圧迫骨折」は予兆がない…気づかぬうちに繰り返しているかも

「尻もちをついた」「ちょっとつまずいた」など、ふとした動作で発症する圧迫骨折。なかには「知らないあいだに骨折していた」という人もおり、「気づかないうちに発症して、いつの間にか治っていた」という場合も少なくありません。

「圧迫骨折」とは

圧迫骨折とは、正式には「脊椎圧迫骨折」といい、脊椎(=背骨)が押しつぶされるように骨折した状態のことをいいます。脊椎は椎骨という骨が連結して作られており、頚椎7個(首)、胸椎12個(胸)、腰椎5個(腰)、仙椎、尾骨と続いています。

圧迫骨折が起きやすいのは、ちょうどみぞおちの後方にある背骨(胸椎と腰椎の移行部)。さらにその部分に骨折が起きると背骨のバランスが崩れ、胸椎でも圧迫骨折が起きやすくなります。

[図表1]圧迫骨折した椎体

先述したように「自分でも気づかないうちに骨折し、知らないあいだに治っている」ことがあるのが、圧迫骨折の怖いところです。腕や脚の骨折とは異なり、圧迫骨折を起こしても「ちょっと腰が痛いな」と感じる程度で、普通に歩いたり動いたりできる方も多くいます。

そのため、気づかないうちに何度も繰り返しているという方も少なくありません。しかし、適切な治療を行わないと、背骨は骨折するたびに圧迫変形を起こし、いずれ背中が丸く曲がってしまいます。

いったんこういった状態になると、骨を切る手術などを行わなければ背筋が伸びなくなってしまうこともあります。まるで昔話に登場するおじいさんおばあさんのように、腰が曲がった状態で骨が固まってしまうのです。

寝返りを打ったときや、起き上がったときなどに、背中や腰に痛みを感じる」「お腹周りが痛い」「足にしびれや痛み、麻痺、脱力感がある」などの症状が1週間続く場合は、専門医を受診しましょう。

圧迫骨折リスクを高める「1日大瓶1本のビール」

圧迫骨折の誘因となるのは、「加齢」や「女性ホルモンの変化」だけではない

圧迫骨折が起きやすいのは、高齢者や閉経後の女性とされています。閉経後の女性に注意が必要とされているのは、本来、骨の代謝を調節している女性ホルモンが閉経とともに減少し、骨粗鬆症を発症しやすくなっているからです。

そのため、男性に比べて女性のほうが圧迫骨折を起こしやすく、さらにいくつもの圧迫骨折を同時に発症しやすいとされています。

しかし、圧迫骨折の誘因となるのは加齢や女性ホルモンの変化だけではありません。

まず気をつけたいのが、アルコールの多飲。過度な飲酒を続けると、お酒を飲むことばかりに意識が向いて食事が疎かになり、栄養失調に陥りがちです。

その結果、骨がスカスカ状態となり、圧迫骨折を起こしやすくなります。日本骨粗鬆症学会の「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015年版」では、1日のアルコール摂取が24g以上で骨粗鬆症による骨折リスクが38%上昇し、大腿骨近位部の骨折は68%上昇したという研究結果が紹介されています。

※ 日本骨粗鬆症学会「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015年版」p46

24gのアルコールというと、ビール大瓶1本、日本酒1.1合くらいの量です。「それくらいは飲んでいる」と心当たりがある人は、意外と多いのではないでしょうか。

これに加え、喫煙者も注意が必要です。ニコチンの作用で全身の血流が悪くなり、胃腸の働きが抑えられることで、骨にとって大切なカルシウムの吸収が妨げられるからです。喫煙者は骨折箇所への血流が悪いため、骨折してから治るまで長期化することがわかっています。

そのほか、糖尿病や高脂血症など代謝異常のある人、過度なダイエットをしている人も圧迫骨折を起こしやすいとされています。

「圧迫骨折=重度の骨粗鬆症」…発症すると“生涯”治療が必要

圧迫骨折を起こした場合、ほとんどが重度の骨粗鬆症です。そのため、治療を行うのと同時に、骨粗鬆症の治療も必要になります。

いちど骨密度が低下し、骨質が劣化してしまった骨は、「完全に元通りになることはない」とされています。

骨粗鬆症を発症した場合、骨密度の低下により骨折しないために、骨粗鬆症の治療を生涯にわたって継続する必要があります。

ただし、現在では治療薬も進化し、「骨密度の増加が期待できる薬」や「投与間隔が長めで頻繁に投与する手間がない薬」なども開発されています。薬物治療を続けながら、食事療法や運動療法を併用することで骨の強度を高めていくことは可能です。

大事なのは、服薬のタイミングや分量など、医師の指示を守ることです。自己判断で薬をやめてしまうと、「オーバーシュート現象」といって急激に骨密度が低下し、圧迫骨折を引き起こしてしまいます。必ず医師の指示に従い、根気よく服用し続けることが大切です。

高額な薬の場合「年間20万円以上」…骨粗鬆症はなってからでは遅い

骨粗鬆症を発症すると、生涯、投薬が治療になります。たとえば副甲状腺ホルモン製剤の「テリパラチド」を皮下注射した場合、1ヵ月で約2〜3万円。3割負担の場合には毎月7,000〜1万円ほどかかります。

薬の種類によって薬価は異なり、安価なもので1ヵ月1,000円程度、高額なものであれば1ヵ月1万7,000円程度かかります(いずれも3割負担の場合)。

これだけの負担を一生涯、抱えなければならなくなるのですから、数十年間払い続けることを考えると、総額は相当なものになります。

そのため、骨粗鬆症は発症してから治療するのではなく、発症しないように予防することが非常に重要です。まだ骨が健康な40〜50代から、骨を強くすることを意識した生活を心がけましょう。

骨粗鬆症予防に大切な「3つの生活習慣」

では、予防するにはどうしたらいいのでしょうか。下記のような生活習慣で、「強い骨を育てる」ことが大切です。

1.軽い運動…骨に刺激を与え骨密度が上昇

まずは運動です。習慣化することで、骨に刺激を与えることで、骨はどんどん強くなり骨密度が上昇します。ウォーキングやジョギング程度で構いませんので、運動を習慣化しましょう。

2.栄養バランスのいい食事…骨を強くする

次に、栄養バランスの良い食事です。小松菜などの緑黄色野菜、ひじきなどの海藻、豆腐などの大豆製品から、骨を強くするのに必要なカルシウムを摂り入れましょう。

そのほかにも、カルシウムの吸収を促進するビタミンDや、骨へのカルシウムの取り込みを助けるビタミンKも必要です。エネルギーと栄養素を過不足なく摂取しましょう。

反対に、一部のインスタント食品やスナック菓子、カフェインなどを過剰摂取すると、これらに含まれるリンはカルシウムの排泄を促してしまいます。控えめにするように気をつけましょう。

3.適度に日光に当たる…ビタミンDを生成

近年はリモートワークなどで外出する機会が減った人も多いかと思いますが、日光に当たることも大切です。

ビタミンDは日光に当たることによって体内で作られることから、「サンシャインビタミン」とも呼ばれています。日光に当たることで得たビタミンDは、食事で得たビタミンDと同様に肝臓や腎臓で代謝され、活性型ビタミンDへ変化して、体内で活用されやすくなります。

40〜50代のうちからこうした生活習慣を心がけ、強い骨を育てる意識を持てば、骨粗鬆症や圧迫骨折といったリスクを軽減することができるでしょう。

◆まとめ

骨粗鬆症の怖いところは、予兆や自覚症状がなく、骨折して初めてわかる点です。女性は50歳くらいから、男性は60歳くらいから、年に1度は整形外科で骨密度を測定してもらい、骨粗鬆症の予防に努めましょう。

越宗 幸一郎

横浜町田関節脊椎病院

(※写真はイメージです/PIXTA)