大手銀行の住宅ローンの固定金利が10年ぶりに上昇し、住宅購入やローン返済に不安を抱いている人が増えています。住宅ローン相談実績25年・5,500件超の実務家FPとして活躍する平井美穂氏が、著書『金利上昇でもあわてない 住宅ローンの超常識』(河出書房新社)から、住宅ローンの正しい知識をわかりやすく解説します。今回は、「低金利への借り換え」をすべきか否か判断するうえで重要なポイントをお伝えします。

Mさんの例|「変動金利0.625%」→「変動金利0.296%」の借り換えを検討

【相談者Mさん】

・48歳会社員

・妻と子の3人家族

・5年前に夫婦で6,000万円の住宅ローンを組み、新築マンションを購入

・変動金利0.625%で借りているが、auじぶん銀行0.296%のローンが気になっている

【現在の状況(見直し前)】

・月々返済額:11万6,134

ボーナス時加算額:25万8,023円

・ローン残高:5,220万円

・金利:0.625%(保証料は借り入れ時に一括払いしている)

・残存期間:30年

Mさんが借りている金利は変動金利で0.625%です。けっして高い金利ではありませんが、0.2%台の住宅ローンがでてきているので気になっているようです。

というのも、Mさんは12年後、60歳になったときに一括返済を考えているからです。

ローンの残存期間は30年ですが、このままだと、返済が終わるのはMさんが78歳のときになる計算です。

しかし、実際には、会社員のMさんが60歳で定年退職を迎え、65歳から年金暮らしがスタートします。そのなかで、78歳まで住宅ローンの返済を続けるのは現実的ではありません。

Mさんに今後の返済計画を確認したところ、住宅ローン控除を最大限受けるために夫婦で多めの借り入れをしたが、60歳の定年退職時には貯蓄で一括返済する予定とのことでした。

そこで、auじぶん銀行の変動金利0.296%に借り換えると仮定し、現状の0.625%のまま返済を続けた場合と、返済シミュレーションによる比較検証をしてみました([図表1])。

いずれの場合も12年後の60歳時に一括返済する前提なので、今後12年間の返済累計額と12年後のローン残高を合算して比較します。

借り換えにかかる諸費用は約160万円ですが、自己資金で支払わず借入額に含めます。

ローン残高5,220万円と諸費用160万円を合わせた5,380万円をauじぶん銀行で借りることにしました。

シミュレーションの結果、auじぶん銀行に借り換えたほうがローン残高は増えるものの金利が下がるので、月々返済額・ボーナス時加算額ともに減らすことができます。

今後12年間返済を続けた場合の返済累計額は2,250万円となり、現状のままの2,292万円よりも42万円返済累計額を減らすことができました。

ただし、12年後のローン残高は3,285万円と、現状のままの3,248万円よりも37万円増えている点は注意してください。

結局、今後12年間の返済累計額に12年後のローン残高を足した合計額は、現状のままが5,540万円、借り換えた場合が5,535万円と、その差わずか5万円です。

この数字だけみると、経済メリットがほとんどないなかで、手間を考えると借り換えするかどうか微妙なところではないでしょうか。

しかし、もしいま借りているローンが、繰り上げ返済をすると保証料が戻ってくるタイプのローンならば、借り換えを検討する価値があります。

「戻し保証料」があるローンのシミュレーション

Mさんは、いま返済中の住宅ローンを借入したとき、35年分の保証料を現金一括で支払いました。保証料一括前払型の住宅ローンの場合、繰り上げ返済や一括返済をすると短縮した期間分の保証料が還付されます(戻し保証料)。

Mさんの場合は、借り換えをすると残り30年分の保証料として76万円が現金で戻ってくる見込みです。

ちなみにいまのローンのまま返済を続けた場合でも、60歳のときに一括返済すれば残りの18年分の保証料が18万円ほど戻ってきます。

最終的に、それぞれの戻し保証料も考慮すると、借り換えした方が▲63万円支払い総額が減るので得という結果になりました。

注意が必要なのは、事務手数料型のローンや保証料金利上乗せ型のローンなど保証料が戻らない種類のローンを借りている人が、同じような金利条件・返済期間で借り換えを検討する場合は、借り換えメリットが出ない可能性がある点です。

また、戻し保証料の金額は、当初借入額や残存期間、融資条件などにより異なります。

個々に計算する必要がありますが、一例として[図表2]都市銀行の例を参考にしてみてください。

戻し保証料の具体的な金額については金融機関側も事前には教えてくれないケースが多いですが、ダメ元で聞いてみてください。

そもそも自分のローンが保証料型なのか、最初に保証料を一括で払ったのかわからないという方も多いでしょう。そういう場合は、契約当初の書類で確認してみてください。

それでもわからないという場合は、筆者のような住宅ローン専門家に相談するという手もあります。

戻し保証料は、完済してから1か月後くらいに保証会社から返済口座に入金される形で還付されます。そのため、返済が終わったからといってすぐさま口座を解約しないよう注意が必要です。

筆者はこれまで数多くのお客様の住宅ローンの見直し相談にのってきましたが、借り換え前と借り換え後の金利差がおおむね0.3~0.4%程度であり、実際に返済を続ける期間が10年前後の場合、諸費用を考慮すると借り換えメリットがでにくくなっています。

住宅ローンの借り換えを検討するときには、単純なローンの残存期間ではなく、実際に返済を続けるのはあと何年なのか、売却資金や退職金、預貯金あるいは相続財産などの資金を使って、途中で一括返済する見込みがあるのかどうか、あるとしたらそれはいつごろなのか、といったことが大きくかかわってきます。

そこを考えずに借り換えをすると、結果として損する可能性もあるので、今後のライフプランやマネープランをしっかり考えたうえで借り換えを検討するようにしてください。

平井 美穂

平井FP事務所

代表ファイナンシャルプランナー

(※写真はイメージです/PIXTA)