1920年代、アメリカの法廷ではドラマチックな展開が待っていた。それは、中にカメラを隠した、巨大な赤い目をした骸骨を使用し、容疑者(被疑者)に尋問するというものだ。
これは、カリフォルニア州オークランド在住の女性、ヘレン・アデレード・シェルビーの革新的な発明で、「犯罪自白を取得し、それらを写真に記録するための装置」として特許を取得。
実際にこの骸骨尋問官が使用されることはなかったようだが、その奇想天外な発明品に迫ってみよう。
1927年8月16日、米国特許 第1749090号、別名「犯罪の自白を引き出し、その記録を写真で残す装置」が、ヘレン・アデレード・シェルビーによって出願された。
彼女の目的は、自白の撤回を減らすことだった。
刑事の尋問によって最初に得られた犯罪容疑者の自白は、必ずといっていいほど後から撤回されるものだと、シェルビーは、特許出願の中で説明している。
シェルビーが「斬新で便利な装置」とうたうこの発明は、「(犯罪者が)有罪であれば、それを自白をさせるような心理状態を作り出し」、その自白を記録するよう設計されているという。
アデレード・ヘレン・シェルビーの骸骨自白装置 / image credit:HELENE SHELBY/PUBLIC DOMAIN
骸骨自白装置の使用方法
アイデアそのものは、まったく単純明快だが、その使い方にポイントがある。
シェルビーの新装置はこのようにして機能する。
まず容疑者は、狭くて暗い部屋に閉じ込められる。彼から情報を引き出す(人間の)尋問官は、すぐ隣の部屋にいて、接続されたメガホンを通じて尋問する。
容疑者からは、尋問官の姿は見えない。その代わり、隣にいる尋問官がボタンを押すと、部屋のカーテンが上がり、憐れな容疑者は突然、骸骨尋問官と面と向かうことになる。
骸骨は透けたベールに包まれていて、上からも下からもたくさんのライトで照らされている。この、ライトとカーテンの効果は、あたかも懺悔室の中にいるとき、この世のものでない骸骨化した幽霊がふいに現れたように見えるようになっている。
骸骨尋問官の正面図 / image credit:HELENE SHELBY/PUBLIC DOMAIN
骸骨の眼窩には、「不自然でおぞましい光をもたらす」赤い電球が取りつけられている。
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メガホンは、まるで骸骨が本当にしゃべっているように聞こえる位置に設置されていて、点滅もする。
果たして効果のほどは?
「こうした超自然の幻想的効果は、容疑者の想像力に働きかける」とシェルビーは書いている。本物の骸骨と話していると思い込んだ容疑者が、秘めていた真実を自発的に告白し始める、というわけだ。
それだけではない。容疑者が腹の内を自白している間、骸骨は頭に埋め込まれたカメラで容疑者の様子をばっちり録画している。
シェルビーの説明によれば、このカメラは録画、録音できるようになっていて、「場面と言葉を両方とも同時に記録」することができるスマート機器なのだという。
尋問官は、手元の交換機を通して、なにもかもを操作することができる。
後で、容疑者が証言を撤回しようとしても、「あらゆる表情や感情を記録した」映像と音声が動かぬ証拠となる。
骸骨の頭に内臓された記録装置 / image credit:HELENE SHELBY/PUBLIC DOMAIN
骸骨尋問官が実際に使用されることはなかった
このなんともユニークな装置を編み出した女性は、どんな人物だったのだろう?
過去の新聞でシェルビーの名を検索しても、彼女の生涯についてはほとんどヒットしない。
シェルビーは、ちょっとした不動産業者で、オークランド、サンタクルス、サンフランシスコで、不動産物件の販売や賃貸を行っていた。
ときに競馬に注ぎ込むこともあったが、1947年に夫のエドガーを残して亡くなった。発明家としては一発屋で、ほかに特許は申請していない。彼女の骸骨尋問官を活用した人もいないようだ。
それが、一番良かったのかもしれない。1961年、最高裁判所が、法廷での自白の強要は認められないとする判決を下した。
とはいえ、法学者のソール・カシムが数十年後に書いているように、なにをもってして"強要"とみなすのかどうかについて、「単純なリトマス試験紙はない」のだ。
現代のAI技術をもってすれば、強要せずとも容疑者の顔のわずかな筋肉の動きで嘘かどうかを見抜くことができるようだが。
References:The 1920s plan to make criminals confess to a terrifying skeleton - Big Think / written by konohazuku / edited by / parumo
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