当事者をはじめとした草の根運動により、LGBTQへの理解が徐々に広まりつつある昨今。しかし、いまだ同性婚の法制化にはいたっていません。こうした状況で、「自分の死後は同性パートナーに資産を遺したい」という理由で裁判になった事例があります。一体どのような判決結果が出たのでしょうか? 実務に精通した弁護士陣による著書『依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい)より、解説します。

同性のパートナーに資産を残したいが、可能か?

【相談の概要】

Aには、資産として土地・建物と預金があります。Aの同性パートナーBがAの死亡後も生活に困らないようにBが亡くなるまで自宅に住み続け、預金もできるだけBに残したいと考えています。

【相談を受けた弁護士の回答】

・遺言又は死因贈与契約により、必要と思われる財産を譲渡することが必要です。 ・相続人がいる場合には遺留分について配慮が必要です。 ・相続人がいない場合は、包括遺贈の方法が相続後の手続きを考えると簡便です。ただし、権利義務を承継するので、債務にも注意してください。

1.問題点の整理

いまだ認められない同性婚…法的に「相続権」を保証する制度がない

自らの死後、同性のパートナーに財産を残したいという場合、現在の日本の制度では、同性のカップルに対する法律上の婚姻は認められていませんので、相続人がいない際の特別縁故者として保護される場合を除き、法的に相続権を保障する制度はありません。

近年、各自治体で取り組みが進んでいる、同性カップルを婚姻に相当する関係と公的に認める、いわゆるパートナーシップ制度を利用した場合であっても、当該制度はあくまで、行政上や民間におけるサービスを享受しやすくするための制度であるため、法的な効力までは認められておらず、相続の問題を解決することはできません。

また、民法改正により新たに認められた、配偶者居住権等も法律婚を前提にした制度であるため、適用されません。

そうすると、同性のパートナーの居住と生活を確保するためには、遺言を作成して財産を譲渡する遺贈や死因贈与の方法を執ることが必要です。

以下、具体的な方法について、注意すべき点などに触れながら詳述します。

2.具体的な方法

原則、同性パートナーは「相続人」たり得ない

(1)相続人について

相続人とは、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する者をいいますが(民法896条)、民法上、相続人の種類と範囲については明確に定められており、

①子(及び代襲者(再代襲も含む)、 ②直系尊属、 ③兄弟姉妹(及び代襲者)と配偶者(民法887条、889条、890条) と例外である、胎児(民法886条)

です。子については、実子か養子かを問いません。被相続人の意思などによって、相続人を創出することは認められていませんので、相続できる者は以上のみです。

なお、被相続人に法定の相続人がいない場合には、同性のパートナーが特別縁故者として、相続財産管理人による清算後、残存すべき相続財産の全部又は一部を受領できることもあり得ます(民法958条の2)。

もっとも、特別縁故者とされるかどうかは、家庭裁判所の判断によるものですから、確実に同性のパートナーへ、被相続人の財産が承継されるかどうかは未知数です。結局のところ、同性のパートナーは、相続人たり得ないことから、財産を承継するには他の方法を執らざるを得ません。

同性パートナーに相続するには「遺言書」が不可欠

(2)遺贈の活用

ア.相続人以外にも財産を残せる

被相続人は、遺言により、相続人以外の者に対して自己の財産を与えることが可能です(民法964条)。

遺贈には、大きく分けて包括遺贈(遺言者の財産の全部又は一部を一定の割合にて示して遺贈する)と特定遺贈(遺言者の所有する特定の財産を具体的に示して遺贈するもの)があります。このうち、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するものとされておりますので、なかでも財産の全部の遺贈を受けた場合は、相続人同様の権利義務を負うことになります。

もちろん、包括受遺者は、代襲制度がない、遺留分が認められないなど、相続人と同等の取扱いではありませんが、権利義務の観点からは相続人と同様ですので、同性のパートナーに相続させたいという要請には、この全部包括遺贈の方法を執ることにより応えることができるでしょう。

土地・建物のみなどの「特定遺贈」の場合は、「相続財産管理人」に注意

イ.遺贈の活用方法

もっとも、全部包括受遺者の場合は、義務をも承継することから、債務が多い場合などは、場合によっては、居住する場所だけを確保したいとして、土地建物だけを特定遺贈するという方法も考えられます。

しかしながら、この場合に注意しておかなければならないことは、遺贈による権利変動については、第三者対抗要件が必要とされる点と被相続人に相続人がいない場合には相続財産管理人の選任が必要とされる点です。

前者については、遺贈は、「意思表示によって物権変動の効果を生ずる点においては贈与と異なるところはない」から、「登記をもって物権変動の対抗要件とするとした」判例(最二小判昭和39年3月6日民集18巻3号437頁)がありますので、特段問題はなかろうかと思われます。

後者に関し、全部包括受遺者が存在している場合については、民法951条にいう「相続人のあることが明かでないとき」に該当しないとの判例(最二小判平成9年9月12日民集51巻8号3887頁)がありますが、一部包括遺贈や特定遺贈の場合には、相続人不在と扱われることから(一部包括遺贈については見解が分かれます。)、相続人不存在として、相続財産管理人の選任が必要です。

そうすると、相続財産管理人による清算手続の一つとして、特定遺贈がなされるため、遺言どおりに遺贈がなされるのかどうか不確定なところがあり、無事になされたとしても期間や費用がかかることが予想されます。

特定遺贈の場合には、上記のようなことを想定しておく必要があります。

なお、上記相続財産管理人が選任される事案において、遺言執行者を選任しておいた場合の取扱いがどうなるかが問題となりますが、相続財産管理人の権限が優先され、遺言執行者の権限は相続財産管理人の業務終了まで一旦休止という取扱いとされるようですので、遺言執行者を選任していてもそれほど大きな違いはないといえそうです。

「死因贈与契約」による相続も可能

(3)「死因贈与」と「遺贈」の違い

贈与者は、生前に自己の財産を、自身の死亡を条件として贈与する契約を締結することができ、このような契約は死因贈与契約と呼ばれ、実質的には遺贈を同様の効力があることから、その性質に反しない限り、遺贈の規定が準用されています(民法554条)。

もっとも、死因贈与と遺贈は、

①要式行為であるかどうか、 ②一方的な意思表示か意思表示の合致が必要か

という点で大きな違いがあり、この違いが場合によっては結論を左右することもあるので、注意が必要です(無効な遺言を死因贈与として有効と判断した例(東京高判昭和60年6月26日判時1162号64頁。))。

本件でも、遺贈のみならず、死因贈与契約による方法が考えられます。

相続人がパートナー以外にいる場合は「遺留分」に注意

(4)遺留分への配慮

上記(2)、(3)により、遺贈や死因贈与がなされた場合にあっては、相続人が他にいる場合には、遺留分への配慮が必要であるのは、他の案件と同様です。

パートナーを「養子」とすれば法的に「相続人」となるが…

(5)養子縁組について

上記のような財産の移転行為のみに頼るだけでなく、法定の血族関係である、養子縁組の手続きによれば、当然に法的にも相続人と認められますので、このような手続きを執っているというカップルもいるかもしれません。

しかしながら、お互いにカップルとして、婚姻関係を望んでいるのですから、気持ちと異なる関係(親子関係)を結ぶのは違和感が否めませんし、それを乗り越えて養子縁組を行ったとしても、縁組意思がない等の理由で、法定相続人らから、養子縁組無効確認の訴え(人事訴訟法2条3号)が起こされるおそれも否定できません。

「養子縁組」の有効性をめぐって…裁判の結果は

この点、同性の受刑者間における養子縁組について、専ら外部交通を確保するためになされたものとして、養子縁組の有効性が争われた事案について、

「成年同士の養子縁組」における、「養子縁組に求められる縁組意思における社会通念上親子と認められる関係というのは、一義的には決められず、相当程度幅の広い」ものとした上で、

「成年である養親と養子が、同性愛関係を継続したいという動機・目的を持ちつつ、養子縁組の扶養や相続等に係る法的効果や、同居して生活するとか、精神的に支え合うとかなどといった社会的な効果の中核的な部分を享受しようとして養子縁組をする場合については、取りも直さず、養子縁組の法的効果や社会的な効果を享受しようとしているといえるのであるから」、縁組意思が認められるとし、

「年齢差のない成年同士の養子縁組にあっては、典型的な親子関係から想定されるものと異なる様々な動機や目的も想定され得るものであり、その中で、同性愛関係を継続したいという動機・目的が併存しているからといって、縁組意思を否定するのは相当ではない」と判断した裁判例(東京高判平成31年4月10日裁判所HP)が参考になります。

上記裁判例はあくまで事例判決であって、同性カップルにおける養子縁組をすべて有効とするものではありませんが、近年の同性カップルに対する社会的な認知度の高まり等に応じて、本来的には婚姻関係であるところを養子縁組にせざるを得ない点を捉えて、養子縁組の意思がないという単純な発想による判断がなされていない点は、注目に値するといえるでしょう。

養子縁組による方法で、相続人たる地位を確立するという方法も検討に値するということがいえるでしょう。

なお、現行法においては、養親子関係にあった者は、離縁後も婚姻はできないことから(民法736条)、仮に、性同一性障害の性別の取扱いの特例に関する法律により戸籍上の性別を変更し、婚姻が可能となったとしても、かつて養子縁組をしていたということをもって、婚姻ができないことには注意しなければなりません。

(6)税務面

相続人ではないことから、課税上の控除の点や相続税の2割加算など、取扱いが異なります。

3.結論

遺言書の概要としては冒頭に記載しましたが、具体的には下記のとおりとなり、相談を受けた場合には、下記のような遺言書案を提示することになるかと思います。

第〇条 遺言者Aは、遺言者の有する一切の財産を、Bに包括して遺贈する。

または、

第○条 遺言者Aは、次の不動産及び金融資産を、Bに遺贈する。

第○条 遺言執行者の指定

第○条 遺留分侵害額請求の順序の指定

参考文献

・堀越みき子「相続不存在の実務」判タ996号98頁(平成11年

・片岡武=管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務〔第4版〕』504頁(日本加除出版、2021年)

・片岡武=金井繁昌=草部康司=川畑晃一『家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務〔第2版〕』560頁(日本加除出版、2014年)

東京弁護士会弁護士業務改革委員会

遺言相続法律支援プロジェクトチーム

(※写真はイメージです/PIXTA)