12歳から15歳の孤児を収容する北朝鮮の孤児院「中等学院」。現在運営されているものの多くは、金正恩総書記の「子ども愛」をアピールするために新たに開設、または復活させられたものだが、その環境は良いとは言えず、逃げ出す子どもも少なくない。

両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市の施設では、脱走した少女3人が鴨緑江を越えて中国に逃げ込もうとしていたところを、国境警備隊の隊員に捕まる事件があった。

逃げ出した少女らは拘束された当時、多くの市民が見守る中で「学院に連れ戻されたら殺される」と大声で泣き喚いたと、デイリーNKの現地情報筋は伝えた。同当局が少女たちから事情を聞いたところ、体育教師2人が中等学院に在学中の少女ら少なくとも17人を強姦したことが明らかになった。教師2人は逮捕され、厳罰を下されたという。

さて、それではどうにか中等学院を出た若者の現状はどうなのか。朝鮮労働党は手厚いサポートを指示しているが、その中身は「子ども愛」よりも治安維持の意味合いが大きいものとなっている。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

朝鮮労働党咸鏡北道委員会は最近、中等学院の卒業生の生活苦の問題を分析し、下部組織に「親の心情で彼らをサポートし、安定した生活を保証せよ」との指示を下した。

中等学院を出た若者は、職場と家を与えられ独立した生活を営むことになっているが、調査によると、男性の多くが、家を捨て居住地から抜け出し、行方不明となっている。

北朝鮮において行方不明は、他の国と異なり、治安上の問題として扱われる。北朝鮮国民は職場や地域コミュニティに属して、国のコントロールを受けることになっているが、そこから抜け出すことは、国が統制できない存在となるからだ。

昨今の生活苦に耐えかね、家を売り払って山に入り、農業や炭焼きなどで生計を立てる人たちもいるが、当局がわざわざ見つけ出して登録するのは、意地でも国民をコントロール下に置きたいという考え方の表れだ。

さて、中等学院の卒業生だが、家を抜け出して各地をさまよい、乱闘騒ぎを起こして安全部(警察署)に捕まったり、米袋を盗もうと空き巣に入って、出くわしたその家の母子を凶器で刺し殺す事件を起こしたりと、様々な問題を起こしている。

危機感を覚えた朝鮮労働党咸鏡北道委員会は「各職場の朝鮮労働党委員会は、親の心情でサポートに当たれ、まずは行方不明の卒業生をすべて探し出し報告せよ」と指示を下した。

その上で、どこでどのように暮らしてきたか、生活がどのように苦しいのかを聞き出し、放浪生活中に犯した軽犯罪については刑事罰、行政罰を下さないように措置せよとの指示も下した。

また、配属された職場にうまく適応して成長できる環境を党委員会が率先して整備すると同時に、各市・郡の党委員会や各職場は、彼らに対する思想教育を行えとも指示している。

さて、彼らはなぜ逃げ出すのか。中等学院の卒業生にあてがわれる職場は協同農場や鉱山だが、一部を除いてお世辞にも環境が良いとは言えない。まともな現金収入を得られる機会もなく、一生を貧困の中で暮らすことになる。生涯孤独で守るべきもののない孤児が、よりよい生活を求めて逃げるのはごく当たり前のことだろう。

北朝鮮の兵士(デイリーNK)