一つひとつの「食」から、山の時間や会話が蘇り、歩くだけでは気づけないとても大切なことを教わります。そんな心に残る山の食べものを四季折々の楽しみとともに綴るエッセイ連載です。

長野県・上高地 河童焼

今年も上高地が開山。いよいよ本格的な山シーズンが始まります。5月の上高地の思い出の味といえば『河童焼』。明神から徳沢に咲くニリンソウの大群生を見ようと、朝一番に降り立った上高地。まだ見ぬお花畑に胸が踊り、すぐにでも歩きだそうとする私を呼び止めてくれたのが「河童」でした。

バスターミナル隣接の上高地食堂売店では、上高地の梓川に河童が棲んでいるという伝説にちなみ、河童の顔を型どった今川焼が名物。くりっとした目に見つめられ、食べるのをためらってしまう可愛さです。皮はふんわり系で、あんこカスタードりんごクリームチーズなど味も数種あります。

▲河童橋建設100周年記念として誕生した、つぶらな瞳がなんとも愛らしい河童焼

お腹を満たし、ゆっくりと歩き始めた徳沢までの道のりは、念願のニリンソウはもちろんのこと、水に透けるサンカヨウや白い花が可憐なコナシなど、山の目覚めを感じさせる瑞々しい新緑や花がたくさん。年を重ね、いつか蝶ヶ岳や涸沢へと続く道のりを歩けなくなっても、草花を愛でるためだけに上高地を訪れたいな。そんなふうに感じました。

はやる気持ちを緩めて、上高地でひと息を。梓川、もとい売店に潜む河童をみつけてみてください。

 

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四角友里

「山スカート」を日本に広めた女子登山ブームの火付け役。講演や執筆、山ウエア・ギアの企画開発に携わる。日本全国の山を旅しながら、土地の食や文化を味わうのがライフワーク。
Instagram:@yuri_yosumi

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