映画やメディアで取り上げられたことで、都市伝説陰謀論の代名詞として挙げられるようになった「フリーメイソン」。「フリーメイソン=陰謀論」と考える人も少なくありませんが、実は日本を含め世界各国とフリーメイソンには“密接な関係”があると、東京大学名誉教授の矢作直樹氏と、世界の金融や国際協議の実務にかかわる宮澤信一氏はいいます。連載最終回となる今回は、“世界を統べる者”の正体に迫ります。

日本とアメリカが結んだ「MSA協定」制定したのは…

【宮澤】MSA協定(※)には、非常に高級な理念が盛り込まれています。

1954年3月,アメリカの相互安全保障法(Mutual Security Act)に基づいて締結された四協定。日米相互防衛援助協定・農産物購入協定・経済的措置協定・投資保証協定を総称していう。アメリカは反ソ・反共を目的として,兵器その他の経済援助を与えるが,日本も自衛力の漸増を通じて自由世界の防衛力に寄与することを義務づけられた(コトバンク)。

平和を希求する、相互に豊かになる、日米を含んだ世界各国が平和になるように動く。きわめて高い次元からものごとを考えていて、これはフリーメイソン憲章そのものです。

MSA協定の制定というのは、フリーメイソンでなければできない仕事です。

【矢作】フリーメイソンという言葉が出てきた時点で、陰謀論だ、と言って思考停止してしまう人は少なくないのではないかと思います。それは、フリーメイソンではない人、あるいはフリーメイソンであってもその階層の低い人たちが思い思いに勝手に解釈してしまっているからなんでしょうね。そのせいで、曖昧模糊(あいまいもこ)とした面があるわけです。

世界というものは、理念を共有したいわゆる特定の人が統べている。私は、そう割り切って考えてしまった方がいいと思います。

もちろん、そこから外れているところがないとは言いません。けれど、基本的に世界はその枠のなかで動いてしまっています。重要なのは、理念の共有ということですね。そうなると、そんじょそこらのちょっと頭のいい人が集まって、というわけにはいかないのでしょう。

中華人民共和国」をつくったのはフリーメイソン

フリーメイソンには中華人民共和国の関係者も入っています。中華人民共和国、というよりも中国共産党をつくったのはフリーメイソンですからね。

第二次世界大戦中に中国共産党に金と知恵と武器を渡しました。蒋介石国民党毛沢東共産党の両方にテコ入れしていたのが最終的に中国共産党にシフトして中華人民共和国はできたわけです。

国際連合」をつくったのもフリーメイソン

【宮澤】フリーメイソンは世界を事実上、統合しています。

そのなかで東西冷戦があったりなどする。冷戦時代の東側にもフリーメイソンに加盟している国はありました。

ただし、フリーメイソンは、世界情勢というものに露骨に介入することはやりませんし、できません。暴発や暴走があった時には多少介入することはあるやもしれませんが。

現在、アメリカがフリーメイソンの番頭のような存在になっていますから、アメリカに行かせて地ならしをさせたりなど、そういうことは確かにあります。

おさえておかなければいけないのは、日本で国際連合と呼ばれている組織はフリーメイソンがつくったものであるということです。

国連憲章がありますね。国連の憲法のようなものです。そして、今の国際条約の多くは国連憲章を盛り込んでいます。ということは、各国間で約束として結ばれる国際条約に、フリーメイソンは絡まざるを得ないし、関係せざるを得ないということと解釈した方が合理的です。

「フリーメイソンが世界の経済を牛耳っている」は本当か

【宮澤】都市伝説と呼ばれているようですが、一般的にはよく、フリーメイソンは世界政府の樹立ないし世界統一ないし世界征服を策略している、などと言われるようです。しかし、それはあり得ない話です。

フリーメイソンというのは世界の各文明の智慧者の集まりです。今の時代ではお互いの国ということになりますが、お互いの民族、お互いの文明、お互いの宗教を尊重し合って、喧嘩などせずに仲良く進歩していくということを目指す団体です。

陰謀を図って国と国を争わせるなどという活動は行いません。そのつもりがあるなら、世界征服などはとっくの昔にやってしまっています。だいたい、世界征服ないし世界政府の樹立を行って、いったいどうしようというのでしょう。

フリーメイソンはあらゆる金融に関係し、世界銀行を含めた世界の経済を牛耳っている、という言い方も正しいものではありません。例えば、ある国だけが特別に経済的に強くなると必ず貧乏になる国が出てくるという現実があります。

経済学においても議論がありますが、一方だけが豊かになるということは果たして良いことなのか、という問題があります。

そこで各国の経済をバランシングする、つまり弾力性を持った、お金がちゃんと回る世界経済にするために、フリーメイソンは世界の各銀行の存在と活動を認証する役目を担っています。

逆の見方をすると、フリーメイソンが認証をしてくれなければ、つまりフリーメイソンから認められている銀行でなければ世界で商売ができない、ということです。

その見方からすれば、牛耳っている、という捉え方も可能でしょうけれども、実態は違います。混乱が起きないように識別番号を与えている、というイメージです。

国連の最高職「事務総長」知られざる選定基準

なお、フリーメイソンは利益団体ではありません。フリーメイソンの構成メンバーの内、上にいるのはやはり権力を持っている人が多い。権力にはお金がついてまわりますから、いわゆる莫大な利益というものとフリーメイソンとを関係づけて勘違いしてしまう人も多いのでしょう。

例えば国連の最高職に事務総長というのがあります。2017年からアントニオ・グテーレスが9代目の国連事務総長を務めていますが、グテーレスはポルトガルの政治家で同国の第114代首相を務めていた人です。

アメリカ人が事務総長を務めたことはありません。歴代の事務総長の出身国を見ると、先代の潘基文は韓国、その前のコフィー・アナンはガーナというように、マイナーとでも言ったらいいのか、昔で言えば発展途上国のような小国が多いんですね。

これは、国連をつくったフリーメイソンが平等を重んじているからです。第一次世界大戦の戦後というもの、つまり先進国だとか列強だとか、いわゆる強国の人をトップに据える不平等を痛烈に反省しているのです。

ところが、発展途上国的な小国のなかで権力のある地位に就いた人たちというのは結構な金持ちにはなるのだけれども、いわばあまり質の良くない金持ちなんですね。

そういう人たちが発想するとだいたい悪事につながってしまうということがやはりあって、これはひとつの問題あるいは課題となっているところです。

矢作 直樹

東京大学名誉教授

宮澤 信一

国際実務家

※本連載は、矢作直樹氏と宮澤信一氏の共著『世界を統べる者 「日米同盟」とはどれほど固い絆なのか』(ワニブックス)より一部を抜粋・再編集したものです。

(※写真はイメージです/PIXTA)