犯罪の現場を目撃した際、捜査機関に属しない“一般人”が現行犯を逮捕することができる「私人逮捕」という言葉があります。逮捕の権限をもたない一般人がなぜ逮捕できるのか、どのような条件下で成立するのか、どうやって逮捕するのか…といった「私人逮捕」にまつわるさまざまな疑問について、佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

どんな種類の犯罪でも可能

Q.「私人逮捕」とは何ですか。

佐藤さん「『私人逮捕』とは文字通り、私人、すなわち警察官や検察官などの捜査機関に属していない市民による逮捕のことです。

法律上、私人逮捕が認められるのは、現行犯逮捕(準現行犯逮捕を含む)に限られます。刑事訴訟法213条は『現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる』と定めており、『現行犯人』(現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者)については、捜査機関だけでなく、誰でも逮捕することができるルールになっています。

また、(1)犯人として追跡されたり、呼ばれたりしている(2)盗品や凶器を所持している(3)返り血を浴びているなど、犯罪の顕著な証跡がある(4)声をかけて問いただそうとすると、逃走しようとする―のいずれかにあたる者が、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるときは、『現行犯人』とみなされます。そのため、そうした条件を満たした者についても、私人逮捕ができます(準現行犯逮捕)。

現行犯逮捕や準現行犯逮捕ができる状況は、逮捕者(私人)にとって、『この人(犯人)がこの罪(特定の犯罪)を犯した』ことが明らかであり、無実の者を逮捕してしまうといったリスクが低く、今すぐに目の前の容疑者の身体を拘束する必要性が高い場面です。そのため、裁判官の発する逮捕状も必要なく、私人であっても逮捕することが認められています。従って、例えば、指名手配犯については、今まさに罪を行っているわけではないため、私人逮捕することはできません」

Q.私人逮捕は、実際にどのように行うのですか。

佐藤さん「現行犯人を取り押さえるなどして、身体の自由を一時的に奪います。そして、私人逮捕した場合には、直ちに、身柄を地方検察庁もしくは区検察庁の検察官または司法警察職員に引き渡すことになっています(刑事訴訟法214条)。

なお、殺人罪や窃盗罪など、原則、どんな種類の犯罪でも私人逮捕は可能です。ただし、軽犯罪法違反など、軽微犯罪(30万円以下の罰金、拘留または科料に当たる罪)の現行犯については、『犯人の住居もしくは氏名が明らかでない場合』または『犯人が逃亡する恐れがある場合』に限り、現行犯逮捕(準現行犯逮捕を含む)ができることになっており(刑事訴訟法217条)、私人逮捕の場合も、こうした条件を満たす必要があります」

Q.私人逮捕がなされた場合、逮捕した側、逮捕された側の人はそれぞれ、その後どうなるのでしょうか。

佐藤さん「逮捕した側は、先述したように、直ちに容疑者の身柄を検察官や司法警察職員に引き渡さなければなりません(刑事訴訟法214条)。また、司法巡査より、逮捕した者として氏名、住所、逮捕の事由を聞かれ、必要がある場合には、共に警察署に行くことを求められることもあります(刑事訴訟法215条2項)。

一方、逮捕された側は、私人から警察に身柄を引き渡され、捜査機関が裁判官の発する逮捕状を得て行う『通常逮捕』の場合と同様の手続きに入ります(刑事訴訟法216条)。司法警察員は、留置の必要がないと思えば直ちに釈放し、留置の必要があると思えば、48時間以内に検察官に送致する手続きをします」

Q.私人逮捕をする・しないにかかわらず、犯罪現場に遭遇する可能性は誰しもあると思われます。そうした状況下で意識・注意するべきこととは。

佐藤さん「犯罪の現場に遭遇した場合、自身の身の安全を確保することが最優先です。無理せず、安全な場所に避難し、直ちに110番通報しましょう。

自分で容疑者の身柄を拘束する場合には、自身の身の安全に十分気を付けるとともに、先述した『私人逮捕できる状況』にあるか、冷静に判断することが大切です。また、逮捕する際、容疑者を押さえ込むなど、物理的な力を行使することになりますが、常識に照らして、必要かつ相当な範囲に抑えるようにしましょう。

私人逮捕できる状況にないのに逮捕してしまったり、逮捕の際に行き過ぎた行為があったりすると、逮捕者が法的責任を問われることもあるので、注意が必要です」

オトナンサー編集部

「私人逮捕」どうやるの?