依頼人が違法行為に及ぶことを知りながら止めずに容認したとして、千葉県内の弁護士に賠償を命じた判決が確定した。

この裁判は、別居中の夫(父)が、無断で自宅の鍵を交換し、自宅から妻子の荷物を持ち出して立ち入りをできなくしたとして、妻と子が、夫と夫の元代理人弁護士に対して損害賠償を求めたもの。

今年(2023年)1月31日、千葉地裁松戸支部は計165万円の賠償を命じる判決を下し、被告(夫)の元代理人弁護士のみが控訴していたが、その後に控訴を取り下げ、2月18日で判決が確定した。

●裁判のポイント

この裁判でのポイントとして、依頼人が違法行為に及ぶことについて、元代理人弁護士がどのように関与していたかが問題になっていた。

結論から言えば、裁判所は、元代理人弁護士が積極的に違法行為をすることを容認するアドバイスをしていたものと認定をした。

判決文によれば、問題となった行為は、以下のような内容だった。

・被告(夫)が、元代理人弁護士に対して、妻子が住んでいる自身名義の自宅建物の鍵を交換すること、強硬手段として建物を取り返すことや荷物の搬出を考えている旨のメールを送信

・元代理人弁護士は「もう仕方ないですよね。さすがに内覧妨害をここまでしてきていて、こちらが下手に出続けるのはもう限界ですよね。鍵を交換して被告(夫)が住むようになったら、原告(妻)には帰ってこないように連絡するようにお願いする」旨を回答

判決ではこれらに対し「建物を占有していた原告(妻)の占有権を侵害するものであって、被告(元代理人弁護士)はそれに対して、相当ではなく中止すべきであるなどの助言を行わず、むしろそれを容認するかのような回答を行った」などと認定。

さらに「被告(夫、夫の両親)と共謀したと評価することができ、共同不法行為の責任は免れない」と結論づけた。

なお、被告(夫)の元代理人弁護士は、妻子の所有物がトランクルームに運び出された後、妻の代理人弁護士に対し、鍵を交換して妻子の所有物をトランクルームに運び出したことの報告、妻に自宅に帰って来ないように求める要請、トランクルームに運び出された所有物の妻子側に対する引き渡しに関する協議の申し入れ、これらを内容とするメールを送信していた。

●どんな訴えだったのか

夫は2019年8月末日、不貞相手の女性との不貞行為が発覚した後に別居をはじめ、自宅には妻子が残った。妻は夫婦関係円満調停を申し立て、妻の代理人から夫の代理人に対して、不在中は自宅に立ち入らないように伝えていた。また自宅の売却のための内覧に妻が同意することにも合意していた。

事態が変わったのは、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発出されていた翌2020年4月以降のことだった。

妻は人との接触を減らすように求められているとして内覧を断った。すると夫は、妻子が不在中(子の入院にともなって妻は不在)、玄関と勝手口の鍵を交換した上、父母の協力を得て妻子の所有物を搬出し、千葉県内のトランクルームに移動させた。

この行為について、事前に妻側には不在を確かめる連絡などは一切なかった。

判決ではこれらの行為について、緊急事態宣言下であり、不動産屋も休業中だったため、妻と子らは「すぐに住居を見つけることができず、原告(妻)の職場の上司や妻の代理人弁護士の協力により一時的な住居や必要な生活用具を確保したのであって、これらによる精神的苦痛は多大」「被告の行為が原告の生活に打撃を与える態様でなされた事情に加えて、本件で現れた一切の事情を総合考慮」した上で、原告(妻と2人の子)に対して計165万円を支払うよう命じた。

●一審の裁判所はどう判断したか?

裁判では(1)鍵を変えたこと、荷物を搬出したことについて、夫の元代理人弁護士の共謀が認められるか否か (2)被告らの行為について違法性が阻却されるか、あるいは過失相殺事由があるか否か、などが争われた。

判決では、夫の元代理人弁護士が「被告が荷物を搬出する可能性があることを認識した」日から実際に搬出された日までの間、妻の代理人弁護士に対し、妻が実家に帰宅しているか、内覧のための移動を承諾するか確認することがなかったことを指摘。

夫や夫の父母が搬出、鍵の交換をしたことにつき、夫の元代理人弁護士はそれらについて「容認」していたとして、夫や夫の父母と「共謀したと評価することができ、共同不法行為の責任は免れない」とした。

また、こうした行為が緊急事態宣言下であったこと、子が入院していたことなどから妻が内覧を拒否したことは「責められる事情とは認め難い」として、夫が「自力救済を行うことを肯定する特段の事情は認められず、原告に過失があるとは認めることができない」と判断を示した。

依頼者の違法行為、中止させずに容認 弁護士に賠償命令 一審判決が確定