小売企業が自社のウェブサイトやアプリなどで展開する広告媒体「リテールメディア」が活況を呈している。その広告収入は2028年にテレビ広告を上回るとみられている。ロイター通信が、英広告会社WPP傘下グループエムのリポートを基に報じた。
リテールメディア急伸、世界広告収入の15.4%に
それによると、リテールメディアの世界広告収入は23年に前年比9.9%増の1257億ドル(約17兆5200億円)に達する見通しだ。リテールメディアはその後も順調に伸び、28年にはテレビの広告収入(コネクテッドテレビ含む=ネット接続して動画配信を利用するテレビ)を上回るという。
23年の世界全広告収入(米国の政治広告を除く)は8745億ドル(約121兆9100億円)になる見通しで、このうちリテールメディアが占める比率は14.4%。この比率は28年に15.4%に拡大するとグループエムは予測している。
現在、広告収入の伸びが最も高い媒体は、デジタル・アウト・オブ・ホーム(デジタル屋外広告、DOOH)で、この後にコネクテッドTV、リテールメディアと続く。しかし、DOOHとコネクテッドTVは市場が小さく、リテールメディアに比べればわずかな規模にすぎない。また、23年は、テレビ広告が前年比1.2%減少、音声媒体が同0.3%増加、印刷媒体が同4.8減少すると、グループエムはみている。
小売業者とメーカー、双方に好都合
ロイターによれば、米アマゾン・ドット・コムや米小売り大手ウォルマート、米ディスカウントストア大手ターゲット、仏スーパー大手のカルフール、欧州スーパー大手アホールド・デレーズなどは、大手広告主を自社ウェブサイトに引き付けようと積極的に働きかけている。
これら小売業者にとって、消費者ブランドを手がける大手は重要だ。大手メーカーなどは小売業者のウェブサイトを通じて商品を販売するほか、広告も掲出する。小売業者は販売手数料と広告収入、の2つの収益を得ることができる。
また、大手メーカーなどは、アマゾンなどのウェブサイトで商品の露出を高めようと、より高額の広告枠を購入する傾向がある。これにより、リテールメディアの利益率は最大90%になる場合もある。これは、物価高騰が加速し主力事業が打撃を受ける中、小売業者にとって重要な収入源になるという。
メーカーにとってもリテールメディアは重要だ。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって、電子商取引(EC)になじみが深くなった消費者に効率良く訴求できるからだ。
他社と共有しない「ファーストパーティーデータ」
メーカーにとっては、広告の出稿先を多様化できるというメリットもある。ネット広告市場では、米グーグルと米メタが先行しており、この2社による「複占」状態が続いていると指摘されている。
ターゲティング(追跡型)広告では一般に、ウェブブラウザーの利用履歴をさまざまな企業が共有する「サードパーティークッキー」が使われる。しかし、プライバシー侵害への懸念が広がり、欧州連合(EU)などの規制当局は大手ネット企業による個人データ収集を抑えようとしている。
これに対し、リテールメディアでは、小売業者が自社サイトで独自に収集した購買履歴などの「ファーストパーティーデータ」を利用する。メーカーにとってはプライバシー侵害へのリスクを避けながら、効果の高い広告を出せるというメリットがある。
こうした中、アマゾンやウォルマートの広告事業は好調だ。アマゾンの22年の年間広告売上高は377億3900万ドル(約5兆2600億円)で、前年から21%増加した(アマゾンの決算資料)。
ロイターによると「Walmart Connect」と呼ばれるウォルマートのリテールメディア事業の22会計年度売上高は前年比約30%増の27億ドル(約3800億円)だった(ウォルマートの決算資料)。
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