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 トヨタ自動車静岡県内の東富士研究所で開催した「トヨタテクニカルワークショップ2023」に参加してきた。「電動化」「知能化」「多様化」に関する量産技術が一挙に公開され、各種の電気自動車(EV)を試乗した。そこで感じた「次世代トヨタ」の姿とは?

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

過去に例のない規模で次世代量産技術を公開

「もう、お腹がいっぱいだ」

 そんな言葉が、参加した報道陣の一部から漏れてくるほど、トヨタ東富士研究所で開催された「トヨタテクニカルワークショップ2023」は盛りだくさんの内容だった。

 トヨタ関係者によると、今回のワークショップは今年4月に社長に就任した佐藤恒治氏が率いる新たな経営陣体制の下で一気に準備が進んだという。研究開発のトップであるCTO(チーフテクニカル・オフィサー)の中嶋裕樹副社長が大号令をかけたようだ。

 新経営陣は豊田章男会長の考えを継承し、さらに進化させる方針を示してきた。豊田会長は常々、「もっといいクルマをつくろう」と語り、「クルマ屋らしさ」を追求してきた。そして、カーボンニュートラルに向けてEVだけではなく、ハイブリッド車プラグインハイブリッド車、燃料電池車、水素燃料車などを、国や地域のニーズによって使い分ける「マルチパスウェイ」という戦略を進めてきた。

 こうした事業戦略についてはこれまでも豊田会長の口から語られてきたことだった。だが、報道陣からは「事業の全体方針だけではなく、技術開発の詳細についても知りたい」という声が上がっていた。今回のワークショップは、新経営体制による事業方針説明会や決算発表を終え、6月14日株主総会の1週間ほど前というタイミングでの開催となった。

 ワークショップでの取材に関する情報の解禁は、株主総会前日の6月13日早朝に設定されていた。関連の報道が一斉に配信されると、トヨタの株価は上昇した。「次世代トヨタ」を技術面からも株主や投資家にアピールしたいという、新経営陣の思惑が当たったわけだ。

 では、ワークショップで何が披露されたのか、具体的に触れていきたい。

ズラリ並んだ開発中の次世代車

 ワークショップは、「電動化」「知能化」「多様化」に関する部品などの技術展示と、各種車両の試乗という大きく2つに分かれていた。筆者はまず、日野自動車の大型ディーゼルトラックの助手席に乗り、次に大型の燃料電池トラックの助手席に乗り換えるところから試乗を始めた。

 当然のことだが、燃料電池車は「水素を燃料にした電気自動車」である。そのため、ディーゼルエンジンが起こす振動はなく、音もとても静かだ。低速域からアクセルを踏み込むと、大型トラックにもかかわらずモーターによる強いトルクで一気に加速していった。こちらは量産を目指す実験車両である。

 次に、燃料電池の小型トラックを自ら運転した。こちらもモーター駆動による力強い走りを実感した。小型トラックといっても、乗用車と比較するとボディサイズはかなり大きい。中型トラックといってもいいくらいだが、大きさはあまり気にならず快適な走りを体感できた。ワンボックスカーの商用バン「ハイエース」を運転しているようなイメージで、ステアリングの軽快さを感じた。これと同じ仕様の車両は現在、実用化に向けて都内などで実証実験をしている。

 燃料電池トラックといえば、日野自動車三菱ふそうトラック・バスの経営統合発表会において、気になる発言があった。

トラックEVは小型まで、中大型は燃料電池

 ダイムラー・トラックのマーティン・ダウム最高経営責任者(CEO)が「中大型トラックはEVではなく燃料電池が今後、主流となる。EVトラックは(三菱ふそうの小型トラック)『eキャンター』程度のサイズまでだ」とコメントしたのだ。ドイツなど欧州では2010年半ば以降、大型EVトラックの実用化に向けて、超高出力の急速充電による実証実験を行っていた。そのため、今回の発言は事実上の方針転換に思えた。

 トラックにおける燃料電池車とEVのすみ分けについて、トヨタの開発担当者は「中大型トラックにEVを採用すると重い電池を運ばなければならず効率が悪い。(今後、電池技術がさらに進化しても)当面は小型トラックのeキャンター程度のサイズまでが妥当」という見解を示した。

 このほか、ダイハツの商用軽バンEVとピックアップトラックの「ハイラックス」のEVも運転した。こちらもEVらしいしっかりとした加速感や車内の静粛性などがあり、量産レベルの出来映えであった。

 また、水素を燃料として使うレクサス「LX」も試乗した。こちらはまだ初期開発段階の車両だった。そのため、エンジンの低回転域でトルクが弱い印象があった。それでもエンジンの吹き上がりはよく、操縦安定性は従来のエンジン車とあまり大きな差は感じなかった。

クラウンのEVはほぼ量産レベルの完成度

 広大な敷地のトヨタ東富士研究所で、場所を移して今度は乗用車のEVを試乗した。

 興味深かったのは、 レクサス「UX」をベースにしたEVで、MT(マニュアルトランスミッション)仕様の車があったことだ。

 通常のMT車のように、クラッチペダルと6速シフトレバーを持つ。EVなので当然、機械式のクラッチ機構は必要ない。そのため、シフトチェンジの感覚や各ギアでの加速感・減速感、音などをソフトウエアによって演出している。

 だが、演出といってもゲームのような印象はなかった。「本当にMTなのか?」と思うほど巧妙に制御しており心底驚いた。

 EVでは「走りの楽しさが薄れる」というイメージを抱くドライバーも少なくない。そうしたドライバー向けにも、こうしたEVのMT仕様車はぜひ量産化してほしい。開発者は「今回の報道陣からの意見も踏まえて、量産を検討したい」と前向きな姿勢を見せた。

 また、「クラウン」の外観をしたEVにも試乗した。

 この実験車両は「マルチパスウェイプラットフォームBEV」と呼ばれていた。「BEV」とは完全にバッテリーだけで駆動する電動車のことだ。

 現在のクラウンなど、最新のトヨタ乗用車は「TNGAトヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」というプラットフォームを採用している。TNGAはエンジン車やハイブリッド車プラグインハイブリッド車、EV、さらに水素燃料車など、多様なパワートレインに対応する。つまり、TNGAによってトヨタが追求している「マルチパスウェイ」が可能であることを、クラウンEVで改めて示した格好だ。

 今回の実験車両は、時速60km程度でステアリングを左右に連続して大きく切りながらの走行でも、ドライバーとクルマとの一体感がしっかり感じられた。ハンドリングと乗り心地は「ほぼ量産レベルの完成度」であった。

全固体電池は28年までに量産開始

 ワークショップ後半、トヨタ社内に新たに発足したBEVファクトリーの加藤武郎プレジデント、水素ファクトリーの山形光正プレジデント、さらに中嶋副社長による次世代技術の事業に関するプレゼンテーションがあった。

 その中で、EVについては2028年までに、5種類の液状および全固体のリチウムイオン2次電池を量産することにチャレンジすると明かした。また、水素については商用向けの燃料電池車を主体として、乗用車ではEVやハイブリッド車のほか、燃料電池車や水素燃料車向けを視野に入れた新しい形状の水素タンクの研究開発を進めるとした。

 トヨタ2030年に年間350万台のEVを販売することを目標に掲げているが、そのうち170万台をBEVファクトリーが開発するという。それは、車両製造方法を抜本的に見直した次世代EVとなる。残りの180万台については、TNGAを使う「マルチパスウェイプラットフォームBEV」と、トヨタが2022年に発売したEV「bZ4X」から採用しているEV専用プラットフォーム「e-TNGA」を使う方針を示した。

 2026年の段階では、EVの年間販売台数を150万台とするという方針は維持した。ここには、前述のクラウンEVなども含まれる可能性が高いと思われる。

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テクニカルワークショップで説明するトヨタ自動車の中嶋裕樹副社長(写真:トヨタ自動車)